11−1−4 北湯口トレンチにおけるひとつ前のイベントの認定

本調査では北湯口トレンチにおいてひとつ前のイべント(断層活動)を認定するために、南側法面(3S面) において深度ごとの断層面に沿うスリップ量との関係をグラフ化した(図7−5)。その結果、深度1.79m までのスリップ量は0.5m前後であり、深度2.08m 〜4.1mまでのスリップ量は1.1m前後である。トレンチ内でみられる各地層の層相、性質によって変形様式が異なり、若干のスリップ量の差があらわれているものの、スリップ量は深度2.08m を境にほぼ2倍になり、等量の変位を繰り返し行ってきたことを示唆する。したがって、ひとつ前のイベントは深度2.08m のD層堆積以降、深度1.79m のC層堆積以前である。

D層は渡辺トレンチのUc 層 (26,200±400y.B.P.)に相当するので、花巻断層帯のF1断層について限れば、「ひとつ前のイベント」は14C年代に基づけば7,340 ±80y.B.P.以前、 26,200 ±400y.B.P. 以降である。

また、D層(2.6万年) とE層(3.9万年) はいずれも2回しか変位を受けていない。

北湯口トレンチが位置する地点は縮尺2.5 万分の1 の地形分類図ではLU段丘に区分されている。トレンチ内の層序をみると、下位からE層(シルト層)とD層(礫層)が整合で累重している。E層の年代は北湯口トレンチにおいて 39,390 ±740y.B.P.,37,960±1,590y.B.P. であり、渡辺トレンチにおけるW層(33,700 ±600y.B.P.)に対比される。また、D層の年代は渡辺トレンチにおいて 26,200±400y.B.P. である。D層を不整合に覆ってC層(シルト、シルト質礫層)が堆積し、その上面に土壌C1、さらにこれを覆ってB層(亜角礫層)が堆積している。C層はF1断層付近を境にして山側で厚さを減じ、平野側で厚さを増す。特にC層中のシルト質礫層はF1断層付近から山側で消滅する。これらのことから、E層とD層がLU段丘堆積物でありC層基底より上位の堆積物(厚さ約1.5m)は段丘化後の被覆層と解釈できる。

北湯口トレンチで確認されたF1断層の「ひとつ前のイベント」はD層堆積以降に起こり、高さ50cm前後の低断層崖を伴う比高2mの撓み斜面を形成したと考えられる。その後も、段丘開析谷が十分に下刻していない時期に開析谷のオーバーフローが繰り返され、C層〜B層が段丘面上に累重した。その後、最新の断層活動イベントは縄文前期の遺構直前にC層〜B層を切り発生している。その結果、北湯口では最新イベントによって撓みを含めてさらに約2mの鉛直方向の隆起が生じたと考えられる。これによって北湯口トレンチ付近では開析谷からのオーバーフローによる洪水が激減し、人間生活にとって安定した土地条件になり、遺構が形成された可能性がある。