(1)トレンチ調査結果

a 葛葉台トレンチの概要

葛葉台トレンチは金目川の右岸に形成された尾尻U段丘面(内田ほか,1981)上に位置し、国道246号線の北側に隣接した耕作地である(図13)。掘削地点は撓曲斜面基部にあたると考えトレンチ調査を行なった。平成9年度調査では、本地点は沖積段丘と考えていたが、今回、段丘礫層直上の砂礫まじりローム中に箱根火山起源のCCP−16軽石層が点在するので、尾尻U段丘面に対比されることがわかった。礫層が段丘化した時代は約1.8万年前である。

トレンチの規模は深さ4m、長さ12m、幅6mである(図14図15図16)。

b 葛葉台トレンチの層序 

トレンチ内に見られる地層を粒径、色調、構造などに基づいて上位より表土(A層)、ローム層(B層)、段丘礫層(C層)に区分した。B層は、風成のローム層(B1層)と細礫まじりローム層(B2層)に細分される。また、C層も粒径や基質の違いから4層(C1〜C4)に細分した。層序関係及び地層の要約を図17に、各層準に関する記載を次頁に記す。トレンチ写真及びスケッチは、図18図19及び図20に示す。

A1層:トレンチ上部に連続する暗褐色スコリア混じりシルトの耕作土層である。東側法面[E5.3〜6.5]にごく最近と思われるたき火の後が見られるなど一部は盛土であり、現耕作土となっている。層厚は10〜50cmである。A2層との境界は東側法面においては下位層の宝永火山灰の存在により容易であるが、[E4.0]以南では非常に不明瞭である。また西側法面では、A2層と比べてしまりが悪いことから区別することが出来る。一方、南側法面及び南西側法面ではその境界は極めて不明瞭である。

宝永スコリア:東側法面[E4.3〜12.0]のみにA1層下位に断片的に見られる玄武岩質スコリアである。その粒径は1cm以下で、発泡の悪い白色軽石及び灰色岩片が混じる。層厚は2〜8cmである。成層構造は見られず、噴火堆積後に人工的に削剥されている可能性が高い。噴出年代はAD1,707年(宝永4年)である。

A2層:暗褐色スコリア混じりシルトの土壌層で、東側法面では[E6.5]以南及び[E9.1]以北にて分布し、西側法面では[W4.2]以南及び[W6.1]以北に分布する。また、南側法面及び南西側法面では連続的に分布する。層厚は40〜130cmで、南側法面で厚い。東側法面及び西側法面ではその下面の形から一部人工的水路と思われるものが埋もれている。南側法面[S1.0]付近から南西側法面[SW0.6]付近にかけて本層は下位のB2層を大きく削り込んでいる。これは人工的水路または南に向かっての崩壊・浸食の可能性がある。本層は旧耕作土による堆積物と考えられ、礫が点在する。その礫は河床礫由来のものの他に、スコリアのブロックがある。

B1層:富士・箱根火山起源のロームからなる。B1層はその層相から複数の部層に分かれ、各層の特徴から対比することが出来る。最上部よりY−133〜Y−130−2まではスコリア混じりロームで、東側法面[E5.1]以北で、西側法面[W4.0]以北で見られる。Y−130−1〜Y−129−1は橙色降下スコリア層(一部軽石まじる)で、東側法面で[E1.7]以北で、西側法面で全面に見られるが、両法面において[E6.0]、[W6.0]付近を境に北側で層厚が厚い。B1層は全体に北へ緩く傾いている。

Y−141:暗褐色ロームで赤紫色スコリアを多く含む。その粒径は1cmであり、灰色岩片も混じる。噴出年代はおおよそ11,200年前と推定される(上本・上杉,1996)。

Y−134〜136:暗褐色ロームで赤紫色スコリアを多く含む。その粒径は1cmであり、灰色岩片も混じる.

Y−133:褐色ローム層で、よくしまっている。粒径1cmの黒色及び赤紫色のスコリアを多く含む。下位層より赤紫色のスコリア含有率が低い。

Y−132:全体的に褐色ロームからなるが、下位層に比べてやや明るい色を呈する。黒色及び赤紫色のスコリアを多く含む。黒色スコリアの粒径は1cmであるが、赤紫色のスコリアの粒径は0.5cm以下のものが多い。

Y−131:スコリア混じり暗褐色ロームからなり、よくしまっている。スコリアは粒径0.5cmの橙色のものが主体であるが、粒径1cmの黒色スコリア及び灰色岩片もみられる。粒径2mmの白色粒子が多く含まれる。

Y−130−2:粒径0.5〜1cmの赤紫色のスコリアおよび粒径0.3〜1cmの黒色スコリアからなる。淘汰は悪いがよくしまっている。噴出年代は17,620y.B.P.と推定される(上本・上杉,1996)。

Y−130−1:赤紫色スコリア層である。層相から3つのユニットに分かれ、中部が粗粒、上下部が細粒といった特徴をもつ。全般的に淘汰は良いが、上部は粒径0.3〜0.5cmで淘汰はあまり良くない。中部は粒径1cm、下部の粒径は0.3cmである。

Y−129−5:粒径0.5cmの赤紫色スコリアが主体をなし、粒径1cmの黒色スコリアが混じる。また粒径3cmの黄白色軽石が点在する。全体的によくしまっている。

Y−129−4:粒径1cmの淘汰の良い赤紫色スコリアの密集層である。黒灰色スコリアをまれに含む。

Y−129−3:粒径0.5cmの淘汰の良い赤紫色および黒色スコリアの密集層である。

Y−129−2:粒径1〜2cmの黒色スコリアからなり、全体的に良くしまっている。逆グレーディングの傾向がある。粒径0.5〜1cmの橙白色軽石が混じるが、下位層の

Y−129−1に比べてその量が少ない。下部にスコリアが密集する。

Y−129−1:粒径0.5cmの橙色、黄白色軽石及び粒径1cmの灰色スコリアの混合層である。粒径1.5cmの異質岩片を含む。全体的に淘汰が良くしまっている。

B2層:トレンチのほぼ全面に分布する褐色ローム質シルトである。その層厚は80〜130cmであるが、南側法面では約30cmと薄い。本層は全体的に淘汰が悪く、下位へゆくほど細礫(粒径2cm)が多く混じる。TPflの再堆積と思われる発泡の良い橙色軽石(粒径10cm)が点在するほか、Y−128火山灰に含まれるCCP−16軽石(黄橙色軽石、粒径1cm)が点在する。

C1層:C層は、尾尻段丘堆積物で、その層相から4つの部層に区分される。C1層はB2層と漸移的であり、地層境界ははっきしと識別できないが礫の含有率(C1層は礫が多い)から本層をB2層と分けた。トレンチの北半部(C層が低くなっている部分)に巨礫が堆積し,南半部ではシルトがちの砂礫層になる。本層は、巨礫(30〜60cm)を含む不淘汰な砂礫層からなる。基質は本層下部が砂質で上部がローム質である。

C2層:C2層は、C1層に整合的に覆われ、C3、C4層をチャネル状に削り込む。その分布は南側法面、南西側法面の全面で見られる。その他は東側法面で[E4.7]から南に、西側法面で[W6.2]から南に分布する。層厚は20〜170cmであり、下位層を累重的に覆うところで薄く、削り込むところで厚い。本層は分級の良いラミナの発達した砂のレンズを挟在する。中〜大礫(粒径2〜20cm)の亜円〜亜角礫層からなる。礫層の基質は黄褐色中粒砂〜細礫で火山灰質である。

C3層:C3層は比較的均質な砂礫層で他と比べ基質の量が多い。東側法面では[E6.8]より南へ、西側法面では[W4.6〜9.6]に分布する。また、南側法面で[S0.5]より東に分布し、西方でC2層に削り込まれる。その層厚は50cm程度である。本層はFa断層、Fb断層及びFc断層に切られ、断層を境に北側が落ちている。中〜大礫(粒径2〜10cm)の亜円〜亜角礫層からなり、基質は黄褐色粗粒砂〜極粗粒砂である。全体的に淘汰が悪いが、しまりは良い。礫のインブリケーションや弱いラミナが発達する。

C4層:トレンチの最下部に分布しており、層厚は少なくとも50cm以上である。トレンチ内では東側法面で[E6.0]より南に、西側法面では[W7.0]より南に分布する。本礫層はFa断層、Fb断層及びFc断層に切られ,断層を境に北側が落ちている。本礫層は中〜大礫(粒径10〜30cm)の亜円〜亜角礫層からなる。大礫主体で、基質は黄褐色シルト混じり中粒砂〜粗粒砂で、淘汰は良い。基質が少なく、礫がちなところも見られる。全体的にしまっているが、礫の淘汰はあまり良くなく、成層していない。

c 葛葉台トレンチの断層と構造 

トレンチ内において断層もしくはその活動に影響されたと考えられる構造として次のものが観察された。

・ トレンチ内の西側・東側両法面では、トレンチのほぼ中央を東西に横断して礫層(C層)の頂面に約1mの高度差が確認された。この礫層の頂面は堆積時には一連のものとしてある程度水平であると考えられるので、この礫層の高度差は断層活動によって生じた可能性が高い。

この礫層頂面の高度不連続部分を詳細に見ると、西側法面では[W6.0〜7.0]でC1層とC3層がZ字型に屈曲している構造が観察され、断層面(Fa断層)が想定される(図21)が、明瞭なせん断面は認められない。ここの断層面上の食い違い量はC3層基底で約15cmである。

一方、東側法面では礫層の変形に対応して、C4層中に礫の直線的配列による断層面(Fb断層)が確認される(図22)。この断層面の走向傾斜はN8E,29Sである。西側法面と同様にC1層、C3層及びC4層は屈曲して変形している。さらに下盤側にはFb断層と平行なFc断層が認められる。Fc断層は、C1層C3層の基底の食い違いから推定される。

・ 西側法面の[W7.0〜9.0]には不明瞭ながらB1層中にクラックとも考えられる面構造が観察された(図23)。この面構造の上方ではスコリア層(Y−129−4)には食い違いも観察され、その量は20cmとなっている。ただし、この面構造は礫層中には明瞭な形で連続してはいない。

d 葛葉台トレンチの解釈 

トレンチ底部にみられる段丘礫層の頂面は、逆傾斜あるいは下流側がふくらんで高くなっている。また、トレンチ法面では尾尻段丘礫層を切断する南傾斜の小断層群(Fa、Fb及びFc断層)がみられ、尾尻礫層は小断層を伴いながら屈曲して南上がりの変形をしている。これは想定していた秦野断層の変位方向と逆である。このことから、これらの小断層群と礫層の屈曲は、秦野断層の本体の活動を直接示しているのではなく、付随した副断層による変形と考えられる。

小断層群を上方へ追跡すると富士山起源のY−129−2火山灰までは確実に変位させている。Y−129の年代は、その上位のY−130の年代が約1.7万年前とされていることから、その少し前と考えられる。したがって、この副断層はY−129グル−プの火山灰降下時(約1.7万年前)に活動したと考えられる。従って、主断層である秦野断層本体もこのときに活動したと思われるが、それ以降、完新世に活動している可能性も、秦野断層の活動度がA〜B級であり、地形的にも変位が明瞭であることから十分考えられる。