(1)大深度反射法探査(S−1)結果

(1)受振器と起震の状況

約6.7kmに及ぶ調査測線は、厚木市岡田の東名高速道路の料金所付近を東端として、相模川支流の玉川沿いに船子,愛甲,岡津古久を通過し、実蒔原古戦場跡を経て伊勢原市日向に抜け、伊勢原浄水場を超えた行人橋付近で西端に至る。測線の西側の古戦場跡の近くには伊勢原断層が想定されている。図2−3−3に受振器と起震(バイブレータ・油圧インパクタ)位置を示す。

<受 振>

受振器タイプ :SM−7(f0=10Hz,18個/グループ)

受振点間隔 :25m

受振点総数 :271点

測線長 :6.7km

<発 震>

道路幅に制約があり,3種類の震源を使用した.

震源 :バイブレータ Y−2400 2台

発震点間隔 :50m(平均)

発震範囲 :Loc.2−188,225−238,271−280(受振点なし)

発震点総数 :82点(テスト記録を除く)

スタック回数  :16回(標準)

スイープ周波数 :8−50Hz

スイープ長   :16秒

震源 :油圧インパクタ JMI−200 1台

発震点間隔 :25m(平均)

発震範囲 :Loc.200−224,225−238(バイブレータとのオーバーラップ分)

発震点総数 :15点(テストとオーバーラップ記録を除く)

スタック回数  :16回(標準)

震源 :油圧ミニインパクタ CJM−MINI65 1台

発震点間隔 :50m(平均)

発震範囲 :Loc.247−255

発震点総数 :5点

スタック回数  :24回

<探鉱機>

探鉱機 :G・DAPS−3

低域遮断フィルター :8Hz/18db/oct

高域遮断フィルター :180Hz/72db/oct

チャネル数 :271CH

サンプリング :2msec

記録長     :5秒

標準重合数 :60以上

図2−3−3 受振器と発震点位置図(S−1)

(2)調査結果

厚木市から伊勢原市にかけての東西方向で実施した大深度反射法探査(S−1)測線位置を図2−3−4に示す。また、ショット記録を図2−3−5−1図2−3−5−2に示す。

 解析結果として、表層構造を図2−3−6、速度構造図(速度プロファイル)を図2−3−7時間断面図(重合断面)を図2−3−8、時間マイグレーション図を図2−3−9、深度断面図を図2−3−10−1図2−3−10−2に示す。また、地質資料による地層境界等の解釈を加えて作成した地質構造解釈図を図2−3−11に示す。

図2−3−5−1は測線の東側と中央部で得られたショット記録である。左側が測線東側での発震記録(VP 1002)で、右側が測線中央部での発震記録(VP1137)である。図2−3−5−2は測線西側で得られたショット記録である。左側がバイブレータによる記録(VP 238)で、右側がインパクタによる記録(SP 238)である。これらの比較から判断すれば、バイブレータの効きがインパクタと比べてはるかに良い事が分かる。

図2−3−6はタイムターム法と呼ばれる屈折波解析により求められた結果をまとめたものである。最上部は各受振点と発震点のタイムターム値を示したもので、低速度層の厚いところで大きな正の値となっている。中央部は表層の速度を1000mに仮定して求めた表層基底層の速度を示している。測線の西側と中央で2800m/s程度の速度が見られ、そこから東に進むにつれその速度は僅かに減少し、東端では2200m/s程度になっている。最下部は表層構造図であり、実標高と共に表層の厚さが示されている。測線の西側の古戦場跡付近まではほぼ一様に40mになっているが、Loc.200〜Loc.120の間は20m以下とこの地域としては薄くなっており、更に東側の平地部では40m〜70mと再び厚くなっている。

図2−3−7は反射法の処理の過程で得られた速度構造図(速度プロファイル)である。図中に示した等速度線は重合速度に基づくものである。本調査地では明瞭なイベントがあまりないため、精度の高い速度構造図が得られているとは言い難い。しかしながら、測線の中央部付近で若干の速度上昇が見られる。

図2−3−8は時間断面図(重合断面)であり、高周波のノイズを低減させる帯域通過フィルターを施して2.0秒まで表示してある。

図2−3−9は時間マイグレーション図で、重合断面図の中に見られる傾斜した構造は正しい位置に修正されると共に、回折波がなくなり、記録が整理されているのが分かる。

図2−3−10−1は時間マイグレーション断面図を速度構造に基づき深度領域に変換した深度断面図で、深度4.0kmまでを表示してある。この際用いた速度構造は、既に示した図2−3−7の速度構造を測線方向に平滑化したものである。この図面の縦横比は1:1になっているため、図面上での傾斜角は実際の傾斜角に対応する。図2−3−10−2はカラー表示した図である。

図2−3−11図2−3−10−2の深度断面図(カラー表示)をもとに、既存の情報を考慮して解釈した地質構造解釈図である。

(3)考察(地質構造解釈)

解析の結果得られた深度断面図に、特徴的な反射波境界及び推定される断層等について解釈を行った結果を図2−3−11に示す。全般的には、明瞭な反射イベントが少なく地質構造解釈が難しい断面図となっている。図中に示した数値は、反射法処理により求めた各地層のP波区間速度である。

調査測線に沿って断面図を見ると、浅部に現世のものと考えられる比較的平坦な地層からの反射波が見られ、その区間速度は2,000〜2,500m/s程度であり、表層基底層の速度と調和している。その反射はLoc.140〜200付近と230より西側では不明瞭になっている。その下位には断片的であるが比較的強い反射イベント(一部は緑でマーキング)が見える。それより下位には断片的なものを含めほとんど反射イベントを認めることができない事から基盤である可能性が高い。この反射面の深度は東端からLoc.130まではおよそ500mで、そこより東傾斜となり、幾つかの小規模な断層により切断されながら、Loc.180付近では1000m前後の深度に達し、西端では不明瞭なものの500m程度にまで浅くなっていく様に見える。基盤と考えられる反射面の直上部の区間速度は,測線中央部より東側に於いては4,400〜4,800m/sになっているのに対し、測線西側では5,000m/s前後になっている。一方、完新世より下位のローム層と考えられる層準の浅部に於いては、測線の西側で2,700〜3,400m/sの区間速度になっている。尚、基盤と考えられる反射面の直下付近では5,000〜5,500m/sの区間速度となっている。

図2−3−11の地質構造解釈図には、実線で示した F1,F2,F3の断層と破線で示した小規模なa,b,cの断層群を推定した。

F1が主断層で、a,b,cはその派生断層と考えられるが、2000〜2500m/secの新しい地層を切って地表まで達しているかどうかは不明である。F1は、東傾斜(傾斜角約50゚)の構造を深度約1700mまで示し、伊勢原断層に対応するものと考えられる。神奈川県地質図の「藤沢」図幅によれば、aは青野原−煤ケ谷線に対応し、b、cは愛川層群中に認められる褶曲構造に関連した断層に対応するものと考えられる。

F2、F3は、2000〜2500m/secの新しい地層を切っているようにみられるが、確実なものではない。東傾斜(傾斜角約70〜80゚)の構造が深度約800mまで読みとれるが、公表済みの文献ではこれらに対応する断層は示されていない。

地質構造解釈図に示した地質は、岡ほか(1979)43)によるもので、Loc.40〜120付近は小仏層群(Kb)、Loc.130〜200付近は愛川層群(Tra)、Loc.220〜260付近は丹沢層群(Trt)が分布するものと推定される。

(3)考察(地質構造解釈)

解析の結果得られた深度断面図に、特徴的な反射波境界及び推定される断層等について解釈を行った結果を図2−3−11に示す。全般的には、明瞭な反射イベントが少なく地質構造解釈が難しい断面図となっている。図中に示した数値は、反射法処理により求めた各地層のP波区間速度である。

調査測線に沿って断面図を見ると、浅部に現世のものと考えられる比較的平坦な地層からの反射波が見られ、その区間速度は2,000〜2,500m/s程度であり、表層基底層の速度と調和している。その反射はLoc.140〜200付近と230より西側では不明瞭になっている。その下位には断片的であるが比較的強い反射イベント(一部は緑でマーキング)が見える。それより下位には断片的なものを含めほとんど反射イベントを認めることができない事から基盤である可能性が高い。この反射面の深度は東端からLoc.130まではおよそ500mで、そこより東傾斜となり、幾つかの小規模な断層により切断されながら、Loc.180付近では1000m前後の深度に達し、西端では不明瞭なものの500m程度にまで浅くなっていく様に見える。基盤と考えられる反射面の直上部の区間速度は,測線中央部より東側に於いては4,400〜4,800m/sになっているのに対し、測線西側では5,000m/s前後になっている。一方、完新世より下位のローム層と考えられる層準の浅部に於いては、測線の西側で2,700〜3,400m/sの区間速度になっている。尚、基盤と考えられる反射面の直下付近では5,000〜5,500m/sの区間速度となっている。

図2−3−11の地質構造解釈図には、実線で示した F1,F2,F3の断層と破線で示した小規模なa,b,cの断層群を推定した。

F1が主断層で、a,b,cはその派生断層と考えられるが、2000〜2500m/secの新しい地層を切って地表まで達しているかどうかは不明である。F1は、東傾斜(傾斜角約50゚)の構造を深度約1700mまで示し、伊勢原断層に対応するものと考えられる。神奈川県地質図の「藤沢」図幅によれば、aは青野原−煤ケ谷線に対応し、b、cは愛川層群中に認められる褶曲構造に関連した断層に対応するものと考えられる。

F2、F3は、2000〜2500m/secの新しい地層を切っているようにみられるが、確実なものではない。東傾斜(傾斜角約70〜80゚)の構造が深度約800mまで読みとれるが、公表済みの文献ではこれらに対応する断層は示されていない。

地質構造解釈図に示した地質は、岡ほか(1979)43)によるもので、Loc.40〜120付近は小仏層群(Kb)、Loc.130〜200付近は愛川層群(Tra)、Loc.220〜260付近は丹沢層群(Trt)が分布するものと推定される。

図2−3−5−1 ショット記録例(1)

図2−3−5−2 ショット記録例(2)

図2−3−6 表層構造 図2−3−7 速度構造図(速度プロファイル)

図2−3−8 時間断面図(重合断面)(S−1)

図2−3−9 時間マイグレーション図(S−1)

図2−3−10−1 深度断面図(S−1)

図2−3−10−2 深度断面図カラー表示(S−1)

図2−3−11 地質構造解釈図(S−1)

<断層>

F1:伊勢原断層に対応

F2:対応する断層は既存文献にない

F3:対応する断層は既存文献にない

<派生断層>

a:青野原−煤ケ谷線に相当

b,c:向斜軸・背斜軸の地下における断層に相当

<地質>

Tra:愛川層群

Trt:丹沢層群

Kb :小仏層群

岡ほか(1979)43