3−4−3 反射法解析結果

図3−12図3−13−1図3−13−2図3−14−1図3−14−2図3−15−1図3−15−2図3−16図3−17図3−18に、最終的な結果である以下の図をそれぞれ示す。

*P波速度構造図(A測線)

*重合時間断面図(A測線、C測線)

*マイグレーション後時間断面図(A測線、C測線)

*深度断面図(A測線、C測線)

これらの反射断面の特徴について、以下に考察する。

A測線(C測線を含む)の時間断面(図3−13−1図3−13−2図3−14−1図3−14−2)によると、全体的に不均質で堆積層からの反射に乏しいが、箱根火山からの強反射面(群)が東傾斜で潜りこんでおり、測線西端で約0.0秒、足柄平野中央部で往復走時約1.3秒である。この反射面の下にも東傾斜優位の反射イベントが認められ、国府津・松田断層より東側(大磯丘陵側)でも、不明瞭であるが2.5秒以深で確認することができる。平成13年度神奈川県地下構造調査の屈折法によるタイムターム解析(図3−16図3−17)から、この反射面は後述する4.3km/sまたはそれ以上の地震波速度相当層と解釈される。足柄平野では、これより上位は東傾斜が卓越しているが、一部褶曲しており、単純な傾動を示していない。特に、酒匂川付近ではやや規模の大きな背斜状の形状が確認できる。また、小田原市飯田岡より西側には複数の反射不連続(東傾斜)が確認できる。

大磯丘陵側の基盤は、屈折法の結果を考え合せると0.6〜0.7秒程度の比較的低周期で強い反射面に対応すると考えられる。ただし、足柄平野の基盤との関係については、屈折法解析では同じ速度(4.3km/s)として扱われているが、国府津・松田断層を跨いで反射面の連続性は確認されず、同じ速度でも地質的に同一層であるとは限らない。これより下位層については、連続性がよくないが反射が豊富である。一方、上位の反射面は足柄平野内と同様、複数の褶曲が確認される。

国府津・松田断層の直下は、0.1秒〜0.3秒にかけて連続性の強い反射面が存在する。これらは若干東傾斜であり、層厚変化から累積的に東に傾動していると推定される。0.1秒より上位の極浅層部は、反射面が凹凸していて反射強度も弱い。国府津・松田断層と位置的に対応し、断層運動に伴う反射面の不連続が複数確認できるが、これらのうち比較的規模の大きなものは、都市圏活断層図(国土地理院、1996)に図示された2本の断層線の延長上(CDP510〜550、小田原市曽我地区)とほぼ一致する。このうちCDP530付近の不連続は、反射面が一部錯綜しており、深部への延長はやや困難であるが、西側の地層傾斜(西傾斜)と東側の地層傾斜(東傾斜)の違いから、3秒程度までリストリックな断層として大磯丘陵側に追跡が可能である。

活断層が推定されている千代台地西縁(CDP640〜650)では、浅部反射面は、水平、または、やや東に傾動しているものの、大規模な撓曲、断裂として確認できない。一方、国府津・松田断層から大磯丘陵にかけての反射波は低周波で弱いが、水平または東傾斜が優勢である。なお、反射波の卓越周期は、浅部でも高々40Hzであるため、分解能に関して地質層序との対比には注意が必要である。

A測線とB測線の反射断面の地球物理学的な解釈(平成13年度神奈川県地下構造調査による)を、図3−16図3−17にそれぞれ示す。屈折法解析で求められたタイムターム値を近似的に境界面までの垂直走時(往復走時の半分)とみなし、対応する速度値を図中に記入している。(地震)基盤の形状は、深度が相当する4.3km/s層のタイムターム形状を参考にした。なお、B測線両端部での見かけ速度からインターセプトタイム約1.5秒に4.9km/s層が推測されたが、データが測線全域をカバーされていないため全域での形状は不明である。

図3−18は、A測線とC測線の関係について、マイグレーション時間断面で比較したものである。C測線の処理ではCDP間隔(6.25m)がA測線の半分であり、浅部の構造がより細かく表れているが、全体的な反射面の形状は両者で変化なく整合的である。

以上をまとめると、大磯丘陵から足柄平野にかけてのやや広域的な反射断面図から、当地域の第三紀〜第四紀テクトニクスを考える上での重要な知見を得た。例えば、足柄平野直下において箱根火山から東へ傾斜する強反射面(群)が認められたが、これらの反射面は相模トラフ直下にも存在する東傾斜の反射面に関連付けられ、フィリピン海プレートの沈み込みやこれに伴う付加メカニズムに関係する構造として議論できる。また、国府津・松田断層に伴う反射面の不連続(断層)が小田原市曽我地区に複数認められ、主要な断層が地下深部まで追跡できる。今後、地質構造の発達過程を考察し、活断層の活動度評価に有用されることが期待される。