(2)探査仕様

比抵抗法と強制分極法の探査法は以下の通りである。また、特に電極配置をダイポール・ダイポール法を使用したが、その理由も以下に記載する。

@ 地表に測線をはり、この上に設置した一対の電流電極と、これとは離して設けた一対の電位電極を用いて行う(図2−2−11)。

A 電流電極から直流電流を流し、2つの電位電極間の電位差を測定する。電流電極には金属棒を用いる。一方、電位電極には硫酸銅飽和溶液で満たしたポットを用いる。これは電極と地面の間に分極電位を生じさせないようになっており、小さな電位差や正確な電位波形を測定する強制分極法には必要な措置である。

B 均質等方な大地の表面に電流電極 C1、C2からそれぞれ +I、−Iの電流を流すと、電位差 V と比抵抗 ρ は次のような関係にある。

ρ=G(V/I)

G=2π(1/C−1/C−1/C+1/C−1 ・・・・・・・・・ (2.5)

ここでGは電極配置で決まる係数である。

しかし、一般に地下に分布する地質の電気的性質は一様ではないので、式(2.5)が定義するのは地下の見かけ比抵抗ρaとなる。電流電極と電位電極の間隔C2P2(電極間隔)が小さければ見かけ比抵抗は浅い部分の構造を反映し、大きければ深部の構造を含む値となる。

したがって、電極間隔を変えて一連の測定を行い、電極間隔の関数として見かけ比抵抗を表せば地下構造の2次元解析が可能となる。

(3−1) 見かけ比抵抗は電極配置にも依存し、同一の場所でも電極配置によって得られる見かけ比抵抗値は異なる。主な電極配置を図2−2−11に示すが、探査の対象・目的に応じて使い分けされる。

(3−2) これらの中で地下の比抵抗と充電率の測定に最も適しているのはダイポール・ダイポール法であり、断層の検出能力が優れていることが知られている。

ダイポール・ダイポール法では地表から送り込まれる電流が垂直方向に集中する度合いが大きいので、断層のような導電性垂直構造の上部付近に比抵抗の異常(アノマリー)が強く現れるからである。また、この方法によれば送信系と受信系の電線の間に生じる電磁誘導(電磁カップリング)の影響が小さくなる。

よって、電極配置はダイポール・ダイポール法を採用した。

図2−2−11 各電極配置と見掛比抵抗の表示点

測定にはアイリス社(フランス)製の小型ディジタル電気探査装置(Syscal R2)を用いた。その理由は次の通りである。

○ Syscal R2の電位の測定分解能は1μVと高く、ノイズの大きな環境でも精度の高いデータが得られること。

○ 電位波形の測定範囲であるウインドウを複数有し、それらの値を各現場の電位波形に応じて任意に設定できること。

測定に使用した機材を表2−2−2写真2−2−4に示す。

表2−2−2 探査計測機材一覧

写真2−2−4 電気探査使用機材

当断層では、トレンチ調査が可能と推定された平田地区、田中地区、木崎地区の各地区に1本の測線を設けた(図2−2−12)。

測線長は

平田地区  350m

田中地区  380m

木崎地区  105mである。

図2−2−12 平田・田中・木崎地区での測線の配置

ダイポール・ダイポール法では、電流電極間C1P1と電位電極間P1P2の距離が等しい。これをaと表す。電極間隔C2P2はaの整数倍na(n=1,2,‥‥)とする(図2−2−11)。

nは隔離係数と呼ばれる。すなわち、まずn=1としたC1P1=a、C2P2=a、C2P2=aの状態で測線上を一定の間隔で電極系を移動させ、測定を繰り返す。一回の移動距離もaとした。次にn=2のC2P2=2aで測定し、以後n=3,4,‥‥と電極間隔を大きくする。一般にnは10〜15に設定する。

探査深度はaに関連する。aが小さいほど細かい地下構造まで把握できるが、形成される電場は小さく、探査深度は浅くなる。また、aが小さいと電極の移動回数が多くなり作業効率が悪い。このため、aは10mを基本とした。しかし、木崎地区のみ電極間隔aを5mとした。

測線の設定は以下の点に留意した。

○ 測線はコンクリートで覆われた道路から離して設置すること。

○ 測線上に溝などのコンクリート構造物や測線付近にガードレールなどの金属物がないこと。

○ 測線上に泥濘がないこと。

○ 粒径の大きな礫層が地表を覆う部分に測線を設けないこと。

○ 雨天時に測定を行わないこと。

このため、平田地区では道路脇の露頭分布箇所を中心に測線を設定し、田中地区では起点〜110m間は田畑の畦道、110m〜終点(380m)間は道路脇の法面上とし、木崎地区では刈り入れの終わった水田の畦道に設けた。このため、木崎地区以外の測線は曲線状であるが、その曲率が小さく、直線と見なしても差し支えない程度である。

測定は、測定前には電位電極の設置抵抗を求め、これが10kΩ・m以下になるように電極と地面との接触を調整した。

本探査は熊本大学工学部環境システム工学科の探査情報工学グループが実施した。

測定は平成8年10月1日から11月26日にかけて実施した。