(3)考察(古環境について)

No.1ボーリングの深度1.3mと9.1m試料は,花粉化石を産出しないので古環境および堆積年代の解析は困難であるが,その他の試料については以下のような解析を行った。

1)No.1ボーリング

・深度10.1m試料と深度10.5m試料

深度10.1m試料におけるトチノキ属の多産は,同定したトチノキ花粉の中に花粉塊となったものが認められたこと,トチノキ属が虫媒花であり風媒花と比べて生産量と飛散力が小さいことから近傍にトチノキ属が生育していたことによると考えられる。トチノキは主に山地の縁や渓谷などに沿って分布するが,調査地の地形環境(山地の縁で桂川とその支流に挟まれている)はこれと調和するものであり,この点からも指示されよう。このことを考慮すると深度10.1m試料と深度10.5m試料は,スギ属とモミ属が主に産出し,コウヤマキ属,マツ属,ブナ属,コナラ亜属,アカガシ亜属,ニレ属−ケヤキ属,シイノキ属などを伴うという類似した花粉化石群集になる。一般に,針葉樹のモミ属の多産からは亜寒帯性針葉樹林が類推されるが,試料からは温帯針葉樹のスギ属が多産すること,常緑広葉樹のアカガシ亜属とシイノキ属を伴うことなどから,多産するモミ属花粉は温帯に分布する種(おそらく,Abies firma(モミ))と推定される。古植生は,モミ属,スギ属からなる温帯針葉樹林と推定され,暖温帯に分布するシイ・カシ類も分布していたと推定される。温帯性の湿潤な気候が推定される。

・深度11.1m試料

本試料の堆積した頃は,常緑広葉樹のアカガシ亜属が優占することから,カシ類からなる暖温帯照葉樹林が発達していたといえよう。この森林にはモミ属,スギ属,コウヤマキ属,ニレ属−ケヤキ属,トチノキ属などの木本植物が分布していたと推定される。古気候は暖温帯性と推定される。

2)No.2ボ−リング

・深度9.7m試料

本試料の堆積した頃は,温帯針葉樹のスギ属,コウヤマキ属,モミ属,落葉広葉樹のブナ属,コナラ亜属,ニレ属−ケヤキ属,トチノキ属,常緑広葉樹のアカガシ亜属,シイノキ属などが分布し,針葉樹と広葉樹が混交して温帯林を形成していたと推定される。

・深度10.6m試料

本試料の堆積した頃は,常緑広葉樹のアカガシ亜属が優占することから,カシ類からなる暖温帯照葉樹林が発達していたと考えられる。この森林にはモミ属,スギ属,ニレ属−ケヤキ属,トチノキ属などの木本植物が分布していたと推定される。

3)No.4ボーリング

・深度13.4m試料

本試料の堆積した頃は,針葉樹のニヨウマツ類が優占し,落葉広葉樹のブナ属,常緑広葉樹のアカガシ亜属などからなる針葉樹と広葉樹が混交した森林であったと推定される。この森林には,針葉樹のトウヒ属,落葉広葉樹のクルミ属,コナラ亜属,ニレ属−ケヤキ属,トチノキ属なども分布していたと推定される。アカガシ亜属が生育していたことから暖温帯性の気候が推定される。

・深度14.7m試料

本試料の堆積した頃は,温帯針葉樹林のスギ林が形成されていたと推定される。この森林には,針葉樹のモミ属,ツガ属,常緑広葉樹のアカガシ亜属,暖帯に分布する落葉広葉樹のサルスベリ属などが分布していたと推定される。古気候は温帯〜暖温帯と推定される。