(6)地質構造の解釈

本調査地域の地下には、既存のボーリングデータ・地質文献や本調査における地表踏査から、洪積層(更新世中期の卯辰山層を含む)、更新世前期の大桑層、鮮新世以前の高窪層などが分布していると推定されている。最近の研究では、測線起点付近の卯辰山層の基底は標高約−500m、大桑層の基底は標高約−700mと推定されている(中川ほか,

1996:図2−5−1−12−1図2−5−1−12−2)。また、測線の受振点260付近では卯辰山層が地表に露出しており、終点付近では卯辰山層下部が急傾斜している露頭(N17゚E,73W)が確認されている。反射法弾性波探査の測線終点から300m程度東の地域では大桑層も露出している。なお、これらの地層の走向と測線はほぼ直交している。

これらのデータをもとに、反射法弾性波探査(疋田−神谷内測線)で得られた深度断面図の解釈を試みた。図2−5−1−13に解釈深度断面図を示す。なお、以下に用いる「深度」とは計算上のある面からの深さ(m)で、図上でいう「0」点からの深さに相当する。今回の解析では、図上の「0」は海抜標高0mより20m高いところに設定してある。

図2−5−1−12−1 大桑層基底等高線図(中川ほか,1996)(    は測線)

図2−5−1−12−2 卯辰山層基底等高線図(中川ほか,1996)(    は測線)

図2−5−1−13 解釈深度断面図

(1)区間ごとの記録

@受振点0〜100の区間

この区間では、全深度にわたってほぼ水平な反射記録となっている。このうち深度220,540,950m付近では明瞭な反射面が記録されており、大きな地層境界を表しているものと考えられる。

既存の資料では標高−500m付近に卯辰山層の基底面が推定されていることから、深度540m付近の明瞭な反射面は卯辰山層と大桑層の境界面を示していると考えられる。卯辰山層の厚さは200m程度と考えられている(@野ほか,1972)ことから、深度220m付近の反射面は卯辰山層とそれより新しい洪積層の境界面もしくは卯辰山層よりも新しい洪積層内に存在する反射面を示していると考えられる。卯辰山層とした部分には数多くの明瞭な反射面が見られるが、これは地表での観察で確認されている卯辰山層の層相(砂礫層・砂層・粘土層の互層)(楡井,1969)と調和的である。

深度540m〜950mの間は連続した明瞭な反射面が少なく、層相の変化が少ないことが推定される。これは大桑層の地表での観察記録と調和的であり、ここでは大桑層と考えた。従来の研究では大桑層の基底面は標高−700m程度とされているが、本結果では深度950mとなっており、やや開きが見られる。この原因として、深度変換の際に用いた速度値が実際の速度値より早く、相対的に反射面が深くなっている可能性が考えられる。

層序的に考えると、深度950m以深の反射面は高窪層を示している可能性がある。

この区間では、深度1500m付近まで有意な反射面が確認できた。また、全ての反射面がほぼフラットで大きな変位が認められないことから、本測線の反射面のつながりを見る上で模式的な区間であるといえる。

A受振点100〜130の区間

この区間では、深度300m以下に反射面が不連続となる部分が見られる。不連続部分は東傾斜で高角度(約75゜)で連続していることから、この区間の深度300m以下には古い時期に形成された断層(F1)が存在するものと推定される。

B受振点120〜180の区間

この区間はJR線との交差部分にあたり、測線は道路に沿ってアンダーパスに設定したため、測定結果は地形的な影響を受けている。また、JR線のノイズが大きく、他の区間と比べて良好な反射記録は得られなかったが、大まかな傾向は把握できる。

深度220m付近には受振点0から続く明瞭な反射面が、一部不明瞭になるものの連続的に見られる。また、卯辰山層と考えられる層準には反射面が多く見られる。卯辰山層の下限は深度500m付近に見られる不鮮明な反射面と考えられ、それより深部は反射面が極端に減少することから大桑層が分布しているものと考えられる。 なお、この区間から終点にかけて、大桑層の基底面を示す反射面は確認できなかった。

C受振点180〜300の区間

この区間では、反射面の傾斜が著しく変化する。

起点から連続する深度220m程度の反射面は受振点190付近から終点に向かって浅くなる。この反射面は受振点190、230、250付近で途切れ、全体に東側が上昇している。また、卯辰山の基底面を示すと考えられる深度500m程度の反射面は、受振点220付近を境に終点側に向かって浅くなっている。この反射面は比較的明瞭であるが、受振点220、250、270付近で途切れ、全体に東側が上昇している。その他の反射面も同様の傾向を示すことから、これらの不連続な箇所には東落ちの断層(逆断層)(F2〜5)が存在するものと推定される。

なお、受振点230〜250の区間では、洪積層と卯辰山層との境界は不明確である。

また、ここでは、反射面の傾斜が垂直的にみて急激に変わるところを卯辰山層と大桑層の境界と考えた。

(2)主断層の推定

この測線において主断層と推定される断層は、下位層からの変位量や反射面の傾斜の状況から、受振点180・210・250付近のF2・F3・F4のいずれかであると考えられる。これらの断層は50〜60度の東落ちで、東側の反射面が上昇していることから逆断層である。起点側はほぼ水平に近い傾斜であった反射面が、F2で切れ上がり、F3を境に終点側に向かって急激に浅くなり、さらにF4で切れている様子が鮮明に現れている。これらの断層のうち、F3では卯辰山層の基底面と考えられる反射面が100m程度の大きな落差を示している。

また、深度の深い反射面ほど急傾斜を示していることから、変位の累積性があることが推定される。