5−7 越畑盆地内の断層露頭

5−5でも前述したように、越畑盆地の開析した谷中に中位段丘を切る断層露頭が発見された(図5−20)。よって、1m間隔で水糸を張り、縦約3m、横7.5mの範囲を1/10スケールのスケッチを行い、記載を行った。露頭地点は嵯峨樒原の西方河谷中で、露頭から直上の段丘面まで約25mである。露頭スケッチを図5−21及び付図3に示し、層序区分図を図5−22、露頭写真を図5−23及び付図4に示す。

●断層露頭観察結果

 今回の調査では、断層面として明瞭に認識でき、地形判読結果から予想された地点に層相の異なる地層が接している不連続面を確認した。露頭の層序区分を説明するために、大きく崖錐層と他の2つのユニットに大別し、以下に説明する。

ユニット2:この露頭中に特徴的にマンガンが濃集しているE層と、淘汰の良いシルトから構成されているG層は走向N35〜40E、傾斜32〜68Nを示し、ユニット中央部において西側に約66cmずれた不連続面が観察された。不連続面には両層の引き延ばされたような水平の薄い層が観察された。この不連続面の西側延長にも水平なシルト質の薄層が礫層(D層)中に約50cm観察されるが、その延長部は不明瞭となる。不連続面は東に行くに従って、水平から東傾斜を伴いながら、河床に近づくほど垂直に立ってくる。しかし、河床近くは近似した礫混じりシルト層(H層)どうしが接していることより、断層面は不明瞭となる。

E層より上位の礫層D層は、特に不連続面よりも上部で、E層の走向と礫のインブリケーションは調和的なことが認められた。しかし、不連続面より下部においてはそれほど明瞭ではない。

また、不連続面の走向はN10〜20Wを示し、この断層露頭の走向と周辺の空中写真から判読される走向とはやや調和的である。

 この不連続面は当ユニットが堆積した後に変位した結果、形成されたと考えられ、断層面である可能性が高く、東側が西側に覆い被さるような逆断層タイプの形態を示している。ただ、66cmの水平変位は見かけ上の変位量であり、E及びG層の実際の変位量は約60cmの値が見積もられる。しかし、露頭全体の変位量は当水平変位とD層の垂直成分の変位量を加味しなければならない。H層の最上部はA層によって削られており、正確な値は測定できなかったが、スケッチ上見積もるならば、約2〜2.5m程度の垂直変位を見積ことができる。

ユニット1:D層は当層の西側で、マンガン濃集層を境にして、西側にも層相の異なる礫層のユニットと傾斜をもって接している。このユニットはマンガン濃集層の斜面の上に堆積したような堆積相を示し、不整合に堆積した堆積物である。

よって、ユニット1と2の関係は断層運動により、ユニット2のそれぞれの層に変位・変形を伴い、地形として撓曲崖が形成された。その後、ユニット1が堆積したと考えられる。

 当断層運動の活動時期は変位した後に堆積した、ユニット1と2の境界部のマンガン濃集層中に含まれていた木片の炭素放射性年代が示すものと考えたが、40±90年と現代を示しており、ユニット2は極最近に堆積したものである。この値は有史以来、この規模の断層変位を伴う地震の記録は残っておらず、不適切であると考えられる。よって、活動時期については不明である。さらに、露頭中に含まれるシルト層(G層)は強風化を受けた火山灰と判断され、分析を行ったが、火山ガラスを抽出することはできなかった。よって、ユニット2の堆積年代も不明である。

●層 序 記 載

A:表土及び植生

人頭大のチャートを主体とする角礫がまじる。マトリックスは非常に軟らかい。

ユニット2

B:礫質砂

マトリックスが多く、礫分は30パーセント程度になる。基質は細礫から細粒砂と淘汰は悪く、脆い。

C:砂礫層

1〜3cm程度のチャートを主体とする角礫が濃集し、全体に西側の傾斜を示す。

ユニット1

D:礫     層

φ1〜12cmのチャートを主体とする角礫層。層厚1m。締まり具合は密である。

E:礫     層

φ0.5cmのチャートを主体とする角礫層。層厚3cm程度。マンガンが濃集し、黒色を呈する。断層の変位を明瞭にする、鍵層。

F:礫混じりシルト

淘汰の悪いシルトを主体とし、チャートφ2〜30mmの角礫混じる。層厚1〜15cm。

G:シルト

茶褐色を呈する淘汰の良いシルト層。断層の変位を明瞭にする、鍵層。

火山灰が含まれていると考えられる。

H:礫混じりシルトおよび礫混じり砂

礫混じりシルトおよび礫混じり砂が撓曲に沿うように互層する。

礫混じりシルト

シルト部は茶褐色を呈し、良く締まる。礫はチャートを主体とする角礫。

礫混じり砂

砂部は細粒〜極細粒であり、灰白色を呈する。良く締まる。