7−1−3 国土地理院による水準測量結果

平成7年兵庫県南部地震の前後において実施された水準測量結果が,橋本(1995)によって公表されている。それによると,須磨断層の南西方への延長部において,約24cmの相対的に西上がりの地盤変動が観測された。その詳細な水準点位置と変動量は,図7−3−1図7−3−2に示すとおりである。図中に記した観測上下変動値はHashimotoほか(1996)によるものであり,水準点No.J423〜458区間は姫路市の水準点No.425を,水準点No.J460〜J229区間は大阪市の水準点No.J229を基準点としている。

図7−3−1図7−3−2に示されるように,約24cmの上下変動を示した区間は水準点No.445〜447の間であり,この区間を横尾山断層および須磨断層の南西方延長部が通過すると予想される。横尾山断層は,北西側の神戸層群に南東側の花崗岩が衝上する南東側隆起の逆断層である。これに対して須磨断層は,南東側の堆積層に北西側の花崗岩が衝上する北西側隆起の逆断層成分を持つ。この2本の断層に挟まれた花崗岩からなる鉄拐山−鉢伏山山塊は,これらの断層が活動することによって上昇してきた地塊と考えられている。しかし,上記した水準測量結果によって明らかとなった西上がりの地盤変動は,横尾山断層よりもさらに西側の地域で最大となっており,鉄拐山−鉢伏山山塊の隆起運動とは異なる傾向を示している。

また,図7−3−1図7−3−2に示すように,塩屋谷川放水路トンネルがこの地塊を南北に縦断して昭和63年に掘削されており,建設時の調査によって須磨断層と横尾山断層がそれぞれ確認されている(神戸市土木局,1981)。兵庫県南部地震直後の調査より,須磨断層においてはトンネル内に変形は見られなかったが,横尾山断層との交差部では,覆工コンクリートに北上がり5cm,右横ずれ8cmの変形が確認されている(阪神・淡路大震災調査報告編集委員会編,1998)。

櫻井(1995a,1996)は,このトンネルの変形や種々の地盤変状などの情報(櫻井,1995bなど)をもとに,横尾山断層が北西側隆起の右横ずれ正断層の地震断層と考え,図7−4に示すような,地下深部の震源断層から分岐して,西側が突き上げられて生じた断層メカニズムを想定している。

これらの断層の動きは,地震前後の水準測量で明らかとなった地盤の上下変動と整合したものではあるが,上述した鉄拐山−鉢伏山山塊を隆起させた横尾山断層本来の運動様式と異なるものであり,今後,より詳細な地質的解釈が必要と考えられる。

図7−3−1 国土地理院による兵庫県南部地震前後の水準測量結果(広域)

図7−3−2 国土地理院による兵庫県南部地震前後の水準測量結果(塩屋谷川放水路付近)

図7−4 横尾山地震断層の想定運動(櫻井,1996)