(3)花粉分析

主としてNo.3のV層中の比較的厚いシルトを対象に分析した.花粉構成から下位からT~X帯に区分した(図1−17表1−1).

T,U,W,X帯における花粉化石群集は,現在の植物分布からみると,寒冷な地域(亜寒帯:亜高山帯)のトウヒ属,モミ属,マツ属が少なくて,主に温暖な地域(温帯〜暖温帯)のアカガシ亜属,スギ属,コウヤマキ属,ブナ属などが優占する.さらに,暖かな地域(暖温帯〜亜熱帯)のサルスベリ属やフウ属も産出する.温暖な気候であったと推定される.以下に各帯について述べる.

A.T帯(No.3,標高−168.9~−187.9m,4試料)

下部(a亜帯No.3標高−186.9〜−187.9m,2試料)ではブナ属が優占し,アカガシ亜属,コナラ亜属,ニレ属−ケヤキ属,サルスベリ属からなる暖温帯性の広葉樹林であり,上部(b亜帯No.3標高−168.9〜−169.9m,2試料)ではコウヤマキ属やスギ属などの温帯針葉樹が分布を広げたと推定される.スギ属の分布拡大は降水量の増加によるものと推定される.なお,フサモ属の産出により湖沼などの水域の環境が推定される.

B.U帯(No.3標高−139.9~−140.9m,2試料)

スギ属が優占する温帯針葉樹林であり,ハンノキ湿地林も分布していたと推定される.

C.V帯(No.3標高−127.9~−129.9m,2試料)

花粉化石が充分でなく,古環境について判断し,難い.

D.W帯(No.1標高−30.4~−31.4m,2試料,No.3標高−71.9~−98.9m,9試料)

下部(a亜帯No.3標高−97.9~−98.9m,2試料)ではアカガシ亜属からなる暖温帯常緑広葉樹林が分布しいた.中部(b亜帯No.3標高−84.9~−86.9m,3試料)では暖温帯常緑広葉樹林がやや衰退してコウヤマキ属,スギ属,フウ属などが分布を広げたと推定される.上部(c亜帯No.3標高−71.9~−74.9m,4試料)ではブナ属が優占しニレ属−ケヤキ属,サルスベリ属などからなる落葉広葉樹林が分布を広げたと推定される.中・上部ともにフウ属とサルスベリ属の分布により暖温帯〜亜熱帯の暖かな気候が推定される.

E.X帯(No.2標高−27.3~−28.3m,2試料,No.3標高−40.1~−42.9m,4試料)

下部(a亜帯No.3標高−42.9m,1試料)ではコナラ亜属が優占し,ニレ属−ケヤキ属,サルスベリ属,ブナ属,コウヤマキ属からなる暖温帯針・広混交林であった.中部(b亜帯No.3標高−4085~−41.9m,2試料)では花粉化石の保存・産出が悪いが,サルスベリ属を産出することから温暖な気候であったと推定される.上部(c亜帯No.2標高−27.3~−28.3m,2試料,No.3標高−40.1m,1試料)ではスギ属が優占する温帯針葉樹林であり,ハンノキ湿地林も分布していたと推定される.分析結果と火山灰層序を参考に,U帯?Ma7層,W層?Ma9層,X層?Ma10層に対比した.