(3)火山灰分析

ボーリングコアの記載ではKA−2孔の深度61.7m付近,KA−3孔の深度8.27〜8.47m,KA−3孔の深度32.5m付近に火山灰層を確認した。それぞれの火山灰層の特徴は以下のとおりである。

・KA−2,深度61.7m付近:層厚5cm程度の白色細粒な火山灰

・KA−3,深度8.27〜8.47m:層厚20cm程度の灰黄色細粒な火山灰

・KA−3,深度32.5m付近:層厚2cm程度の灰白色細粒な火山灰

火山灰の屈折率測定と火山ガラス等の形態観察などから,これらの火山灰層を指標火山灰と対比した。また,ボーリングコア試料を連続的にサンプリングして火山灰分析を行い,いくつかの火山灰の降灰層準を推定した。同定した火山灰層および火山灰の降灰層準を以下に記す。

a) KA−2孔,GL−4.6m(鬼界アカホヤ火山灰[K−Ah],降灰層準)

KA−2孔ではGL−5.4m以浅では下位の層準に比べ火山ガラスの含有量が多く,GL−4.6mでピークを示し15,000粒子中に約300個の火山ガラスを含む(図3−3−4表3−3−6)。火山ガラスは水和不良で屈折率が1.497〜1.500(モード1.497〜1.498)のものと,水和した1.509〜1.511のものが混在する。火山ガラスの形態と屈折率から,前者はAT火山灰起源,後者はK−Ah火山灰起源と考えられる。当孔ではGL−4.6m以深にK−Ah起源の火山ガラスが含まれないことからGL−4.6mをK−Ah火山灰の降灰層準とした。

b) KA−2孔,GL−23.5m(BT−21火山灰[BT−21],降灰層準)

KA−2孔のGL−14.0〜23.5mでは火山ガラスはほとんど含まれないが,火山灰起源の斜方輝石と角閃石を多く含む(図3−3−4表3−3−6)。斜方輝石は15,000粒子中に約10粒子含まれ,角閃石は15,000粒子中に約80粒子含まれる。斜方輝石の屈折率は1.695〜1.707(モード1.702〜1.703)で,角閃石の屈折率は1.670〜1.691と屈折率の範囲は広いもののモードは1.681〜1.684の範囲である。

琵琶湖高島沖コアでは阿蘇4火山灰(Aso−4)と三瓶池田火山灰(SI)の間に大山起源と考えられる斜方輝石と角閃石を主体とした火山灰が挟在し(図3−3−3),「BT−16〜21」と呼ばれている(吉川・井内,1991)。BT−16〜21の有色鉱物の屈折率は公表されていないが,当孔のGL−14.0〜23.5mに含まれる斜方輝石と角閃石の屈折率はBT−16〜21火山灰の屈折率とほぼ一致する。

これらの火山灰起源の有色鉱物が多く含まれる層準の基底部をBT−21火山灰の降灰層準とした。BT−21火山灰の降灰年代に関する調査研究はなされていないため,本報告書では図3−3−3などを参考にBT−21火山灰の年代を約80kaと仮定してとりあつかった。

c) KA−2孔,GL−61.7m(小田火山灰[Oda],火山灰層)

KA−2孔の深度61.7m付近では層厚5cm程度の白色細粒な火山灰が挟まれる。鉱物組成は火山ガラスが1,000粒子中830個含まれ,有色鉱物として斜方輝石を含む(図3−3−4表3−3−6)。火山ガラスは新鮮なパミスタイプのものが多い。火山ガラスの屈折率は1.502〜1.506(モード1.504〜1.505)で,斜方輝石の屈折率は1.707〜1.713(モード1.709〜1.710)である。

火山ガラスの形態,組成的な特徴,火山ガラスと斜方輝石の屈折率,から約42〜45万年前の小田火山灰(Oda)と判定した。

d) KA−3孔,GL−4.0m(鬼界アカホヤ火山灰[K−Ah],降灰層準)

KA−3孔ではGL−4.4m以浅では下位の層準に比べ火山ガラスの含有量が多く,特にGL−4.0m以浅では15,000粒子中27粒子以上と顕著な増加傾向にある(図3−3−5表3−3−7)。火山ガラスは大きな発泡壁が残存する水和不良なバブルウォールタイプで屈折率が1.497〜1.500(モード1.498〜1.499)のものと,同じくバブルウォールタイプで水和良好な屈折率1.508〜1.511(モード1.509〜1.510)のものが混在する。火山ガラスの形態と屈折率から,前者はAT火山灰,後者はK−Ah火山灰に対比されると考えられる。AT火山灰は一般にその上位の地層中に希釈されることが多いことから再堆積したものと考えられ,当該深度以深ではK−Ah火山灰が含まれないことから,火山ガラスの含有量が多くなる深度4.0mをK−Ah火山灰の降灰層準とした。

e) KA−3孔,GL−8.47m(姶良Tn火山灰[AT],火山灰層)

KA−3の深度8.27〜8.47mでは層厚20cm程度の灰黄色細粒な火山灰が挟まれる。火山ガラスの含有率は1,000粒子中900粒子以上である。火山ガラスはバブルウォールタイプで水和良好なものが多く,火山ガラスの屈折率は1.497〜105.1(モード1.409〜1.501)であり,AT火山灰と判定した。

f) KA−3孔,GL−32.5m(鬼界葛原火山灰[K−Tz],火山灰層)

 KA−3の深度32.5m付近では層厚2cm程度の灰白色細粒な火山灰が挟まれる。火山ガラスの含有量は1,000粒子中900粒子以上で,その他に斜方輝石およびβ石英を含む。火山ガラスはバブルウォールタイプで,屈折率は1.497〜1.501(モード1.499〜1.500)である。

火山ガラスの形態および屈折率と,特徴的なβ石英を含むことからK−Tz火山灰と判定した。

g) KA−3孔,GL−93.0m(小田火山灰[Oda],降灰層準)

KA−3孔の深度92.5〜93.0mでは火山ガラスの含有量が15,000粒子中59〜95粒子含まれ,斜方輝石や角閃石などの有色鉱物も含まれる。火山ガラスは表面に小さい穴を伴うバブルウォールタイプと新鮮なパミスタイプのものが混在する。火山ガラスの屈折率は,ガラス表面に小さい穴を伴うバブルウォールタイプのものは屈折率1.497〜1.501(モード1.498〜1.499)で,新鮮なパミスタイプのものは屈折率1.502〜1.506(モード1.503〜1.505)であり,屈折率の範囲にはやや幅がある。斜方輝石の屈折率は1.703〜1.714であるが,明瞭なモードはみられない。角閃石の屈折率は1.669〜1.682,1.690〜1.695と広い分布範囲を示し,明瞭なモードはみられない。

本層準では複数の火山灰が混在していると見られるが,新鮮なパミスタイプの火山ガラスを含むこと,パミスタイプの火山ガラスの屈折率から,Oda火山灰が含まれると推定される。ただし,斜方輝石や角閃石の屈折率は広い範囲を示し,明瞭なモードが見られなかった。そこで,KA−2孔の深度61.7mの試料,KA−3孔の深度92.5mの試料,鹿児島県姶良郡隼人町小田のOda火山灰模式地の試料の火山ガラスの主要9成分の含有量をEPMA法(EDS)により測定し,主成分組成を求めた(表3−3−8表3−3−9表3−3−10)。上記3試料の火山ガラスの主成分化学組成はほぼ一致し,本層準に含まれるパミスタイプの火山ガラスはOda火山灰であると判断した。

上記分析結果からKA−3孔のGL−93.0mを約420〜450kaのOda火山灰の降灰層準とした。