3−4−1 断層の分布

既存文献調査では、長期的な変位速度の算出根拠となる卯辰山層の分布についての情報が得られた。卯辰山層は、調査地域東部の丘陵地では地表面に露出し、基底面まで露出している地域も存在する。丘陵地での卯辰山層基底面の標高は卯辰山付近で標高+100m以上であるが、平野側に2km程度離れた金沢市高柳町付近では標高−500m程度まで沈み込んでいる(中川ほか,1996)。卯辰山層の形成は約80万年前に始まったとされていることから、卯辰山層の変位が一定のペースで継続的に発生してきたと仮定すると、平均変位速度は0.75m/1,000年ということになる。

地形地質調査では、米軍写真の判読や航測図化によって、津幡町加賀爪付近から金沢市大樋町付近までの丘陵末端より平野側に、小規模な急傾斜地が帯状に断続的に分布していることが明らかになった。このうち大樋町に見られる急傾斜地は、1799年金沢地震時の古文書にある「田ごとの水東西に5から7尺ばかりずつ傾き」という記載に対比できる可能性がある。地質踏査では、断層本体を示すような断層露頭は見出されなかった。しかし、津幡町中津幡から金沢市卯辰山にかけての地域では、高位砂礫層以前の堆積層が傾斜しており、傾斜の顕著な津幡町南部から卯辰山にかけての地域では、東部で緩傾斜であるが、丘陵縁辺部に向かって急傾斜となり、そのまま平野に没していることが確認された。このことから、地層の撓曲構造を支配する断層は、調査地東部の丘陵地と西部に広がる金沢平野との境界部ではなく、それより西側の平野部に伏在していると推定された。

金沢市疋田−神谷内で行った反射法弾性波探査では、深度600m程度以浅の反射記録が得られた。その結果、地形地質調査の推定を裏付けるように、丘陵地と平野部の境界付近から平野側にかけて、卯辰山層基底面と考えられる反射面に数ヶ所で変位が認められた。反射面の不連続の落差は最大100m程度で、丘陵地末端部より平野側400m程度の間かけて複数分布している。

金沢市梅田で行った極浅層部反射法弾性波探査では、深度170m程度以浅の反射記録が得られた。その結果、丘陵部末端より平野側では、深度数mから30m程度の沖積層基底面と考えられる反射面に複数の不連続箇所が認められ、断層活動に伴って切断されている可能性が推定された。

津幡町中津幡付近から金沢市卯辰山付近までの間では、程度の差はあるものの大桑層・卯辰山層等が一様に西側へ向かって撓曲していることから、詳細な調査を行った神谷内地区や梅田地区と基本的には同様の地質構造であると考えられる。このことから、森本断層は少なくとも13kmの長さを有し、丘陵部末端からやや平野側に伏在しているものと推定される。撓曲構造は北端部では緩やかになる傾向が見られる。