3−7−8 坂尻地区の調査結果

坂尻地区では,平成8年度の地形判読調査の結果を受けて,地表地質調査(精査),地形測量,トレンチ調査を実施した.

地表地質踏査(精査)では,卯辰山層,大桑層が北西ないし北北西に向かって大きく撓曲している構造が再確認されたが,地区中部から南部に広がる医王山累層では地層の走向傾斜に一定の方向性は見出せなかった.また,地区南部では流紋岩質凝灰岩中に断層露頭が見出されたが,破砕帯は珪化が進んでおり,周辺の地形,地質についても新しい地形面,堆積物を切っている状況が確認できないことから,活動時期は古いものであると推定された.

地形測量の結果では,北側から北東−南西方向に続く丘陵と平野の地形境界と調和的な方向の扇状地面に低崖ないし撓曲崖状の地形が連続し,やがて不明瞭になっていく状況が詳細に把握されたが,米軍写真撮影以降に人工改変されてやや後退していることが明らかになった.

これらの調査から,推定される断層変位地形と連続しており,かつ人工改変を受けていない崖地形を抽出し,トレンチ調査を実施した.トレンチ調査では明瞭な断層は見出せなかったが,本来ほぼ同レベルで堆積したと推定される手取扇状地礫層が,丘陵付近では平均的な扇状地礫層の堆積面より4.5mないしそれ以上高い位置にあることが明らかになった.この上昇は,手取川の堆積,浸食作用によるとは考えにくく,断層変位により上昇している可能性が高い.既存文献によると,手取扇状地礫層の形成年代は最終氷期(約2万年前)とされていることから,仮に変位量が4.5mであったとした場合の平均変位速度は23cm/1000年であると見積もれる.

また,従来,富樫断層は坂尻地区を境に南南東方向に走向を変えるとされてきたが,地区北部では卯辰山層,大桑層が系統的に大きく撓曲しているにもかかわらず南部の医王山累層にはその傾向が認められないことや,地区より南側では丘陵と扇状地の地形境界付近に位置する地形面に断層変位地形が見出せず,地形境界よりやや扇状地側でも基盤層が比較的浅い深度に出現することから,坂尻地区以南では地形境界周辺に断層が伏在している可能性は小さいと考えられる.また,地区の北側から続く地形境界と調和的な方向の扇状地面上に低崖ないし撓曲崖状の地形が認められ,地区内で徐々に不明瞭になっていくが,これは富樫断層が坂尻地区付近を末端としているか,さらに南西に連続していても,手取川の浸食,堆積作用による地形変化よりも変位量が小さいことを意味しているものと考えられる.