11−1−3 最新イベント

花巻断層帯に位置する北湯口トレンチにおいて、最新イベントを含む断層変位を確認した。北湯口トレンチにおいて最新イベントを表す断層の垂直成分は東低下50〜60cmである。そしてトレンチとその周辺には断層活動に起因した幅200m程度の撓みが認められ、撓みを含めた鉛直変位量はボーリング調査等を考慮すれば東低下約4mである。これはトレンチ内でみられるD層(礫層)の鉛直変位量であり、2回分の変位を示す。したがって、鉛直方向の単位変位量(Dv )は2mである。そして、断層面の傾斜を30°と仮定すればネットスリップの単位変位量(Dn )は約4mと計算される。

最新イベントは北湯口トレンチにおいてC2 層(5,260±70y.B.P.)、C1層(7,340 ±80y.B.P.)およびB層(3,830 ±130y.B.P.)が断層によって切断されている。北側法面(2S面)では断層は縄文時代前期のフラスコ型ピットとA4層(4,350±130y.B.P.,3,680±140y.B.P. )によって覆わることが明らかである。

渡辺ほか(1993)は北湯口トレンチの南方約80m においてトレンチ調査(以下、渡辺トレンチと略称する)を行い、同トレンチにおいて上部の土壌:Uc層

(14C年代、6,050±60y.B.P.)が変位していることなどから、最新イベントを4,000 〜6,000 年前と推定している。しかし、このUc 層は断層によって切断されているのではなく、撓んでおり被覆層が明瞭でなかった。本調査の北湯口トレンチでは断層が縄文時代前期のピットによって覆われていることが確認された。 以上から最新イベントの年代は、3,830±130y.B.P. や5,260±70y.B.P.を変位させ、4,350±130y.B.P.,3,680±140y.B.P. と縄文前期の遺跡に覆われることから、約4,000 年前と限定できる。

なお、本調査では北湯口トレンチ以外にも、北上西断層帯において太田トレンチと横森山トレンチ、雫石盆地西縁断層帯において西根トレンチを実施したが、最新イベントの年代が確認できたものはない。