4−9−2 断層の形態と活動性

本断層帯では, 内木場セグメントに位置する内木場地点,内木場東地点及び宇都野々セグメントに位置する宇都野々地点,君名川地点において,ボーリング調査及びトレンチ調査を実施した。各地点における調査の結果は以下のとおりである。 内木場地点では,基盤の四万十層群中に顕著な断層破砕部が認められた。断層は, 阿蘇4テフラ起源のガラス及び鉱物を含む堆積物に変位を与えていることから,約9万年前〜約7万年前以降に断層変位を伴う活動が起こったことが明らかとなった。

内木場東地点においては, 断層は, 基盤中では幅の広い粘土破砕部を伴う高角度断層であり, 上方では堆積物と基盤とを境し,断層面の傾斜が50°〜45°と緩い低角度の正断層である。この断層は,姶良Tn火山灰層層準及びそれより新しい礫層に変位を与え,アカホヤ火山灰層層準の礫層に覆われていることが確認された。

宇都野々地点においては, 基盤の四万十層群中に断層破砕部が確認され,その上方で入戸火砕流堆積物等の堆積物が40°程度北傾斜の平滑な面で基盤と接していることが明らかとなった。しかし,今回のボーリング調査の精度では,入戸火砕流堆積物における断層変位の有無を確かめることはできなかった。

君名川地点においては, 宇都野々地点と同様,入戸火砕流堆積物等の堆積物が約50°の平滑な「すべり面」で基盤の四万十層群に接し,この面は下方で四万十層群の断層破砕部に連続している。「すべり面」上盤側の入戸火砕流堆積物中には多くの「スジ状断裂」が認められ, 入戸火砕流堆積物の上位の礫層が「スジ状断裂」沿いに落ち込んでいること,約5800年前の礫層には,断層活動を示唆する現象が認められないことなどが確認された。

以上のように,内木場東地点,宇都野々地点及び君名川地点のいずれにおいても,入戸火砕流堆積物あるいはそれに相当する堆積物が,50°〜40°の角度で傾斜した平滑な面で基盤の四万十層群に接していることが明らかとなった。この形態は,河川等の侵食に伴って形成された基盤の急傾斜面(崖)に,入戸火砕流堆積物がアバットしたと考えることによっても説明可能である。しかし,この考えに基づくと,君名川から内木場に至る10km以上の区間に,NE−SW〜 ENE−WSW 方向に連続する直線的な河川を想定することが必要であるが,入戸火砕流堆積物が堆積した比較的新しい時期(約 25000年前)にそのような方向の河川を考えることは極めて困難である。

リニアメントとして判読される山地北縁の三角末端面状の急崖は,極めて直線的であり,急崖の崖面は平滑でかつ新鮮であること,急崖の連続方向は主な河川の流下方向と直交することなどから,河川等の侵食あるいは地すべりで形成されたとは考えにくい。また,これらの三角末端面状の急崖が,入戸火砕流堆積物が出水平野に流入した際の流路となった大きな河川沿いを除き,入戸火砕流堆積物の分布の南縁を限っている。

これらのことを考慮して,各地点における調査結果を総合的に解釈した本断層の模式断面は図4−40に示すとおりである。すなわち,基盤中の高角度断層は, 上方の堆積物中で低角度の正断層となり, その活動により上盤側の入戸火砕流堆積物内に多くの「スジ状断裂」を生じたと解釈される。

したがって,本断層帯のうち,内木場セグメント及び宇都野々セグメントにおいて,入戸火砕流堆積物堆積以降における断層活動があったことが推定され,内木場東地点ではアカホヤ火山灰層層準に,君名川地点では約5800年前の堆積物に変位が認められないことから,最新活動は,約 25000年前以降,約6000年前以前にあった可能性が高いことになる。

しかし, 平成10年度までの調査では, 最新活動以前の活動時期が特定できていないことから,活動間隔,地震の切迫度に関して言及できない。