6−3 まとめ

構造物の耐用年数には経済的な耐用年数,機能的な耐用年数,物理的な耐用年数等,各種の定義ができる。それぞれに固有の考えがあり,現状では統一された考え方は確立されていない。設計で想定する耐用年数と実際に構造物が持つ寿命とは異なる。しかし,一般の設計用耐用年数は50年程度を想定する場合が多く,ここでは50年とする。 再現期間R(A)と非超過確率Qの関係について考察すると, 耐用年数を50年とすると再現期間 R(A)と非超過確率Qの関係はQ=e−50/R(A)となる。表6−2 から,入力地震動の再現期間 R(A)を50年とすると 非超過確Qは0.37となる。当該レベルの地震力が少なくとも,1回生じる確率は1−0.37=0 .63となる。確率論上の話と実際に生じるか生じないかという判断とは直接には関連しない。 しかし,こうではないかと推定できる。

次に,入力地震動の再現期間 R(A)を100年とすると,非超過確率Qは0.6となる。太平洋プレ−ト境界に発生する巨大地震のうち,南海−東海地域に発生する大地震の再現期間は力武によれば117±35年とされている。そこで再現期間を150年程度にすれば,耐用年数50年に一度受けるか,受けないかも知れない巨大地震を対象としたことになる。耐用年数50年,100 年,150年の場合に,沖積地盤土の最大加速度の期待値を非超過確率0.6として求めると,高知ではそれぞれ約80cm/s2,約120cm/s2,約150cm/s2となる。 すなわち,それぞれ80,120,150を超過する地震動の発生確率が40%のときに,耐用年数50年,100年,150年の構造物に生じる地震動となる。 構造物の動的解析をするとき,入力地震波の最大加速度を定める手法の一つとして,地震危険度解析を行えばよいことがわかる。

参考文献

1)荒野政信・吉川正昭:危険度解析(ERISA−P)手法の検討,(株)奧村組−技報  No.149, pp.2〜5,1991

2)戸松征夫・片山恒雄:地震危険度解析グラフィックシステム(ERISA−G)−システム開発の概要と解析プログラム−,東大生産技術研究所報告,Vol.32,No.1,1986

3)吉川正昭,川村祥一:高知市の地震危険度解析,土木学会四国支部平成9年度技術研究発表会,1997.5(発表予定)

4)活断層研究会:日本の活断層−分布図と資料−,東大出版会,1980

5)荒川直士・川島一彦・相沢興・高橋和之:最大地震動および地震応答スペクトルの推定法(その3),土木研究所資料,No.1864,1982

追 記

地震に強い安全な都市作りには広い空間が必要となり,建設費が高くなるため,その時代の経済効果を考えて構築する必要がある。 1976年に中国で起きた唐山地震(M7.6)では家の中の米壺が戸外に飛び散るほどで,被害は阪神大震災より遥かに大きく,約24万人が命を失った。唐山市では経済的な理由から,震度5強程度の地震に耐える強度で都市を復興し,将来経済が発展したら耐震補強を行う予定のようである。さらに地震に強い都市作りのため,唐山市の周辺に広い道路で連絡した新しい都市を複数作り,唐山市全体が同時に被害を受けることのないように工夫しているとのことである。地震で壊れない広幅員の道路や公園,多目的広場などのオープンスペースを充分確保することにより,個々の構造物の耐力が震度5程度であっても,都市全体としてはもっと大きな震度7の地震にも対応できるということである。

都市防災の提案としては,地震被害に遭ったとき,まず避難地の確保と救急援助体制をを発揮できる空間が必要であると考えられる。そのため,日頃から住民自らが公共のオープンスペース作りに積極的に参加することが大切であり,土地を経済的投機と考える発想を改めることが必要である。