(4)データ処理

データ処理の目的は、記録された波形を処理して、地下構造を表わす断面を作ること

である。データ処理の手順を図2−5−2−7に示し、その概略を以下に説明する。なお本データ処理には反射法弾性波探査データ処理システムProMAXを用いている。

図2−5−2−7 極浅層部反射法弾性波探査解析フローチャート

(1)前処理

@データの転送と編集

磁気テープ(Exabyteテープ)から処理装置(SUN Sparc20)に、サンプルレートを0.25msecから0.5msecとしてデータを転送する。次に不必要なショット記録及びトレースを取り除く。

Aジオメトリーの定義

測量によって得られた受振点及び発振点の座標を入力する。 各ショットの受振点パターンを定義する。処理ラインを設定し、CDP ビンのサイズを定義する。

(2)重合前フィルター

@デコンボリューション・フィルター

このフィルターは振源波形、地層特性等反射地震記録に、コンボリューションの関係で含まれている基本波形をインパルスに短縮するフィルターの一種である。入力波形は以下の条件を有すると仮定する。

反射係数時系列は無規則(ランダム)で定常である。

基本波形(基本ウェーブレット)は最小位相型である。

一般に、反射記録は反射係数時系列に基本波形がコンボリューションされたものと考えられる。基本波形が既知であれば、これをインパルスに変換するフィルター(これを逆フィルターと呼ぶ)は正確に設計できる。しかし、反射記録の性質上基本波形を正確に知ることは非常に困難であるため、デコンボリューション・フィルターでは、上記最小位相型の仮定を設けることにより統計的に処理されている。

デコンボリューション・フィルターの具体的な効果は以下のとおりである。

a.様々な周波数成分をもつ間延びした反射波を、インパルスに近い(高周波かつ分解能の高い)波に変換する。

b.主として浅部の影響による重複反射波を除去または弱め、独立した反射波に変換する。

本処理ではSpiking Deconvolution Filterを用いた。

Operator Length : 50 msec

Gate Length : 2 − 250 msec

White Noise : 1 %

A帯域通過フィルター

信号である反射波とノイズである他の振動との周波数帯域が異なっている場合には、反射波の帯域のみを通す帯域通過フィルターをかけることにより、ノイズを減衰させ、S/N比の向上が期待できる。そのためには周波数領域でフィルターを設計し、それをフーリエ変換して時間領域のフィルター・オペレータを求め、記録にコンボリューションする。

本処理では、 20/30Hz − 150/200Hzの帯域通過フィルター及び60Hzのノッチフィルターを施している。

(3)静補正

表層付近での弾性波の速度差による反射波の遅速、表層の厚さの変化による反射波の遅速、発振点及び受振点の標高差等を補正する。これを実施しない場合には構造解釈に誤りをおかしたり、水平重合法において反射波そのものを破壊することがある。 具体的には、ある基準面( Datum Plane)を設けて、あたかもその基準面上で測定が行われたかのように各受振点、各発振点の記録を上下する。

以下にモデルを用いて説明する。図2−5−2−8の(a)のモデルに対する反射波の走時は(b)の○印のようになる。(a)において実際の標高(○印)の移動平均をとり、その標高値を×印で表す。受振点j, 発振点iの実際の標高をHj,Hi、移動平均標高をAj,Ai、風化層以深の伝幡速度をV とすると、受振点j,発振点i の補正値Rj,Siは、

Rj = (Hj − Aj)/V

Si = (Hi − Ai)/V

となる。各トレースについて、

T(i,j,k) = T(i,j,k−(Rj+Si)/Δt) (Δt はサンプルレート)

となるように時間をずらす。具体的には(b)の×印のようになる。(c)は(b)の○印(標高補正行わず)の反射波を重合したものであり、(d)は×印(標高補正実施後)の反射波を重合したものである。単純な水平多層構造であるにもかかわらず、(c)では複雑な地下構造であるかのような結果となっているが、(d)ではほぼモデルの地下構造を再現している。

ここでは地形の補正のみについて説明したが、風化層補正の場合も同様に処理できる。具体的には風化層の厚さによる受振点j,発振点iの走時差をWrj、Wsi とすると上式は、

T(i,j,k) = T(i,j,k−(Rj+Si+Wsi+Wrj)/Δt)

となる。補正値Wsi、Wrj は、各トレースの初動から屈折法的解析を行って求められる。

本探査で取得されたデータの初動の質は良くないが、比較的読み取り可能な振源近くのデータ(オフセット距離:40m以下)を用いて、屈折法的解析の風化層補正を行っている。

(4)速度解析

CDP重合に用いる重合速度分布を求める処理である。速度解析の方法としては、定速度走査法と定速度重合法があり、本処理では両者を用いた。ここで求める速度は重合速度と呼ばれ、水平多層構造を仮定した場合は RMS速度に一致する。

速度解析を行った位置及び速度情報は重合処理時間断面図の上欄に記載している。

図2−5−2−8 静補正概念図 (5)NMO補正及びCDP重合

CDPアンサンブル(各CDP[発振点−受振点の中点]毎に対応するトレースを集めたもの)を用いて発振点・受振点間距離の違いによる反射波の到達時間の遅れを補正し、発震点と受振点が同じ場合(ゼロオフセット)の時間に合わせる操作が NMO補正である。NMO補正を行うにはあらかじめ地下の速度分布を設定する必要があり、通常は速度解析により得られた速度分布を用いる。このNMO補正後のCDPアンサンブルを足し合わせて、反射シグナルを強調する操作が水平重合(CDP重合)である。図2−5−2−9は、6重合の場合のNMO補正と、CDP重合(水平重合)処理の概念図である。共通反射点Pでは、A−P−a,B−P−b,C−P−c,D−P−d,E−P−e 及びF−P−f の各々異なった経路をもつ反射記録(i) が得られる。P点からの反射波の走時は、水平距離Xの増加とともに遅くなっている。次に速度解析で得られた速度を用いてp−P−p の経路の仮想の記録に合わせる(NMO補正)と、P点からの反射波はいずれの経路のものもほぼ同じ走時の記録(ii) が得られる。さらにこれらを足し合わせる(水平重合)と、ランダムなノイズは打ち消しあい、反射波以外のシグナルは相対的に弱くなり、逆にP点からの反射波は加算されて反射波が強調された記録(iii) が得られる。

図2−5−2−9 水平重合法概念図

(6)残差静補正

表層補正や高度補正を施した後でも,初動屈折波と反射波の経路の違いによる時間の不規則性や、2層構造仮定を採用したことによる局地的な速度の異常に関するものは完全には補正されず、CDPアンサンブル内での同一反射の到達時間は一定ではないのが普通である。水平重合反射法弾性波探査においては、最適なCDPアンサンブル群が得られるように統計的処理を施してこの時間差を補正し、各発振点及び受振点における2次補正値を求める。

本処理では、Static limitを1msecとして4回実施した。

(7)重合後フィルター

帯域通過フィルター、F−Kフィルター、デコンボリューション・フィルター、コヒーレンシー・フィルターなどが使用される。本処理では、重合後フィルターとして、100msecのAGC、30/50 − 200 /300Hzの帯域通過フィルターを適用している。

(8)マイグレーション

マイグレーションとは、傾斜している反射面を空間的に正しい位置に戻す操作である(図2−5−2−10)。マイグレーションには多くの方法があるが、本処理では波動方程式マイグレーションを用いた。反射波がほぼ水平な場合は重合速度がRMS速度にほぼ等しいことから、マイグレーションに用いる速度は重合速度を用いるが、本地域のように反射波が急傾斜する場合には重合速度はRMS速度と大きく異なってくる。このことから本処理では、重合速度の90%、80%、70%、60%及び50%の速度を用いたマイグレーション処理断面図を作成して検討した結果、最終的に重合速度が0msecで80%、20msecで70%、40msec以深を60%とした速度を用いたマイグレーション処理を行った。

図2−5−2−10 マイグレーション概念図

(9)深度変換

マイグレーション処理に用いられた速度を使用して、反射断面の縦軸を時間から深度に変換した。

(10)断面図作成

以上の処理を施して、以下に示す時間断面図、深度断面図を作成した(図2−5−2−11図2−5−2−15)。また、区間速度深度断面図を図2−5−2−16に示す。

図2−5−2−11 重合処理時間断面図

図2−5−2−12 重合処理深度断面図

図2−5−2−13 マイグレーション時間断面図

図2−5−2−14 マイグレーション深度断面図

図2−5−2−15 カラー表示マイグレーション深度断面図

図2−5−2−16 区間速度深度断面図

図2−5−2−12 重合処理深度断面図

図2−5−2−13 マイグレーション時間断面図

図2−5−2−14 マイグレーション深度断面図

図2−5−2−15 カラー表示マイグレーション深度断面図

図2−5−2−16 区間速度深度断面図