4−4−2 内木場東地点のトレンチ調査結果

内木場東地点では, 平成10年度に,ボーリング調査及びトレンチ調査を実施した(図4−45)。その結果によると,断層は,北西側の貫入岩(肥薩火山岩類)と南東側の四万十層群とを境していること(図4−46),これらの基盤岩を覆う入戸火砕流堆積物以降の礫層に変位を与える比較的低角度な正断層であること(図4−47)が確認され,この断層はアカホヤ火山灰層(約6300年前)起源のガラスを含む堆積物に変位を与えていないものと推定された(図4−47)。

平成12年度の調査では,平成10年度に掘削したトレンチ(第1)の南西側に, 平行して,第2及び第3の2つのトレンチを掘削した(図4−48)。第2トレンチの平面図を図4−49に,スケッチ・写真を図4−50−1図4−50−2図4−51−1図4−51−2に, 火山灰分析結果を図4−52−1図4−52−2に,第3トレンチの平面図を図4−53に,スケッチ・写真を図4−54−1図4−54−2図4−55−1図4−55−2に, 火山灰分析結果を図4−56−1図4−56−2に,また,第1,第2及び第3トレンチの高度関係を図4−57に示す。

第2及び第3の両トレンチ共に, 平成10年度に調査を行った第1トレンチと同様に, 断層面の傾斜が50°程度の比較的低角度な正断層が礫層等の堆積物に北西落ちの変位を与えていることが確認された。第2トレンチでは, 断層が四万十層群と礫層とを境する区間で, 幅約30cmの礫が断層面に沿って配列し, 擾乱帯となっており(図4−50−1図4−50−2図4−51−1図4−51−2), 第3トレンチでは, 暗橙色砂質シルト層が断層面に沿って引きずられている(図4−54−1図4−54−2図4−55−1図4−55−2)。また,第2トレンチでは, 断層面上に明瞭な鉛直方向の条線が認められた(図4−51−2 )。

第2トレンチにおいては,四万十層群を覆う堆積物は,下位より,赤色角礫層,角礫層,砂質礫層からなる礫層及びこれらの礫層を覆って細礫混じりローム層,礫混じり砂層からなり,断層は,地表面に近い細礫混じりローム層まで達していることが確認され(図4−49図4−50−1図4−50−2図4−51−1図4−51−2),この細礫混じりローム層からアカホヤ火山灰層(約6300年前)起源のガラスが多量に検出された(図4−52−2 )。このことから,断層はアカホヤ火山灰層降下以降にも活動したものと考えられ,細礫混じりローム層基底面の鉛直変位量は約75cmである(図4−52−2 )。このアカホヤ火山灰降下以降における断層活動は,地表面との関係等からみて最新活動と考えられ,その時期は断層を覆って分布する礫混じり砂層に変位は認められないことから,同砂層堆積以前であるが,同砂層の年代の特定はできなかった。

第3トレンチでは,四万十層群を覆って,下位より,赤色風化角礫層(a層),橙色シルト質砂層(b層),細粒角礫層(c層),赤褐色シルト質細礫層(d層),灰褐色細礫層(e層),ローム質細礫層(f層)及び礫混じり砂層(g層)が分布する(図4−53図4−54−1図4−54−2図4−55−1図4−55−2)。これらのうち,b層から約 29000y.B.P.,e層基底部から約 13500y.B.P.,f層基底部から約8000y.B.P.の14C年代値が得られた(図4−54−1図4−54−2図4−55−1図4−55−2)。

断層は,地表面に近いローム質細礫層(f層)まで達しており,その上位の礫混じり砂層及び黒色土壌には変位がないことが確認された。変位を受けているローム質細礫層からアカホヤ火山灰層(約6300年前)起源のガラスが多量に検出され(図4−56−1図4−56−2),変位を受けていない黒色土壌の14C年代は690 ±70y.B.P.の値を示す。このことから,第2トレンチと同様,最新活動時期は,アカホヤ火山灰層降下期の約6300y.B.P.以降,約700 y.B.P.以前であり,その際の鉛直変位量は,ローム質細礫層基底面の鉛直変位量の約70cm〜約75cmである(図4−56−1図4−56−2)。

最新活動以前の活動としては,e層基底の鉛直変位量はf層のそれに比べて大きく約1.5mであること(図4−56−1図4−56−2),第3トレンチ南西側法面では,e層は断層の低下側で厚く,隆起側では上位のf層に削剥されて極めて薄いか,欠如すること(図4−56−2 )から,e層堆積以降,f層堆積以前の断層活動が推定される(図4−56−1図4−56−2)。

この活動は最新の一回前の活動となり,その時期は,e層及びf層の14C年代から,約 13500y.B.P.以降,約8000y.B.P.以前となる。

e層堆積以前についても,d層及びc層のいずれも,e層と同様に,層厚が低下側で厚く,鉛直変位量も累積的に大きくなることから,d層堆積以降,e層堆積以前及びc層堆積以降,d層堆積以前の2回の断層活動が推定できる(図4−56−1図4−56−2)。

以上のように,第3トレンチでは,b層堆積以降,すなわち,約 29000y.B.P.以降において,4回の断層活動が推定され,b層の累積鉛直変位量は約3mである(図4−56−1図4−56−2。この場合,約 29000y.B.P.以降における平均的な活動間隔は9500年〜5800年,単位変位量は0.75m と算出される。

なお,本トレンチでは,いずれの地層も傾斜しているものの,この傾斜は,下位層から上位層まで傾斜角度がほぼ同じであり,累積性が認められないことから, 断層活動に伴う変形ではなく,崖錐性の斜面堆積物であるための初生的な傾斜と考えられる。