(3)トレンチ調査の結果

@トレンチ壁面に現れた地層の記載

トレンチ壁面には,丘陵地側から段丘レキ層,沖積層が現れた(図3−6−3−1図3−6−3−2図3−6−3−3),図3−6−4−1図3−6−4−2図3−6−4−3).

段丘レキ層は,トレンチより丘陵地側で行われた既存ボーリングの結果から,約30mの区間で約3m程度低地側が低くなり,地層が傾斜していることが分かっているが,トレンチ壁面でも低地側に向かってやや傾斜している状況が確認された.段丘レキ層は砂礫質とシルト質の部分が互層しており,厚さは8m以上あると考えられる.トレンチ最下部やE面には木片を多く含んだ腐植質シルト層が形成されている.段丘レキ層は沖積層の下部まで連続しているようにも見えるが,深度が深くなったことから確認できなかった.

沖積層は,最下部にシルト質の腐植土が見られ,それより上部は砂層,シルト層,レキ層の互層となっている.最下部の腐植土は段丘レキ層を不整合に覆い,堆積当時の地形面に沿って形成されていると考えられ,地形境界付近より低地側の方がやや厚く堆積している.その他の層はほぼ水平に堆積していることが観察された.以下に各層の層相を下位より順に記す.

図3−6−2 四十万地区調査位置詳細図 

図3−6−3−1 トレンチ壁面写真

図3−6−3−2 トレンチ壁面写真

図3−6−3−3 トレンチ壁面写真

図3−6−4−1 トレンチ壁面スケッチ(E面)

図3−6−4−2 トレンチ壁面スケッチ(N面)

図3−6−4−3 トレンチ壁面スケッチ(S面)

a)シルト・砂礫互層@

中砂,礫まじりシルト,φ5〜20mmの角礫等の互層からなる層で,乳白色から青灰色を示す.全層厚は1.0m以上である.木片や有機質を多く含む薄層を4層以上狭在し,互層の最上位は厚さ30cm程度のシルト層となっている.正断層センスの亀裂により平野側に向かって階段状に高度を下げ,互層最上位のシルト層上面はS面で約1.0m平野側が低くなっている.S面ではトレンチの最下位に連続的に露出し,b)層に整合的に,e)層に不整合に覆われる.

b)シルト・砂礫互層A

シルト,砂質シルト,砂礫の互層からなる層で,白灰色から灰色,青灰色を示す.全層厚は1.5m程度である.最上部にはラミナ状の構造がみられる.正断層センスの亀裂により平野側に向かって階段状に高度を下げ,互層最上位の砂質シルト層上面はN面で約1.5m平野側が低くなっている.N面ではa)層の上位に連続的に露出し,丘陵側ではc)層にほぼ整合に,正断層が発達する中央部はe)層に,平野側ではi)層に不整合に覆われている.

c)砂質シルト・礫互層

砂質シルトや砂礫の互層からなる層で,灰色や褐色を示す.全層厚は2.0m程度である.E面やN面の最上部には砂礫層が1.0m程度の厚さで堆積している.正断層センスの亀裂により切断されているが,N面,S面ともかなり浸食が進んでいるため見かけ上は数cm程度以下の落差しか認められない.d)層に整合的に,e)層に不整合に覆われる.

d)砂質シルト互層

礫混じり砂質シルトの互層からなる層で,灰褐色から褐色,黄土色を示す.全層厚は4m程度ないしそれ以上と推定される.E面およびS面の上部に露出し,平野側に向かってごくわずかに傾斜しているように見える.S面ではk)やl)に,E面ではf)やg)に不整合に覆われる.

e)崩積土層

a)〜d)の層を不整合に覆う層で,φ150mm程度までのくさり円礫・亜円礫を多数含む.マトリックスは青灰色から灰色の砂質シルトである.N面ではf)層〜j)層に,S面ではf)〜o)層に不整合に覆われる.

f)腐植土層@

黒色の腐植土であるが,E面では下位の30cmほどは暗褐色のシルト層となっている.N面ではやや傾斜して形成されている.g)層に覆われている.

g)砂質シルト層

底部に細礫を多く含む砂質シルト層で,褐色を示す.N面およびE面の上部に見られ,p)層に覆われている.

h)腐植土層A

黒褐色の腐植土で,S面のみに見られる.上位はp)層に不整合に覆われ,層厚は10cm程度と薄い.地層の連続性は不明瞭で,他の有機質層に対比される可能性もあるが,はっきりとしたことはわからない. 

i)有機質シルト層@

有機質を含んだ黒褐色のシルト層で,平野側の下部にほぼ水平に堆積している.また,後述の年代測定の結果では,e)層を覆って斜面に貼り付くように形成されている有機質シルトもほぼ同年代を示すことから,水中堆積と陸上堆積の2種類が同時期に形成された可能性が考えられる.j)層に整合的に覆われる.

j)砂礫層

φ数mmの亜円〜円礫からなる細礫層で,青灰色を示す.まれに木片を含んでいる.平野側の下部にほぼ水平に堆積しており,上位はk)およびm)層に整合的に覆われている.

k)腐植土層B

j)層を直接覆う腐植土層で,e)層の傾斜に沿って丘陵側に向かって高度を上げている.N面ではl)層,n)層,S面の上部はn)層によって切られており連続性は不明である.

l)腐植土層C

e)層やk)層を覆う腐植土層で,最大層厚は1.0m程度に達する.e)層の傾斜に沿って高度を上げているが,上部は浸食により不明瞭になっている.

m)砂質シルト・砂・砂礫の互層

砂質シルトや細砂,砂礫の互層からなる層で,青灰色を示す.上部の砂礫層はφ5〜50mm程度の円礫からなる.全層厚は1.5m程度で,平野側の中部にほぼ水平に堆積している.n)層には不整合に,o)層には整合的に覆われている.

n)礫まじり砂層

ちょうど地形境界の深度2m程度の位置に形成された青灰色の砂層で,細礫を含む.上位に向かうにつれて礫が多くなり,層の上部にはφ20mm以下の亜円礫を数多く含んでいる.N面ではm)層を覆ってほぼ水平に堆積している部分もあるが,大半は小規模な流路跡のような溝状の窪みに堆積している.o)に整合的に覆われている.

o)有機質シルト層A

細礫や砂を含む暗紫色のシルト層で,有機質がまじり,暗青灰色を示す.q)層に覆われている.

p)表土

丘陵側の傾斜した斜面の地表面に見られるシルト質の層で,灰色を示す.

q)盛土

地形境界より平野側の平坦地には1m程度の盛土が施されている.

Aトレンチに現れた変形

トレンチN面,S面のほぼ中央,N面ではN7〜10,S面ではS6〜10の区間に,平野側落ちの正断層センスの地層のずれが複数確認された.このずれは,上部では西傾斜50度程度で,下部に向かうにつれて緩やかになり,トレンチ底付近では30度程度となるものも見られた.走向は地形境界に沿うほぼ南北で,N面での最大落差は150cm,S面では70〜80cm程度で,c)層以下の段丘レキ層を切断している.d)層より上位の層には変位を与えていない.複数あるずれのうち,大半は正断層センスを示すが,一部は小規模な逆断層センスを示すものも見られる.