(1)地層の記載

No.3地点のトレンチ掘削によって確認できた地層は、古期崖錐性堆積物、その上位の粘土層と砂礫層の互層からなる河成堆積物である(付図7−1)。

表7−5−1に本地点で確認した地層の層序を示す。

表7−5−1 地質層序表(No.3地点)

(1)河成堆積物

トレンチ法面に露出した完新世の堆積物は未固結であり、礫・シルトおよび有機質粘土などからなる(表7−5−1)。本堆積物は河成堆積物を主体とし、有機質粘土や基質が腐植質の礫混じり粘土など湿地性〜沼沢性の環境を示す地層を挟在する。

調査地の堆積物は、色調・層相や堆積構造などの違いによって以下のように細分した。地層番号は上位の地層から順に、@、A、B、C、D、E、F層とした。

河成堆積物中には、年代測定試料となる有機質土が含まれ、トレンチ法面からの採取試料やボーリングコアの中から合計14個の試料を選定して、オーストラリア国立大学に委託して14C年代測定をおこなった。時代決定に有効なテフラ(宝永スコリア、F−Ho)は最上部層の粘土層(@層)から見出された。

ボーリングおよびトレンチ調査から確認された河成堆積物の地層は11層(そのうちトレンチで8層)に細分される。以下、上位層より各地層の概要について記載する。

1)粘土層(ac−4:地層番号@、A)

本層は層相的に上部と下部に区分される。上部を@層、下部をA層とした。全体の層厚は、1.5〜2.0mである。

イ)上部層(地層番号@)

上部層は礫混じりシルト、礫混じり粘土、砂混じりシルトからなる。暗青灰色を示す。所々、不規則に砂分が密集する。上部には現生の植物根がみられ、層相も不均一である。本層の中部にはAD1707年の宝永スコリア(F−Ho)が分布する。本スコリア層は、東側法面E01〜E12付近では径1cm前後のパイプ状に密集していることが多いが、東側法面E12〜E18付近では、10cm四方ほどの範囲に分散しており、全体としてほぼ同一層準に分布する。

ロ)下部層(地層番号A)

下部層は礫混じりシルト、礫混じり粘土からなる。径2〜5mmの細礫が混入する。上部に向かい礫の混入率が減少する。所々、不規則に砂分が密集する。層厚は、0.5〜1.0mである。東側、南側および西側法面のいずれにも分布する。本層下部の14C年代値は、660±85yBPである。

2)砂礫層(ac−4:地層番号B)

砂礫層は径2〜5mmの細礫を主体とし、層厚は10cm以下である。東側法面E09〜E18、南側法面および西側法面に分布する。本層は、礫種・基質とも上位のA層と同じであるが、本層は細礫が密集しその混入率の違いによってA層と区分した。本層からは、年代試料は得られていない。

3)有機質粘土(ac−4:地層番号C)

本層は暗灰色を示す有機質シルトおよび粘土からなる。層厚は東側法面E14〜E18、南側法面および西側法面では30〜50cmであるが、東側法面E14〜E10へ向かって徐々に薄くなり、E10付近で尖滅する。東側法面E17、18では本層下部に褐色〜緑灰色を示す雑色性の礫が混じり、下位のD層との境界も不明瞭となる。東側法面E14〜E18では、本層中部に比較的多くの礫が混入し東側法面E14〜E10では有機質シルトにやや砂分が混じる。本層下部の14C年代値は、840±90yBPである。

4)有機質土層(ac−4:地層番号D)

本層は、黒色〜暗灰色の腐植物を多く含む有機質粘土および礫混じり有機質粘土からなる。層厚は30cm程度である。本層中でも特に有機物が多いのは、東側法面E17、南側法面S03〜S04付近の本層最下部で、腐植物が層状に密集して黒色を示している(写真7−1)。本層の14C年代値は、1,400〜850yBPである。

5)砂礫層(ag−4:地層番号E)

砂礫層は径2〜30mmの泥岩亜円礫〜亜角礫を主体とする礫と、有機質粘土やシルトの基質からなる。東側法面E06〜E17と、南側および西側法面に分布し、その層厚は25〜50cmである。礫の淘汰は良好で、粒度の側方変化が著しい。本層中部の14C年代は、1600〜1400yBPである。

6)有機質粘土層(ac−3:地層番号F)

本層はNo.3地点トレンチで観察された河成堆積物の最下部をなす。有機質粘土・シルト、砂混じり粘土、砂質シルトからなる。層厚は0.5〜1.0mである、有機質土には多くの腐植物が混入し、東側法面E14〜E17および南側法面S04〜S05に分布する。本層中部の14C年代は、1650±50yBPである。

7)砂礫層(ag−3)

本層は黒褐色〜暗青灰色を示す、シルト質礫および砂礫と有機質シルトとの互層からなる。層厚は1.7〜1.9mである。14C年代は1360±80yBPである。トレンチには分布しない。

8)粘性土層(ac−2)

本層は、暗褐色を示す礫混じりシルトを主とする。全般に腐植物が混入しているが、本層からは年代測定に供するような試料は得られていない。トレンチには分布しない。

写真7−1 東側法面E16−E17の写真

9)砂礫層(ag−2)

本層は暗褐色を示すシルト質礫を主とする。層厚は0.4mである。全般に腐植物が混入しているが、本層からは年代測定に供するような試料は得られていない。トレンチには分布しない。

10)有機質粘土(ac−1)

本層は腐植物を多量に含み、泥炭状を呈する腐植質シルトからなる。層厚は約0.9mである。本層の14C年代値は、1480±380yBPである。トレンチには分布しない。

11)砂礫層(ag−1)

本層はNo.3地点で確認された河成堆積物の最下部層である。砂礫・シルト質礫からなり、層厚約0.3mである。本層からは年代試料は得られていない。トレンチには分布しない。

完新世河成堆積物の層相、微化石分析および14C年代値から推定した堆積環境の変遷を表7−5−2に示す。

表7−5−2完新世における河成堆積物の堆積環境の変遷(No.3地点)

(2)古期崖錐性堆積物(Odt:地層番号G)

古期崖錐性堆積物は、径2〜5mmの角礫を含む礫混じり粘土を主とし、木片や腐植物を乱雑に混入する。色調は全体に緑灰色を示すが、部分的に灰色を示す部分がみられる。東側法面E15以南および南側法面S03〜S05に分布する。

(3)基盤岩

基盤岩は、本地点ではトレンチ法面には分布しない。ボーリング調査では、逗子層と衣笠泥質オリストストロームが確認された。