(5)調査結果

(1)壁面の観察結果

壁面の構成層は、下位より基盤の卯辰山層、砂質土とシルト質土の互層からなる弥生時代後期前半以前の沖積層、遺構埋積層、旧埋土および古代以降の地層、耕作土、遺構発掘後の盛土からなる(付図9付図10−1付図10−2付図10−3)。以下に各層の主な特徴を下位より順に記載する。

・卯辰山層(US)

全体に固結した泥岩からなり、40〜45度の北西側傾斜を示す。断層面付近は破砕状を示し、所々に小亀裂が走っている。

・粗砂(暗青灰色:Sd−1)

卯辰山層の直上に層厚2〜3pの薄層で分布し、炭化したクルミ片を混入する。

・細〜中砂(青灰色:Sd−2)

上部は細砂を主とするが下部では次第に中砂主体となる。腐植土層との互層状を呈し、OB−0〜3を挟在する。

・腐植土層(OB−0)

厚さ5p前後の腐植土層で、断層面を境に下盤のみに確認でき、断層面近くでは上位のOB−1と重なる。

・腐植土層(OB−1,OB−2)

層厚5p前後の腐植土層

・有機質粘土層(茶褐色:OB−3)

有機質な粘土層。 層厚10〜15pで上下2層に区分され、上層は有機質分がやや多い。

・粘土質シルト(青灰色:Si−1)

有機物や炭化した木片を点在し、下部ほど多くなる。OB−4,5を挟在し、OB−5の上下部の所々に厚さ10〜15pの砂層をラミナ状に挟む。

・有機質粘土層(茶褐色:OB−4)

厚さ10p前後の有機質な粘土層。

・有機質粘土層(茶褐色:OB−5)

厚さ5〜10pの有機質のバンド帯。所々有機物を点在し、最大径10pの木片を混入する。

・シルト質中〜粗砂(青灰色:Sd−3)

φ2〜3oの軽石(繊維状に発泡)や亜円礫を点在する。

・粘土混り又は粘土質シルト(青灰色:Si−2)

炭化物を点在し、下部につれ粘土質となる。OB−6,7を挟在する。

・有機質シルト(茶褐色:OB−6)

有機質のバンド帯で、層厚は5〜10p程度。炭化物を点在し、やや明瞭な連続性を示す。

・有機質シルト(茶褐色:OB−7)

OB−6と同様なバンド帯であるが、連続性はやや不明瞭。

・砂質シルト(青灰色:Sd−4)

細〜中砂を主とし、小量の粗砂を混入する。φ2mm以下の軽石粒を若干混入する。部分的に乱堆積状を示す。

・シルト〜シルト質粘土(青灰色:Si−3)

やや不均質なシルトで、上部は粘土分を比較的多く含有する。

・シルト混り粗砂(青灰色:Sd−5)

全般に連続性が乏しく、部分的に乱堆積状を示す。φ5〜15oの軽石粒や泥岩礫を多く含む。

・微細砂〜細砂質シルト(青灰色:Si−4)

上部にOB−8を挟在し、下部につれ微細砂を多く含む。

・有機質シルト(茶褐色:OB−8)

やや有機質なバンド帯、層厚は5〜10p程度。

・砂質シルト(青灰色:Sd−6)

細砂をやや多く含有し、φ2o程度の軽石粒が点在する。

・粘土質シルト(淡褐灰色:Si−5)

細砂混る。有機質土の小塊を点在する。

・シルト混りないしシルト質砂(淡褐色:Sd−7)

細〜中砂を主とし、部分的に粗砂混る。φ2o以下の軽石粒が点在する。

・砂混りないし砂質シルト(淡褐灰色:Si−6)

有機物のパッチを含有する。

・有機質混じりシルト(暗灰色:Ms−1)

・腐植土(黒褐色:Hs−1)

・砂質シルト(暗灰色:Ms−2)

砂分は中〜粗砂を主とする。

・腐植土(黒褐色:Hs−1)

上下面は凹凸あり。

・細〜中砂(Ya)

弥生時代後期後半〜末の遺構内の堆積物で比較的均質な細〜中砂を主体とし、ラミナを有する。底部に厚さ5〜10pの腐植土が堆積している。

・有機質粘土〜シルト(Ko)

古墳時代前期の遺構内の堆積物。有機質な粘土〜シルトが主体で、下部につれ有機質となる。細砂のラミナを有する。

・有機質土(黒褐色:U)

旧埋土。黒褐色の有機質土を主とし、乳灰色のシルト塊(φ5〜20p)を不規則に含有する。

・有機質なシルト質砂〜シルト(黒褐〜茶褐色:I)

時代不祥の遺構内の堆積物で、黒褐〜茶褐色を呈する有機質なシルト質砂〜シルト。全般に不均質で下部につれ砂質となる。上部に細砂のラミナを有する。

・細砂質シルト(赤褐〜明灰色:NH)

古代(奈良〜平安時代)の堆積物で、赤褐〜明灰色の細砂質シルト。上部10〜15pはリモナイトの鉱染を受け赤褐色を呈する。

・細砂質シルト(暗灰色:Sds)

古代〜中世の地層で暗灰色の細砂質シルト。ややシルト分少ない。

・砂質シルト(暗灰色:Cs)

表土(耕作土)

・埋戻し土(B)

遺跡発掘後の埋め戻し土。

(2)断層活動による変形構造

泥岩からなる卯辰山層を切断する断層は、平野側を上盤とする逆断層であり、垂直変位量は0.9〜1.0mである。水平方向の変位は認められず、断層面の見かけの変位は約1.3mである。断層面はW面、E’面とも2面からなっており、厚さ2〜5mmの粘土を挟んでいる。W面では2面の間隙は10〜20cmとなっており、上盤側の断層面は、走向N38゜E,傾斜34〜36゜W,見かけの変位量25cm、下盤側はN38゜E,38〜40゜W,105cmを示し、卯辰山層の層理面より低角の断層面となっている。

沖積層内の変形は一部を除いて撓曲構造であり、断層面から離れるに従って撓曲の波長が長くなっている。断層面の垂直変位量が90〜100cm程度を示すのに対して、撓曲の垂直変位も80cm前後で大きな差は認められない。W面では弥生時代後期後半の遺跡発掘面以下の地層は変形している。E面では、少なくとも弥生時代後期後半の遺構以前の地層は変形を受けている。遺構内および遺構を覆う古代〜中世の地層は変形していないように見えるが、耕作等によって乱されている可能性も考えられる。