(1)垂直変位量

立田山断層の過去の活動を知るために、断層両側に分布する地層の分布高度差を求めた。

データは古いものから順に示す(高度差の単位は m)。

(1) 金峰山火山岩類(基盤)(約 120万年前)

@ 麻生田地区のボーリングデータ(ボーリング孔間 59 m)

清水町麻生田地区における 2 点のボーリング調査(立田山断層を挟んで両者の距離は 59 m)によって、金峰山火山岩類上面の分布高度差は北西低下の 52.1 m である。

表3−5−2−1

A 独鈷山地区のボーリングデータ(ボーリング孔間 56 m)

独鈷山地域のボーリングデータによる金峰火山岩類上面の高度差は 13.7 m である。

表3−5−2−2

(2) Aso−3・4 間堆積物(12〜9万年前)

熊本城における Aso−3・4 間堆積物の分布高度差は次のとおりである。

B 熊本城地区

表3−5−2−3

(3) Aso−4 火砕流堆積物(9万年前)

Aso−4 火砕流堆積物では、3 地区(麻生田、熊本城、独鈷山)でデータが得られた。

C 麻生田地区のボーリングデータ

表3−5−2−4

D 熊本城地区のボーリングデータ

表3−5−2−5

E 独鈷山地域のボーリングデータ

表3−5−2−6

その結果は、それぞれの地域での高度差は下記のとおりである。

麻生田地区 上面で約 15.5 m 、下面で約 31.2 m

熊本城地区 上面で約 2.4 m 以上、下面で約 13.3 m(上面は人工改変されている)

独鈷山地区 上面で約 6.2 m 、下面で約 13.7 m

(4) 託麻砂礫層・段丘面

F 上南部町の F−3 断層を挟んで、託麻高位面に約 15 m の高度差がみられる。

(5) 保田窪砂礫層・段丘面

G 済済黌高校正門前において、立田山断層を挟んで保田窪面に 5 m の高度差がある。

(6) 褐色ローム層

H 清水町麻生田地区において、褐色ロームが前述の断層(図3−2−16)に沿って、北側低下の、垂直変位量が 1 m あった。

(7) 崖錐堆積物

I 花岡山の北西崖下(東肥自動車教習所)において、崖錐面に最大高度差が 7 m の崖地形があった。人工改変の可能性が高い。

(8) 有明粘土層

J 花粉 A 帯上面(6,700 年)および下面(8,090年)の高度差はそれぞれ約 2.3 m および 4.0 m であり、いずれも北側低下であった。

K A 帯の上位に認められるアカホヤ火山灰(6.300年)も、北側低下で 1.1 m の高度差があった。

L 花粉帯 C 帯上面(5,700 年)の分布高度差は 0.77 m であった。

M 一方、音波探査により島原湾底の完新世堆積物を切る複数の断層が分布し、その最大累積量は 5 m であった。

(9) 沖積層上面(沖積面)

N 熊本市坪井四丁目の見性禅寺の北側の沖積面と境内の高度差(石垣)は 0.5〜0.8 m で、北側低下である。この高度差のある間を断層が通過するものと判断した。

これらの高度差を垂直変位量とみなすためには、もともと地層の上面が水平であったことが必要である。一般には、このことは明確ではないが、ここでは高度差を垂直変位量とみなして、表3−5−1−1表3−5−1−2)、図3−5−1 を作成した。基準年代は有明粘土層については上記のものを、その他は下記のものを使用した。

金峰山火山岩類(外輪山) 1200 ×10(唐木田ら、1992)

Aso−3・4 間堆積物 120〜90 ×10

Aso−4 火砕流堆積物  90 ×10

託麻砂礫層          90 ×10(渡辺ら、1995)

保田窪砂礫層 50〜40 ×10(渡辺ら、1995)

褐色ローム 22 ×10

崖錐堆積層  20 ×10

沖積層