(2)地形・地質調査結果

空中写真による地形調査および地質概査は,図2−4に示す範囲で実施した。地形判読および地質概査の結果は,1964年と1995年に作成された地形図(三浦市国土基本図)を対比させて,図2−5図2−6図2−7に示す。記載にある地点番号は,地形図中の地点番号と対応している。

記載は,太田ほか(1992),垣見ほか(1971),松島(1976)などを基本とし,現地踏査で再確認し,若干の修正および加筆したものである。

図2−4 調査位置図 縮尺1:25,000

1/25,000地形図「浦賀」,「秋谷」,「三浦三崎」を使用した。

(1) 南下浦断層

南下浦断層に関わる記載は,以下に示すとおりである。下記の地点番号は,図2−5図2−6に記した地点番号と対応している。また,各地点ごとの写真や露頭スケッチを図2−1−1−1図2−1−21−1に示す。

南1地点 潮間帯の断層露頭

東海岸の潮間帯に認められる断層露頭は,EW〜N80°Eの走向で南に80°傾斜する断層面である。ここでは主断層と副断層が観察でき,主断層は厚さ15〜20cmの断層粘土を伴い,宮田層の細砂が不規則に初声層上面に張り付いている。

図2−1−1−1 大潮時の南下浦断層(三浦半島活断層調査会:1998)と露頭スケッチ(垣見ほか:1971)

南2地点 県道モルタル吹付けのり面の断層露頭

現在はモルタル吹付けされている断層露頭であるが,断層位置は現在でも識別することができる。垣見ほか(1971)によれば断層は,東西の走向を持ち78°で南傾斜する。

図2−1−2−1 以前の断層露頭(左)と現状の道路のり面(右)

(三浦半島活断層調査会:1998)

図2−1−2−2 同露頭のスケッチ(垣見ほか:1971)

南3地点 民家近傍の断層露頭

断層は初声層と宮田層を境し,断層の走向・傾斜はN82°W,62°Sである。

図2−1−3−1 露頭写真とスケッチ(垣見ほか:1971)

南4地点 南下浦中学校給食センター裏の断層露頭

現在でも観察ができる断層露頭である。断層は,N76°W,63°Sの走向・傾斜を示し,幅10cm程度の破砕帯を伴う。

図2−1−4−1 露頭写真と露頭スケッチ(岡:1996)

南5地点 北東向き低断層崖

現在も低崖は確認でき,1964年の地形図でも識別できる。この崖地形は,南下浦断層の低断層崖と考えられる。

南6地点 田保谷戸地区における谷の右横ずれ

沖積低地は明瞭な右横ずれ地形である。太田ほか(1992)では,谷の屈曲量を50mとしている。

図2−1−6−1 東側より田保谷戸地区の谷底低地を望む

南7地点 断層露頭

断層露頭の報告がある地点であるが,現在は崖錐や植生に覆われ,確認することができなかった。断層は西北西−東南東の走向で,67°南傾斜である(垣見ほか:1971)。

南8地点 断層露頭

断層露頭の報告があるが,確認することができなかった。南側から連続する初声層は急傾斜の層理を示し,この地点から北側では初声層は分布しない。断層は西北西−東南東の走向,68°で南傾斜する(垣見ほか:1971)。

図2−1−8−1 断層に近接する南側の初声層の露頭状況

南9地点 低断層崖

上宮田地区の簡易水道配水場北側にある北東向き斜面は,南下浦断層の低断層崖である可能性がある。植生に覆われているため新たな地質情報は得られていない。この低崖は,旧地形図や空中写真でも識別でき,古くから自然斜面として原位置に存在していたと考えられる。

南10地点 地質境界

本地点は,西傾斜の集水斜面であり,谷頭付近にはローム層が露出する。斜面北側には宮田層が連続して分布し,集水斜面南端には風化した初声層が確認できる。断層面は確認できないが,斜面内に地層境界があることから南下浦断層が通過していると推定できる。

南11地点 斜面上の連続した崖地形

南下浦断層のトレースと並走する崖地形であり,低断層崖である可能性が高い。しかし,斜面は植生に覆われており,表面剥ぎ程度の掘削で地層情報を得られなかった。

図2−1−11−1 連続する低崖

南12地点 地質境界

断層南側で初声層が連続して分布するが,断層付近で突然初声層が消失し,断層北側では露頭は認められない。初声層の露頭状況は地層境界を示唆しており,初声層と宮田層の地質境界となっている南下浦断層が通過している可能性がある。

南13地点 民家わきの切土で見られた断層露頭

宅地内ビニールハウス脇の断層露頭である。断層南側は風化した初声層が連続し,断層北側は宮田層が分布する。断層はN60°W,40°Nの走向・傾斜を示した。

図2−1−13−1 露頭写真

南14地点 失われた断層露頭

かつて65°で南傾斜する逆断層の露頭があった地点である(垣見ほか:1971)。現在は造成により,断層露頭は確認できない。

南15地点 失われた断層露頭

かつて85°で南傾斜する逆断層の露頭があった地点である(垣見ほか:1971)。宅地造成により現在は確認できない。

南16地点:断層露頭および南16’地点:トレンチ位置

付け替え路のり面で表れた断層露頭は,N55°W,62°Nの北落ちの正断層である(松島:1976a)。露頭の西側30mのトレンチ掘削で現れた断層面は,N50〜52°W,82〜84°Nの高角度逆断層である(松島:1976a)。

図2−1−16−1 京浜急行三崎口駅付近の地質断面図(松島:1976a)

南17地点 埋没断層崖

三崎面上の比高約3mの北落ち崖は,南下浦断層の断層崖であると考えられていた。しかし,調査ボーリングにより,南17地点に断層崖が埋没していることが明らかにされている(伊藤ほか:1970)。

南18地点 埋没断層崖

伊藤ほか(1970)で示された埋没断層崖の位置である。

南19地点 埋没断層崖

垣見ほか(1971)によると,切り通しの急崖を掘り下げた結果,北傾斜85°の高角正断層が確認された地点である。

図2−1−19−1 埋没した南下浦断層(垣見ほか:1971)

南20地点 高角正断層

伊藤ほか(1970)で示された埋没断層崖の位置である。

南21地点 高角正断層

延寿寺脇の断層露頭は,N62°W,85°Sの高角度正断層とされたが(垣見ほか:1971),現在は見られない。

図2−1−21−1 南下浦断層西端の沖積低地状況

図2−5 南下浦断層に沿う変位地形(東部)

図2−6 南下浦断層に沿う変位地形(西部)

(2) 引橋断層

引橋断層に関わる記載は,以下に示すとおりである。記載の地点番号は,図2−7に記した地点番号と対応している。各地点ごとの写真や露頭スケッチを図2−2−2−1図2−2−12−1に示す。

引1地点 北西向き低断層崖

北西向き斜面は,引橋断層の低断層崖である可能性があるが,植生に覆われているため新たな情報は得られていない。旧地形図や空中写真でも識別できるが,谷頭斜面であり古い時代から耕作地として改変されていた可能性がある。

引2地点 三崎面の撓み

太田ほか(1992)で指摘された三崎面の撓みは,現場で異常傾斜として識別できる。この撓みは,断層運動によって生じた変位地形であると考えられる。

図2−2−2−1 鋒地区の三崎面の撓み

引3地点 谷の屈曲

太田ほか(1992)では,本地点における谷の屈曲は約20mとされている。

引4地点 尾根の屈曲

太田ほか(1992)では,本地点における尾根の屈曲量は15〜40mとされている。

引5地点 尾根の屈曲と三崎面の撓み

太田ほか(1992)では,尾根の屈曲は30〜40mで段丘平坦面に撓みがあるとされている。現地でも異常傾斜として識別できる。

引6地点 谷の屈曲

太田ほか(1992)は,本地点における谷の屈曲を125〜170mとしている。

図2−2−6−1 岩浦水源地西側の沖積低地

引7地点 幅20〜30mの小地溝

Kaneko(1968),小玉ほか(1980)で示された初声層内の地溝である。小玉ほか(1980)には約50m幅の地溝として記載されており,地溝両側は断層で,地溝中には宮田層が堆積するとしている。地溝は,地形図や空中写真で連続する断層地形として識別でき,現地でも凹状地形の追跡は可能である。しかし,現在では土地改変によって断層露頭などの地質情報を確認できる場所はない。

図2−2−7−1 東側の凹状地形

図2−2−7−2 明治学院大学グラウンド上方の凹状地形

引8地点 谷の屈曲

土地造成により,沖積低地の輪郭は消失してしまっている。太田ほか(1992)は,谷の屈曲量を約18mとしている。

引9地点 断層露頭と露頭の消失

太田ほか(1992)はN88°W,44°Sの断層露頭があったとしているが,現在は見られない。本地点は,急崖をなす初声層が断層付近で突然露頭が消失する地点であり,引橋断層による変位地形と推定される。

引10地点 不整合面

初声層の直上には,初声層に由来するシルト岩塊を含む砂礫層が分布する。詳細は植生を取り除いて観察する必要があるが,新期の未固結層が初声層を覆って分布している状況が認められた。

図2−2−10−1 露頭状況

引11地点 右横ずれの谷と北向きの崖

太田ほか(1992)は,本地点の谷の屈曲量を,100mより大きいとしている。

北向き崖は,1964年作成の地形図(国土基本図:三浦市)では認められない。低崖は,民家への進入路を造成した際の道路盛土と考えられる。

図2−2−11−1 地質調査を行った金田地区の地形状況

引12地点 幅15〜20m小地溝

小玉ほか(1980)および太田ほか(1992)で示された初声層内の地溝で,幅15〜20mとされている。

図2−2−12−1 小地溝の西端にあたる谷の状況

図2−7 引橋断層沿いの変位地形