(2)宇治川断層の活動性や活動履歴の検討

断層の上盤と下盤の地層に,共通する層準が複数確認された.一部は広域指標火山灰で年代値がよく知られている.他の層準の年代値については,大阪層群海成粘土との対比などで,層準の年代値を決め,確かな年代値,不確かな年代値に分けて表1−3に示した.この層準を基準に宇治川断層の鉛直平均変位速度や断層上下盤側の平均堆積(沈降)速度を検討し,表1−3図1−23に示した.

A.最新活動時期

7.3ka(ka=千年前)のK−Ah火山灰や4.7kaと推定されるHo火山灰(24)および3.1kaのKg火山灰層準の標高を基準とすると,断層間での高度差はそれぞれ1.9m,1,1m,1,8mである.Ho火山灰の差が他に比べてやや小さいが,他は2m弱でほぼ同じと見なせる.火山灰はほぼ水平な地形面に降灰し,堆積したと考えられる.従って,これら高度差は,同じ地震で,北側隆起の変位を受けた結果と解釈できる.最新の地震活動は,カワゴ平火山灰の降灰時以降である.同断層に関する歴史被害地震の古文書が残されていないことから,古文書が多くなる約千年前より以前に活動があったことは確実であろう(図1−15).

文献

(24)福岡孝,松井整司(2002):AT降灰以降の三瓶山噴出物の層序.地球科学,105−122.

B.単位変位量と活動間隔および活動度

(a)単位変位量

上記の高度差から1回当たりの鉛直変位量は2m弱で,水平変位量は不明である.

(b)鉛直平均変位速度と活動間隔および活動度

25~28kaの姶良丹沢火山灰層準は4m変位し,2回の変位(地震活動)を受けていると解釈される.1回前の活動時期の特定ができないので,活動間隔は決まらない.仮に姶良丹沢火山灰(25−28ka)以降で最新活動時期(1−3ka)までの中間時を活動間隔とすると,1万2.5千年程度が試算される.この値で,鉛直平均変位速度を求めると,0.16m/千年程度で,活動度B級下位と推定される.

これは最近の姶良丹沢火山灰以降の活動から推定されたものであるが,本調査で,少なくとも520ka(サクラ火山灰)以降の断層の活動履歴が解明されている.表4−2中の姶良丹沢,BT74,サクラ火山灰の年代値は他のものより,信頼できるので,それを基準に平均変位速度を求め,図4−23に示した.姶良丹沢火山灰以前からBT74火山灰以降までの約333ka間の断層の平均変位速度は0.09m/千年である.姶良丹沢火山灰以前からサクラ火山灰以降までの493ka間では0.12m/千年となる.二つの数字は近似し,信頼できると思われる.前述の姶良丹沢火山灰以降の平均変位速度を考慮すると,宇治川断層の平均鉛直変位速度*は0.09?0.16m/千年となるが,長期間のデータから推定した0.09~0.12m/千年の値が信頼出来る.この値と単位変位量から平均活動間隔を求めると,1万7千~2万2千年となる.

これら検討から,宇治川断層は少なくと,52万年前以降の活動度はB級最下位〜C級最上位程度で,ほぼ一定の鉛直平均変位速度(0.09~0.12m/千年)で活動していたと推定される.平均活動間隔は1万数千年〜2万数千年で,52万年前以降の累積変位量を45~60mと見積もることができる.

[注 変位速度や堆積速度の推定で,シルトの圧密効果を考慮していないが,サクラ火山灰層準以浅は圧密を受けにくい礫や砂が卓越する.ここでの平均堆積速度は堆積と浸食の総和を示す.]

C.上下盤の堆積(沈降)速度

上下盤のBT74(Ma10)層準以浅から姶良丹沢火山灰層準までの平均堆積速度と,それ以深の平均堆積速度には明瞭な差異が認められる.すなわち,上盤側No.1のBT74以深では,0.43m/千年の平均堆積速度であるのに対し,以浅では0.03m/千年と大変小さくなる.下盤側No.3のBT74以深では,0.63m/千年であるが,以浅では0.11m/千年と,ここでも以浅の速度は小さくなる(図1−23).

このような平均堆積速度の変化は,層相にも反映していると見なせる.すなわち,各ボーリングのBT74以深の層相は,砂シルトが比較的多いが,以浅で姶良丹沢火山灰層準まで礫層が卓越し,堆積速度の大きい沈降域とそうでない場所の差異が層相に現れてる.

このように,宇治川断層を境に上盤側の京都盆地北部と下盤側の南部の分化と沈降は,少なくとも約70万年前以降から活発であった.沈降については,36万年前以降その速度は,それ以前の10~20%まで減少することが明らかとなった.沈降速度に現れた応力場の変化が地域的なものなのか,広域的なものなのかについては,より多くの資料の蓄積と検討が必要であろう.