(3)総合解析

トレンチ調査地に出現した断層は秦野断層の本体ではなく、付随した逆向きの副断層である。その最新活動時期はY−129グル−プの火山灰降下時(約1.7万年前)である。この副断層はそれ以降には活動していないと判断される。しかし、秦野断層の本体が活動しなかった証拠にはならず、最新活動期はそれ以降の可能性がある。

ボーリング調査では、秦野断層の本体上盤側のB−5ボーリング中には断層面が確認できなかった。おそらく全長20mのボーリング中を秦野断層本体は通過すると考えられるが、正確な位置は不明である。この推定断層とトレンチを含めた地質断面図を図26に示す。また、トレンチの北(上流側)7mで掘削したB−4では、厚さ3.4mのローム層の下に砂礫層が存在する。段丘礫層直上の火山灰はY−129−5 であり、トレンチ内の礫層直上の火山灰(Y−129−1とCCP−16)よりわずかに若い。このことはトレンチ地点が逆向きの副断層の活動に伴う隆起によって、少し早く段丘化したことを示す。

一方、トレンチ地点の西方約300mの秦野保健福祉事務所付近では、トレンチ地点と同じ尾尻段丘に約4m(1/2,500地形図からの判読)の低断層崖、また水無川右岸の尾尻段丘には4.5mの変位がみられる(図9,断面D)。尾尻段丘は約1〜2万年前と、離水年代に幅がある。それにも関わらず複数の地点で4〜4.5mの変位が見られることは、これらの変位は尾尻段丘が完全に離水してから断層活動で生じたもので、その活動時期は尾尻段丘の年代から考えて完新世に入ると考えられる。このことからトレンチで確認された1.7万年前の活動のあとにも、秦野断層本体が活動している可能性が高い。

秦野断層の評価を次に示す。

a 秦野断層は活断層である。

b 長さ:2.8km

c 断層活動:付随する逆向き断層は1.7万年前頃に活動した。尾尻段丘の変位量と離水年代から考えて、秦野断層本体はそれ以降にも活動した可能性が高い。

d 単位変位量:不明

e 平均変位速度:0.2〜1.4 m/1,000年でA〜B級の活動度である。

秦野断層はその長さが短いにもかかわらず地形的な特徴は顕著であり、いろいろな時代の段丘面に変位が累積的に認められる。地形的な明瞭さと活動度がA〜B級ということから見ると、完新世にも活動しているものと考えられる。このような特異な特徴からみて秦野断層は国府津−松田断層と関連して活動している可能性があり、単純に断層の長さだけから地震規模を求めることは不適切である。