1 調査目的と委員会の構成

内陸直下地震は、たとえそれが小規模な地震であっても、人口密集地域の直下で発生すると大きな被害をもたらす。地震は地下における断層活動の結果であるが、その規模が大きいと地表面にも明瞭な断層変位地形が形成される。地表面に顕著な活動の跡を残す活断層は、規模の大きな直下地震を発生させる可能性が高い。このため、都市部に分布する活断層は、防災上最も注意すべき対象の一つである。

北九州市内において既知の活断層は、小倉東断層と福智山断層系(頓田断層を含む)である(九州活構造研究会,1990;活断層研究会,1991)。いずれも、市内の人口密集地域を通過している。本委員会(構成は表1−1の通り)は、既存の文献・資料の検討、空中写真判読、現地調査を実施し、北九州市周辺の活断層を再検討した。その結果、上記の活断層以外に追加すべき顕著な活断層は認められないことを確認した。

上記の活断層のうち、最も明瞭な断層変位地形を形成しているのは小倉東断層である。本委員会はさらに、小倉東断層を対象として、活断層の位置、長さ、活動周期(地震発生周期)および想定される地震規模を明らかにするために、以下に述べるような詳細な調査を実施した。

まず、空中写真判読によって、断層変位地形の分布を確認した。調査地域には高度に市街化された地域があるため、人工改変が進む以前に撮影された、米軍撮影の空中写真や 1960年代に国土地理院が撮影した空中写真を使用した。また、人工改変地域では、新しい断層変位地形は人工改変で消失している場合がある。そのような地点では、1960年代に撮影された空中写真をもとに航空測量を行い、地形を復元して上下変位量を求めた。また、現地調査によって、断層変位を知る上で基準となる河成段丘面の編年を試み、さらに数本の精密測量を実施して、河成段丘面の上下変位量を明らかにした。

活断層の活動履歴に関して詳細かつ確実な情報を得るためには、活断層を横切るトレンチ掘削調査法が最も有効である。市街化地域においては、トレンチ調査候補地点の選定にはかなりの制約が予想されたが、3箇所においてトレンチ調査を実施することができた。トレンチ調査に先立ち、小倉東断層が通過すると予想される地点においてボーリング調査と電気探査を実施し、基盤岩の深度分布と電気的比抵抗特性によって掘削すべき地点を絞り込んだ。それらの調査結果とトレンチ壁面の観察結果との比較検討については、後述する。

本報告では、まず既存の研究を整理する。次に、空中写真判読と現地調査に基づき、段丘面の編年・断層変位量(鉛直方向)を明らかにする。さらに、ボーリング調査と電気探査の手法と調査結果を示す。これらの成果をもとに、トレンチ掘削調査結果を検討する。

表1−1 北九州市活断層調査実行委員会構成員