(2)海域文献資料

海域文献調査は、北武断層帯の東京湾部への延長を検討するために実施した。この結果、北武断層帯は東方海域部に連続する可能性が高いと推定されるが、その長さや活動性に関しては調査資料が少なく解明すべき問題点として残されており、今後の調査を待たねばならない。以下に検討内容を記述する。

海域調査資料をまとめ、図1−2−3に示す。

既存海底地質図(地質調査所,1995;スパーカー方式音波探査) によると、北武断層帯の延長方向に断層(以下海域断層と仮称)が認められるが、この断層は海底谷堆積物(完新世)を切っていないように図示されており、活断層ではないと判断される。しかし、海底谷堆積物を完新世と判断する年代対比資料は得られておらず、確実に完新世堆積物を切っていないとは断言できない。海底谷から野比海岸に至る海域においては、基盤岩を覆って分布が推定される新期の堆積物層に関する反射面解析結果の記入がないため、活構造判定の資料は得られない。図上の断層の長さは、約3kmであるが、陸域との連続性が不明であり、また音波探査の測線も少ないことから、全体としての延長距離を確実に判断できる資料には到らない。

同断層の南西方約4.5km にある金田湾断層(今泉他,1987;ソノプローブ方式音波探査)は、完新世堆積物と判断される地層に累積変位が認められることにより、海底活断層と解析されている。地層の変位状況は、典型的な水平横ずれを示しており、断層を挟んで対応する両側の地層には垂直変位がほとんど認められない。断層の方向は、観測2点間を結び北西−南東としており、三浦半島陸上部のいずれの断層とも延長関係はないと解釈している。年代を決定するサンプリング調査は、まだ実施されていない。

最近の調査報告書(科学技術庁研究開発局,1996;ソノプローブ方式音波探査他)では、北武断層帯の延長方向の海域には顕著な活構造は存在しないとされ、調査海域における新たな発見として、金田湾断層は分岐して、武山断層と南下浦断層につながることが明らかにされている。

同時に実施した指向性の高い音響測深機による海底地形調査では、詳細な海底地形を求めてリニアメントを検討している。この結果、北西−南東ないしは西北西−東南東の走向を示すリニアメントが主に認められ、三浦半島側に見られる断層の走向と調和的な傾向が抽出されている。三浦半島側と房総半島側の断層系との間に見られる南北方向のオフセットに関連した南北系のリニアメントは検出されていない。

本資料調査では、上記海域調査の担当である水路部から提供されたソノプロ−ブ記録を基に、再解析を実施した。解析作業は、北武断層帯の横ずれを示す断層性状や断層を境とする地質構造を主な視点とし、海域活断層としての金田湾断層の反射面変位状況を参考に行った。

野比海岸沖合いの測線は、南北方向500m、東西方向700mの間隔で配置されている。このうち図1−2−3の海域断層を横切る3本の測線の記録断面を航跡と共に、図1−2−4−1図1−2−4−2図1−2−4−3、に示す。参考図面として金田湾断層付近記録例および金田湾の基盤内層理面記録例を図1−2−5−1図1−2−5−2に示す。記録の縮尺比V/Hは、6程度、深度への換算速度は、1,500m/sである。海域断層との関係や断面上の特徴的な反射波について図上に記載した。傾斜の記載は、断面の縮尺比を基に計算される値を示した。実際の傾斜(αa) と記録上から計算される傾斜(αb)の関係は、SIN(αa)=TAN(αb)であり、αa>αbとなる。記録からの傾斜が31度の場合、実際の傾斜は39度と計算される。

図1−2−4−1図1−2−4−2図1−2−4−3のそれぞれ測線E2、N3およびN4測線とも基盤岩上面と識別される反射波の振幅は、露岩域を除いて弱く、被覆層との境界は明瞭ではない。被覆層内部の反射波は、図1−2−5−1の金田湾海域の記録と比較して、全体的にやや散乱状の反射パタ−ンを示し、連続性に乏しい部分が多い。底質が砂質分に富んでいるものと想定される。

海域断層との関係は、いずれの測線も交差位置付近に基盤岩の窪みが形成されており、被覆層が埋積していることで特徴づけられる。基底部の深さと形状は、判読困難である。

測線N3では、この海底埋積谷状地形の北側に基盤岩の高まりが認められ、その両側で比較的明瞭に見える被覆層内部の反射イベントが変位しているような傾向がうかがえる。この詳細構造を検討するため、原記録の深度方向を2倍に拡大し反射面を解析した結果を図1−2−6に示す。測点No.47.3およびNo.48.9付近で、被覆層がそれぞれ落差をもってあるいは小規模ながら金田湾断層と同様な変位状況を示しており、さらにその下部の基盤岩の窪みから連続しているように認められることから、断層構造と解釈される。地層の年代値を決定する資料はないが、金田湾断層の活動時期の認定基準と同様に考えると、完新世に活動経歴を有する活断層の疑いが強いと判断される。

他の2測線では、被覆層の内部構造が明瞭でないことから、連続性を解析することはできないが、海域断層に沿って認められる海底埋積谷状の基盤岩の形状が構造的に形成された可能性があることを考慮すると、これらの区間においても断層構造は連続しているものと推察される。

北武断層帯の海域延長部は、活発な漁業活動区域と海上交通の要路に当たり、測線配置の自由度が制限されている。このため、既存調査では断層の延長やその性状が明らかでなく、今後の調査による解明が望まれる。

図1−2−3 既存文献による海底地質と航跡図 

図1−2−4−1 ソノプローブ記録断面図 E2測線

図1−2−4−2 ソノプローブ記録断面図 N3測線

図1−2−4−3 ソノプローブ記録断面図 N4測線

図1−2−5−1 ソノプローブ記録断面図 金田湾断層付近記録例

図1−2−5−2 ソノプローブ記録断面図 基盤内層理面記録例

図1−2−6 解析断面図 N3測線