(1)トレンチ調査結果(展開図)

トレンチ調査結果のスケッチ原図は≪別冊付図≫付図10−1−1、付図10−1−2、付図10−1−3、付図10−1−4「トレンチ法面スケッチ図(1/20)」であり、それを縮小して付図5−1「トレンチ法面スケッチ図(1/50)」に示した。トレンチ周辺の地形平面図を図2−5−2、スケッチ概要図を図2−5−3−1図2−5−3−2図2−5−3−3、に示した。また、トレンチ壁面写真を写真<日向>(1)〜(27)に示した。

(1)日向トレンチの地層構成

日向トレンチの地層は以下に述べるE腐植土混り粘土とF泥炭を除くと、大半がテフラ層とその二次堆積物から構成されている。下位より@〜Kと区分し、地層名とその性状を以下に述べる。

@立川礫層(Tcg)

本トレンチの基底部ほぼ水平に分布する。緑色岩の円〜亜円礫含む礫層でマトリックスはローム。基底部は法面からの湧水により水没しているためシンウォールチューブのサンプリング(N17〜N23区間)と簡易測量により確認した。

A立川ローム層(TcL)

粗粒のスコリア、軽石を含むローム層、新鮮な面では灰色を呈するがすぐに酸化し、明褐色となる。葦などの腐植片を多く含む事から水中もしくは水辺の堆積物と考えられる。

本ローム層の下部、及び中・上部には、緩く西側に傾斜したすべり面が確認された。すべり面は、幅3〜7oの灰色の粘土を伴う。また、地下水の作用によると思われる硬質な暗緑色のすじが不規則に入る。

A´立川ローム層(TcL´)

褐色に酸化した硬質部で、粗粒のローム層。縦方向に不規則な亀裂が発達し、D黒色土が亀裂中に入り込む。こ亀裂はA立川ローム層まで達するものもある。

Bローム質褐色土(木片混り)

褐色〜暗灰褐のローム質土、草根や木片を多く含む。またN面では斜長石(Pl)・スコリア質砂のレンズを含む。下位のA立川ローム層を削り込んで堆積している。

C暗茶褐色土(木片・腐植混り)

木片、腐植片を多く含む暗茶褐色土で、流路の基底部に堆積する。S面の基底から縄文中期後葉の土器片が出土した。下位層との関係は不整合である。 

D黒色土

φ2〜5oのスコリア・木片を散在する黒色土。本層の一部は流路に落ち込みC暗茶 褐色土の上に堆積している。〔S−6−2〕※期の白色火山灰の薄層を挟む。下位のBローム質褐色土とは整合で境界はやや不明瞭である。

※ 〔  〕は、上杉 陽氏鑑定によるテフラの名称である。なお、この鑑定は肉眼のみによるもので、顕微鏡段階の確認作業が終了していない暫定的なものである。以下同じ。

E暗灰色粘土(腐植混じり)

腐植片、木片を多く含む暗灰色の粘土層で、流路より西側では特に木片を多く含む。

軟弱な粘土層であることから、かなりの圧密沈下が考えられる。〔S−6−3〕期の火山灰、スコリア質砂の薄層を挟む。下位のD黒色土層の一部を削り込んで堆積している。

F泥炭・黒色土

未分解の植物片を多く含む泥炭及び有機片を含む黒色土。

西側では泥炭が厚く(実層厚約1.1m)堆積し、東に向って徐々に薄くなり、N11〜13,S12〜10付近では、黒色土へと斬移する。この境界は極めて不明瞭となっている事から同時異層であると考えられ、東側では陸域、西側では湿原といった堆積環境の違いがあったと推察される。泥炭層の部分では、テフラ層の保存が良く〔S−8,9,10,11,12〕及びカワゴ平軽石〔Kg〕等のテフラ層が確認されたが、黒色土の部分では、各テフラ層の境界は不明瞭となる。

また、本層のE腐植混り粘土と同様に軟弱であるため、かなりの圧密沈下が考えられる。下位層との関係は整合。

Gスコリア質黒色土

φ1〜5o程度のスコリアを多く含む黒色土、スコリアは所々層状をなし、2〜3層のスコリア層を確認できるが大半は層全体に散在する。

H黒色〜暗褐色スコリア質土

スコリアを多く含む黒色〜暗褐色土で下位のスコリア混り黒色土とは漸移するため、境界は極めて不明瞭である。マトリックスにシルトを多く含み、上部はシルト層を挟在している。また、本層の上部には、上下にシルトの薄層を伴なった〔S−22〕スコリアが堆積しており、このシルト層は、N面で4°、S面で1.5°西側に傾斜している。

I茶褐色ローム質土

最上面〜中部に宝永スコリア(Ho)を含む、茶褐色のローム質土。上位は東側ではK耕作土に漸移し、西側では人工的に乱されており、その一部はJ旧盛土となる。

J旧盛土(ローム質土)

I茶褐色ローム質土の人工的攪乱土と思われる。宝永スコリア(Ho)を人工的に集積した跡が認められる。

K耕作土(畑)〜水田土壌

農道より東側では、茶褐色の耕作土(ローム質土)、西側では、褐灰色水田土壌(粘性土)となっている。

(2)日向トレンチのテフラ層

  前述したように、本トレンチは大半がテフラ起源の地層で構成されている。今回確認 された主要なテフラ層について以下に述べる。

 ・〔S−6〕白色火山灰(tf)層

   D黒色土層中に挟存する白色火山灰の薄層

 ・〔S−6´〕スコリア層

   E暗灰色粘土層中にみられる、スコリア質な火山砂、層厚は1.5〜2p。

 ・〔S−8〕スコリア層

   F泥炭・黒色土層下部にみられる極細粒(φ<0.5o)スコリア層。泥炭層中ではほぼ連続して確認できるが、黒色土層中では断続的となる。

 ・〔S−j9〕スコリア層

   F泥炭・黒色土層下部にみられる中粒(φ2〜5o)スコリア層、泥炭層の厚い部分では、断続的に確認できるが、東側ではほとんど確認できない。

 ・〔S−10〕スコリア層(湯舟第一スコリア)

   F泥炭・黒色土層中部にみられる粗粒(φ8〜10o,max15o)のスコリア、層厚は3〜6pで、泥炭層中では連続して明瞭に確認できるが、黒色土層中では上位の〔S−  11〕スコリア層と重ってしまい、境界も不明瞭となる。

 ・〔S−11〕スコリア層(湯舟第一スコリア)

   F泥炭・黒色土層中にみられる粗粒(φ3〜6o,max10o)のスコリア。層厚は3〜5pで〔S−10〕スコリアと同様に泥炭層中では明瞭に連続するが、黒色土層中では  不明瞭で〔S−10〕スコリアと重なる。

 ・〔Kg〕カワゴ平軽石

   〔S−11〕の上下にみられ、不規則なレンズ状及び層状に分布する。黄白色〜灰白色の粘土状を呈し、一部は〔S−11〕スコリアに付着している。火山ガラスを含む。

 ・〔S−12〕スコリア層

   F泥炭・黒色土層上部にみられる中粒(φ2〜6o)のスコリア層厚は、2〜4pで泥炭層〜黒色土層までほぼ連続して確認できる。

 ・〔S−22〕スコリア層

   H黒色〜暗褐色スコリア質土上部にみられる中粒(φ1〜5o,max10o)のスコリア、N12〜20,S10〜17に分布する。層厚は、7〜15pで上下に層厚2〜3pの黒褐色〜暗褐色シルトの薄層を伴っている。シルトはスコリア層中にもラミナを伴って挟在  する。

 ・〔S−23〜24〕スコリア

   I暗褐色スコリア質土、I茶褐色ローム質土層中に散在するスコリア、単層としては確認できない。

 ・〔S−25〕宝永スコリア層(Ho)

   I茶褐色ローム質土層中部〜最上部にみられる細粒(φ1〜2o)のスコリア層、  軽石が散在し、レンズ状、ダンゴ状に分布する。また、J旧盛土層中にも人工的に集積したとみられる宝永スコリア層がみられる。

(3)日向トレンチでみられる地質構造

@立川礫層は、トレンチ底面にわずかに露出するのみで、シンウォールチューブ打ち込みによる調査では西へわずか1°程度傾斜することがわかった(N17〜23間)。

A立川ローム層は、水中堆積とみられ、倒伏した水草の存在から堆積面はわずかに西へ傾斜している。この地層中に見られる縦亀裂はほぼ南北方向に近い。例えばTcL´の上面の土壌を含む亀裂はN26W/58Eである。立川ローム層を切る地すべり面は、下部にほぼ水平であるが、中間及び上部のものは見掛けで11〜14°、実傾斜で8.5〜11°とかなり緩傾斜である。すべり面は黄白色〜灰色のシルト〜粘土状で厚さ2〜3oのも のが多く、密着している。

Bローム質褐色土(木片混じり)とA立川ローム層の境界は凹凸が多いが、全体とし

て西側に傾斜しており、削り込み地形が発達する前に立川ローム層上面を侵食して堆積したものと考えられる。しかも、Bは樹木の小枝を多量に含む地層であることから、やや強い流れのもとで形成されたと思われる。C暗茶褐色土は木片を多量に含む点でBと共通性があり、Bの再堆積と考えられる。E暗灰色粘土の下部とD黒色土のすべり落ち部とはほぼ同時期でS面では指交関係が認められる。また、C、D及びDのすべり落ち部には玉状の白色火山灰が含まれ、テフラ分析(5−3−2(2))の結果から同質であることが判明した。よって、C、D、Eの下部層の各々の地層は生成時期がほぼ同時代の可能性がある。

削り込み流路の東側にはN面、S面とも長さ1m程の斜めの亀裂がある(走向・傾

斜N18.5の位置でN3E/64E、S17.5でN43W/58E)。これらは下方にも上方に延びず、密着して横方向の条線があるが地層を変位させていない。亀裂の上限はE層中間のスコリア質サージ堆積物を切って止まる。その形成機構は不明だが、E層中間層の堆積時点で地震動を受けて当時の地表部に亀裂が入った可能性が考えられる。少なくとも、岩盤を切る断層ではない。Eの上部層は削り込み流路のみならず、広範囲に堆積している(幅15m余)。

F泥炭層は、当初、水深がごく浅い湿原で水平に堆積したとみられるが、現在は削り込み流路付近で折れ曲がったように東側が傾斜している(見掛11°、実傾斜8.6°)。西側はほぼ水平である。泥炭の東側(基準線より上側)が黒色土に移化することから、この東側部分は、元々水辺近くの陸地であったために、泥炭が土壌化した可能性が考えられる。

H層のS−22スコリアはN面で見掛4°(実傾斜3.1°)、S面で見掛1.5°(実傾斜1.2°)と極めて緩く西側へ傾斜している。このスコリアはシルトを伴うことから、本来は水平であったが、堆積後、傾斜したと言える。

E〜F層は堆積直後から圧密沈下が進行したことが考えられ、元の水面をスケッチ図の+1の高さとした場合、40〜50%も圧縮しなければならず、圧密沈下のみでは地層傾斜を説明しにくい。したがって、現在の地層傾斜は、粘土及び泥炭層の圧密沈下に地盤の傾動が加わった複合現象と考えられる。地盤の傾動は地下の断層変位(東上り)に伴う撓曲変形の表れと考えられる。傾動の時期は泥炭層の上面堆積以降、かつ宝永スコリア堆積以前で、S−22スコリア堆積以降の場合も考えられる。

宝永スコリア(Ho)の分布は、東側の畑で高く、西側の水田で低い。その比高は見掛高で1.1〜1.2m、実高で0.86〜0.94m、すなわち約90pである。これは、宝永期にはすでに現在あるような段差が存在したことを示す。

図2−5−2 トレンチ周辺の地形平面図<日向トレンチ>

図2−5−3−1 <日向トレンチN面>スケッチ概要図

境界変更

I TcL 黒色土

(下部は漸移層)

基準線78.66m

SCO;スコリア

***↓↓↑↑

(木片混じり)

(木片・腐植混り)

暗灰色粘土(腐植混じり)

(注)年代値の*印はテフラ年代

   と一致しないもの(以下同じ)

図2−5−3−2 <日向トレンチS面>スケッチ概要図

(Ho) (Ho)(Ho)(Ho)

基準線78.66m

S−6´(tf)

土器

(縄文時代中期後葉)

暗灰色粘土(腐植混り)

図2−5−3−3 <日向トレンチW面・E面>スケッチ概要図

基準線78.66m

基準線78.66m

TcL

境界変更

※凡例は前ページ参照 ※凡例は前ページ参照