4 まとめ

平成9年度は、空中写真判読と現地調査に基づいて秦野断層系と渋沢断層系に属する計7つの断層位置を明らかにした(付図1)。すべての断層は縦ずれ変位を示し、撓曲崖、逆傾斜、山側が下がる逆向き断層崖などの地形的特色は、これが圧縮の応力場の下で形成されたかなり低 角な逆断層であることを示唆している。また、ほとんどの断層で、古い段丘面ほど変位量が大きいという変位の累積性が認められる(表8)。しかし、撓曲崖の両側に同じ年代の段丘面がみられることが少ないので、真の上下変位量は求めがたい。また低角逆断層であることを考えるとネットスリップはさらに大きくなるはずである。いずれにせよ本地域の活断層のうちでは、秦野断層の活動度はA〜B級となる。しかし、下宿、八幡及び戸川三屋の各断層は、断層長は短く、活動度もB級の下位であることなどから、秦野断層に付随する副次的な断層で、これ自体が地震を起こす可能性は小さいと考えられる。渋沢断層系の活動度もA〜B級で、これも注意を要する活断層であろうと考えられる。

平成10年度は、秦野断層と渋沢断層についてそれぞれトレンチ調査、ボーリング調査を行った。この調査では、結果的には両断層について、最新活動時期、活動間隔、単位変位量を 明らかにすることができなかった。しかし両断層とも断層地形は明瞭であり、異なる時代の段丘面に累積的な変位が認められ、活動度はA〜B級で活動的な断層である。防災の立場からは最新活動時期、活動間隔など明らかにされて、中期的な活断層の評価がなされることが望ましいのは言うまでもない。

秦野断層と渋沢断層とも市街化された地域に分布しており、トレンチ調査地を選定することに多くの困難を伴う断層である。しかし、両断層の周辺には人口が密集しており、防災上重要な断層である。秦野断層と渋沢断層ともに尾尻段丘(1〜2万年前)にみられる変位量が大きいこと、秦野断層と平行する八幡断層で沖積面に変位があることが指摘されていること(宮内ほか,1996a)から、両断層とも完新世に活動した可能性が高い。とくに渋沢断層は、大磯丘陵と秦野盆地の地形境界を形成しており、第四紀後期を通して活発に活動してきたことはまちがいないと思われる。

また笠原ほか(1991)の資料などに基づくと、渋沢断層は国府津−松田断層の活動に付随して活動する可能性が高い(図4)。国府津−松田断層は地震調査研究推進本部(1997)によって「現在を含む今後数百年以内に変位量10m程度、マグニチュード8程度の規模の地震が発生する可能性がある」とされている。

これらのことを総合して、今後も国府津−松田断層との関係と合わせて考えてゆく必要がある。