2−2−4 フィッショントラック年代測定

火山灰や岩石中に含まれるジルコンやカンラン石,火山ガラスなどの鉱物には,微量ながらウランが含まれており,天然ウラン中の99.3%をしめる238Uは,ごくまれに原子が自発核分裂を起こす。この自発核分裂によって生じた238Uの核分裂片(フィッション)が岩石中を通過するとき飛跡(トラック)を残す性質を利用して年代を求めるのが,フィッショントラック法である。

フィッショントラックは岩石が生成したときから蓄積し始めるので,内部に残っている238Uの量とフィッショントラックの数から岩石の年代を計算することができる。さらに,フィッショントラックは熱によって消失するので,人為的な加熱や火山の噴火後に形成されたトラック数からそれより後の年代を知ることができる。約1万年より古い年代が測定可能であり,10万年以上前の年代測定によく用いられる。

@ 前処理(ジルコンの場合)

粉砕した岩石試料や火山灰を60〜200メッシュでふるい分けを行い,ふるい分けした試料の中で軽い粒子を,水ひにより除去する。得られた試料を重液(ブロモホルムなど)に浸して重鉱物を取り出し,取り出された重鉱物をアセトンやアルコールなどで充分洗浄する。得られた重鉱物試料は,ハンドマグネットにより強磁性鉱物を除去し,電極分離器を用いてジルコンを得る。

火山ガラスの場合は,加熱を避けること以外はとくに注意する点はない。

A 測定

前処理により得られた鉱物を上下に切り分け,下の部分の切断面を研摩し,研摩面に誘導核分裂によるトラックを検知できるフィルム(雲母の薄層など)を貼付けて,原子炉の中で中性子を照射する。この時,238Uは影響を受けないが235Uは誘導核分裂を起こし,この核分裂による飛跡(トラック)は,鉱物内から研摩面を横切って検知フィルムにも痕を残す。この後,研摩面をエッチングすると,238Uの自発核分裂によるトラックと235Uの誘導核分裂によるトラックの両方があらわれる。一方検知フィルムには235U誘導核分裂によるトラックのみがあらわれる。誘導核分裂によるトラック数からは鉱物内のウランの量が分る。238Uの自発核分裂によって生じたトラック数と比較すると,フィッショントラック年代が求められる。