(2)トレンチ内の断層

北側の神戸層群と南側の有馬層群との地質境界断層は,T層の河成段丘礫層基底面に変位を与えていないことが確認された(図4−7)。

トレンチでは,北側の有馬層群と南側のT層(河成段丘礫層)を境する南落ちの高角度断層(走向・傾斜は西側法面でN84°W 70°S,東側法面でN86°E 62°S)が認められ,T層およびそれより上位の地層にフラワー状の断層が発達し,変位はWb層まで達している。また,有馬層群とT層の境界部は,幅10数cmの粘土質ガウジとなっている(図4−4−1)。

トレンチに現れた断層の上方では,堆積物中にフラワー状の断層が発達すること,また,断層の両側でV層やW層の層相・層厚が異なることから,断層の変位は水平成分が卓越しているものと推定され,変位の方向は空中写真判読結果から右横ずれと考えられる。

また,上記のように,T層(河成段丘礫層)基底面に南落ちの変位が認められ,鉛直変位量はボーリング調査結果から約2mである(図4−7)。この南落ちの変位は,横ずれ変位による見掛けのものである可能性もあるが,ボーリング調査結果によると,T層(河成段丘礫層)基底面は広い範囲で平坦であり,凹凸が認められない(図4−2)ことから,断層は南落ちの鉛直成分を伴っている可能性が高い。

断層の変位はWb層まで達していることは確実であり,その上位のX層の基底面に変位は認められず,Wb層の変位により隆起した北側の高まりを埋めて堆積していることから,X層は変位を受けていないと判断される。したがって,最新活動はWb層堆積以降,X層堆積前であり,Wb層中には三瓶池田テフラ,X層中には坂手テフラの降灰層準が認められることから,その年代は約40,000年前以降,約15,000年前以前となる。

また,前項でも述べたとおり,トレンチの西側法面において,断層に挟まれた腐植層をVa層に対比したが,14C年代は約22,000年前を示しており,これをW層とすると,最新活動時期は約22,000年前以降,約15,000年前以前となる可能性も考えられる。ただし,上位のX層はAT(約26,000〜29,000年前)に特徴的な火山ガラスを含むが,W層はそれを含まないことから,得られた14C年代値は正しくない可能性もある。

最新活動に先行する活動については,V層とW層とに構造差が認められることから,V層堆積後,W層堆積前の活動が,U層に変位を与える断層がV層に覆われていることから,U層堆積後,V層堆積前の活動が推定される。

また,断層変位により変形したT層(河成段丘礫層)の上面にU層がアバットし,南低下側で厚く堆積していることから,T層堆積後,U層堆積前の活動が確実である。さらに,T層(河成段丘礫層)中の断層が上位のT層上部の礫層に覆われ,T層と有馬層群とを境する断層も直上のT層の礫層に覆われていることから,T層の河成段丘礫層堆積中にも2回の断層活動があったことがほぼ確実である。

以上のことから,本地点では,T層の河成段丘礫層堆積期以降,確実・不確実あわせて6回の断層活動が確認あるいは推定される。この場合,段丘堆積物の年代は,阿蘇4テフラ降灰期(約90,000年前)と推定されることから,活動間隔は約15,000年となる。