(2)須磨断層の活動時期

第1トレンチで確認された須磨断層は,北側の花崗岩と南側の均質な花崗岩質砂礫層とを境する北側隆起の高角度逆断層である。その境界部には,幅数cmの粘土質ガウジが伴われている。また,東側法面では,下盤側の花崗岩質砂礫層中にも腐植土を伴う断層が確認され,複数の断層活動があったと推定される。

本トレンチ地点では,この断層を覆う谷底堆積物には複数の堆積サイクルが確認された。それぞれの堆積物は粗粒の土石流堆積物と,その後の無堆積期に形成された腐植質層よりなり,土石流が短期間に形成されたと推定できることを考慮して,腐植質層の14C年代値を各層の形成年代として代表させている。

各腐植質層から採取した試料の14C年代値は,表4−1および表4−2に示すとおりである。表4−2に示されるように,同一地層内でも年代値にばらつきが認められるが,断層とそれを覆う堆積物との関係が最も明確な,当初掘削時における西側法面より採取した試料の分析結果を重視して,谷底堆積物の堆積年代を各分析結果の1σ値をもとに次のように解釈した。すなわち,表4−2に色別するように,D層の腐植質層をCal AD 1300〜1450,その上位のE層上面の腐植質層をCal AD 1260〜1440,さらにE層を覆うF層上面の腐植質層をCal AD 1520〜1660と推定した。

以上より,本トレンチにおける須磨断層は,図4−2−1図4−2−2および図4−3−1図4−3−2図4−3−3図4−3−4に示すように14C年代が得られている谷底堆積物としては,D層に覆われていることが明確であり,上述したD層の堆積年代より,断層の最新活動時期はCal AD 1300〜1450以前となる可能性が高い。したがって,少なくとも第1トレンチ地点における須磨断層は,西暦1596年の慶長伏見地震時には活動していなかった可能性があると推定される。

表4−2 放射性炭素暦年代値一覧(第1トレンチ)