(2)引橋断層−金田地区−

当該地区におけるボーリング調査の目的は,活断層の位置およびトレンチ掘削の可否を明らかにすることである。ボーリング調査位置を図2−12に示す。

bgB−1〜bgB−4孔は,推定される引橋断層を高角度で横断する測線上に,孔間10mピッチで配置したオールコア採取孔である。bgB−1〜bgB−4の掘進長は,初声層確認後5mの掘進としたが,比抵抗トモグラフィの探査範囲を確保することを考慮して,15〜19mの掘進長とした。なお,bgB−5孔は,測線上流側でのトレンチ掘削の可否を判断するために実施した調査孔である。

これらのボーリング調査結果から最大6mを超える盛土が確認され,この測線上とその周辺ではトレンチ掘削は困難と判断された。

ボーリング調査以前に,地元の農家からの聞き込みおよび旧地形図(国土基本図,三浦市作成:1964)と現地形図(国土基本図,三浦市作成:1995)の対比から,当該地には厚さ4〜5mの盛土(耕作客土)が分布することが明らかであった。

(1) 地質構成と初声層の谷壁形状

当地区の地質構成は,初声層を基盤とし,上位に谷底堆積物,盛土がある。

谷底堆積物は,下位から基底砂礫層,砂混りシルト層,有機質粘土層および有機質粘土層に挟在する粘土層からなる。

有機質粘土層は,比較的大型の未分解の木片などを含み,最大7mの厚さで分布する。したがって,当該地は,比較的静かに有機質粘土が堆積する沼地のような地形であったと考えられる。

盛土は,標高17m付近の有機質粘土を境に,その上部は1964年以降に盛られたものである。盛土の分布形態は,谷の中央部で6m強の厚さを示し,基盤の谷斜面に沿って次第に薄くなっている。地権者によれば,谷中央部で沈下が顕著なため,しばしば盛土材(土砂)を補充しているとのことである。

初声層は,スコリア質砂岩およびパミス混り中〜粗粒砂岩の互層からなり,しばしば斜交葉理が認められる。谷壁の形状は,右岸側で約30°,左岸側で約42°の傾斜であり,左岸側の傾斜の方が急である。周辺の露頭から,初声層の層理はN50〜70°W,20°Nの走向・傾斜を示すことから,受け盤となる左岸側斜面の傾斜が急になっていると考えられる。

初声層を覆う堆積物の厚さは,図2−13−1図2−13−2に示すように最大約15mである。

図2−12 地質調査位置図(金田地区) 縮尺1:400

図2−13−1 金田地区の推定地質断面図(その1) 縮尺1:200

図2−13−2 金田地区の推定地質断面図(その2) 縮尺1:200

(2) 引橋断層の位置

引橋断層は,西北西−東南東の走向で,右横ずれ成分が卓越する活断層である。太田ほか(1992)によれば,当該地における引橋断層の性状は次のとおりである。

@ 沖積谷の右横ずれは,100m以上である。

A 沖積谷を横断する北東向き斜面は,低断層崖である可能性がある。

B 当該地に隣接する西側には,幅15〜20mの小地溝が分布する。

@について,谷の右横ずれは地形的に明瞭である。

Aについて,旧地形図では斜面が存在しないことから,現在見られる北東向き斜面は人工的なのり面であると考えられる。

Bについて,小地溝に関する地質情報は確認できなかった。

上記のとおり,金田地区で引橋断層による垂直変位を示唆する積極的な地質情報は得られなかった。その理由として,以下の事項が挙げられる。

・ 初声層の変形: ボーリングコアからの層相対比で,断層の垂直変位を抽出することが困難であること。

・ 谷底堆積物の変形: 火山灰層などの鍵層が認められず,また盛土による沈下・変形が生じていること

(3) トレンチ調査の可否と今後の調査方針

ボーリング結果により,金田地区には厚さ最大6m強の盛土があることが確認された。また,盛土荷重による未固結堆積物の変形が生じている。

金田地区のトレンチ調査は,引橋断層の位置・性状が不明なこと,自然地盤まで6m強の盛土があること,盛土荷重により谷底堆積物が変形していると考えられることなどのトレンチ掘削に不利な条件が多いことから,中止とした。また,ボーリング調査で得られた地質年代試料の測定は,引橋断層との関連付けが困難なため中止とした。

今後の調査方針として,断層変位地形が明瞭である引橋断層東部域においてトレンチ候補地を抽出し,新たに地質調査およびトレンチ調査を行うことにした。