3−3−1 継続調査の対象地域

2ヶ年にわたる調査では,森本断層についてはある程度その性状が解明されたものの,富樫断層については存在が推定される以外ほとんど解明できていないのが実状である.そこで,平成10年度の調査では,前項Cの課題である富樫断層の性状解明を中心に調査を進めることが急務であるが,同時にAの森本断層の主断層についても調査を進める必要がある.

森本断層については,断層北部にあたる津幡町加賀爪から金沢市森本付近の平野上に急傾斜帯が連続していることがわかっているが,前年度までの調査結果から,これが断層崖もしくは撓曲崖である可能性が考えられることから,詳細な調査を行うことにより課題の@,A,Bについて多くの情報が得られる可能性がある.

また,平成10年度調査中に並行して行われていた梅田B遺跡の発掘調査では,平成8年度に平野側隆起の副次的な断層が確認されたトレンチ位置よりやや南側の地点で,丘陵側隆起の撓曲崖状の地形面が見出されていることから,これも調査の対象として森本断層の活動年代や形態についてより詳細な検討を行うこととした.

富樫断層について詳細な継続調査を行う場合,金沢市四十万地区より北側は住宅地が大半であることから調査用地の取得が難しく,南側でも金沢市内ではほぼ市街化が進んでおり大規模な調査を行うことは困難である.調査用地が確保できる見込みがあるのは,金沢市四十万町地区および鶴来町曽谷以南の地区である.

平成9年度に四十万地区で行った詳細調査のうち,極浅層部反射法弾性波探査の結果では,地形境界部やそれより平野側200m程度の範囲に断層が伏在していると推定された.このうち,より新しい活動に関する情報が得られる可能性が考えられた断層前縁部(平野側)で行ったトレンチ調査では断層は確認できなかった.しかし,この地区周辺では,地形境界にも直線的な低崖が連続しており,断層崖を示している可能性があることから,確認を行う必要があると考えられる.

また,平成8年度に行った地形判読調査では,金沢市額谷地区,四十万地区や鶴来町坂尻地区など,北西側への傾斜構造を持つとされる卯辰山層・大桑層が分布する地域には地形境界に沿って低断層崖や撓曲崖状の地形が断続的に見られることが確認された.これらの地形はすべて北北東−南南西方向の走向となっており,鶴来町坂尻町地区では地形境界付近からやや離れ,南側の日御子地区付近まで連続している.なお,坂尻地区から鶴来町市街にかけての地形境界付近には同様な地形は認められなかった.

これらの情報から,富樫断層が最近にも活動を行って地形変位を与えている可能性と,従来坂尻地区で走向を変えると言われてきた富樫断層が,走向を変えずに手取川扇状地の地下に埋没しているか,坂尻地区付近が末端となっている可能性が推定されるようになってきた.手取川扇状地の扇央部に断層変位地形が認められないのは,その付近では富樫断層の累積変位量が手取川の浸食量を上回らない程度に小さいか,断層の動く範囲が坂尻町地区付近で終息している可能性が考えられる.

以上のことから,富樫断層の活動履歴や断層延長を把握するためには,断層変位地形の疑いの強い地形が残されている鶴来町坂尻地区付近や金沢市四十万付近で継続調査を行うことが最善と考えられる.なお,坂尻地区付近では課題のうちC,D,Eが,四十万地区でもC,Dが明らかになると期待され,両者の結果を総合すると富樫断層の性状についてかなりの事項が判明するものと考えられる.

これらの経緯から,森本断層沿いでは利屋町地区,梅田地区,富樫断層沿いでは四十万地区,坂尻地区の計4地区で詳細な調査を行うこととした(図3−3−1参照).

図3−3−1 平成10年度調査の概略位置