(6)データ処理および解析

収録記録のデータ処理および解析は、一般に多用される共通中間点(Common Midpoint; CMP)重合法によりSN比(シグナルとノイズの比)を高めた時間断面を作成する。次に、速度解析結果等に基づき、マイグレーション処理を施し、時間断面中の反射面を正しい位置に戻す。さらに、深度変換により、時間断面を深度断面に変換する。なお、データ処理および解析は弊社でコーディングしたプログラムを用いて行う。

標準的なデータ処理のフローを図3−1−6に示すと共に、以下に主な処理の概要を記す。

@トレース編集、解析測線の決定、ジオメトリの設定およびCMPソート

ノイズが卓越する波形データ(以下「トレース」という)等の不良トレースの除去、同一の発振点受振点の組で重複して収録したトレースの整理等の編集を行う。

続いて、発振点と受振点の収録組み合わせおよびそれらの測量データから、発振点と受振点の平面的な中間点を算出すると共に、それらの分布から「解析測線」を決定する。

解析測線の具体的な決定方法を以下に記す。発振点と受振点を配置する際の基準となる「調査測線」が直線でない場合、発振点と受振点の中間点は調査測線からずれ、調査測線の周囲に分散する。これら分散した中間点を適宜区間分けし、区間内の中間点について最小自乗法を用いて分散している中間点の傾向に合致する、すなわち中間点の分布を代表する線分を定め、これらを連結することにより解析測線を求める。

また、分散する中間点を上で算出した解析測線上に投影し、解析測線上において測点間隔の半分(2.5m)を単位とした区間分けを行い、中間点が同じ区間に属するトレースを集め、図3−1−7に概念を示すCMP(Common Midpoint、共通中間点)アンサンブルを作成する。なお、図3−1−7の左図は収録されるトレースを模式的に表したもので、縦軸が時間、横軸がオフセット−発振点と受振点の間の距離−を示す。右図の「発振点1」で発振し、「受振点1」で収録したトレースを左図の「オフセット1」に、「発振点2」で発振し、「受振点2」で収録したトレースを「オフセット2」に示した。また、右図に示すように、地表の発振点で発生した弾性波が下方に伝播し、地下の地層境界等の点「A」で反射して上方に伝播し、地表の受振点で収録される時間を、左図のそれぞれのトレースに「共通反射点Aからの反射波」として示した。CMPアンサンブルは、地下の構造を水平成層構造と仮定し、地下の同じ反射点(右図の場合は点「A」)を有するトレースを集めたもので、地表面で考えれば、発振点と受振点の平面的な中間点を共通とするトレースを集めたものに相当する。後述するNMO補正により、CMPアンサンブル内の同じ反射点からの反射波を足し合わせてSN比を高め、地下の反射点や反射面をイメージする。

次に、すべての収録トレースをCMPアンサンブル毎に並べ替え(CMPソート)すると共に、トレースとCMP番号、発振点番号、受振点番号、およびそれらの座標等を対応づけるテーブルを作成する(ジオメトリの設定)。

Aプレフィルタ、位相補償および振幅回復

時間分解能向上のため、ウェーブレット(ひとつの反射面を示すと考えられる波形)の時間的な圧縮および短い周期の多重反射波の除去を目的としたデコンボリューションを次のステップで適用するため、前処理として、プレフィルタ(バンドパスフィルタ)、位相補償、振幅回復を行う。

広帯域のバンドパスフィルタのプレフィルタを適用し、信号帯域外のノイズを低減する。次に、探鉱機や受振器の周波数特性等に起因する位相ズレ(波形の変形)を補償すると共に、次ステップにて適用するデコンボリューション処理のため、ウェーブレットを最小位相に変換するフィルタを設計し、適用する。

さらに、振源から地震波が伝播し、波面が広がるに伴い波形の振幅が減衰する幾何減衰等を補償するため、振幅回復を行う。振幅回復は、オフセット距離(発振点と受振点との間の距離)と振幅の時間変化を変数とする減衰カーブを統計的に算出し、減衰カーブの逆数を入力トレースに乗ずることにより行う。また、時間の指数関数で表されるゲイン関数を入力トレースに乗じる方法も適宜併用する。

Bデコンボリューション

時間分解能向上のためのウェーブレット圧縮、ノイズとなる多重反射波(地表と反射面までの間を複数回往復する反射波、図3−1−8参照)等を除去するため、デコンボリューション処理を行う。なお、高周波成分が時間と共に減ずることを補償することでウェーブレットの圧縮を図るタイムバリアントスペクトラルホワイトニングもこの項に含める。

C静補正

静補正は、標高差や速度的および空間的に変化の大きい表層の影響を取り除く処理で、一般的には地表の発震点や受振点を、風化層等の低速度部が偏在しない基準面(一般的には平面)に見かけ上並べる、タイムシフトや標高シフトの処理である(図3−1−9参照)。この手法では、地表付近の地下構造をイメージすることができず、地形の起伏が大きい場合などにはこの点が問題となる。そこで、本調査では、地下水の速度等に着目し、この速度以下の速度層を着目した速度に置き換えることで、先述の問題に対処した。この方法により、共通発振点ギャザー(発振点を共通とするトレースの集まり、現場での収録データ)やCMPアンサンブル内での反射波の連続性を向上させ、後述する波形処理の効果を向上させることが可能となる。なお、静補正は、表層付近に偏在する風化層の層厚や速度の変化の影響を補正する表層静補正と、発震点や受振点の標高が異なる影響を補正する標高静補正からなる。

静補正は、反射法地震探査で収録したデータの初動走時の読み取り、これを入力データとする屈折法地震探査の解析を行い、地表付近浅部に分布する風化層と下位層の速度および風化層の層厚を求め、表層静補正量や標高静補正量を算出する。静補正量を算出するために行う屈折法地震探査の解析方法について以下に示す。

・ 静補正量算出のための屈折法地震探査の解析

屈折法地震探査の解析では、地下の構造を速度層に区分し、表層から1層毎にはぎ取る「萩原の方法」等が多用される。しかし、地表付近の風化層等でよく認められる、深度と共に漸次的に速度が増す構造では、この手法では必ずしも精度の高い静補正量が得られるとは限らない。そこで、表層を小さなセルに分割し、個々のセルの速度を求める「屈折波を用いたトモグラフィ」により表層の速度分布を求め、これにより静補正量を算出し、表層に起因する乱れを補正する。屈折波を用いたトモグラフィでは、表層を萩原の方法で用いる層よりも小さなセルで表し、セル毎の速度を求めるため、深度と共に漸次的に速度が増す構造や局所的な速度変化をより高い分解能で表現することが可能となる。屈折波を用いたトモグラフィの原理を図3−1−10に、解析手順を以下に示すと共に、図3−1−11に解析フローを示す。

1. 観測波形よりP波初動走時(縦波の到達時間)を読み取る。

2. 均一な速度や深度と共に速度が漸次的に増加するなどの任意の初期表層速度モデルを作成する。

3. 表層速度モデルと差分法(Vidale法)を用いて初動走時を計算する。初動走時計算法には種々のものが存在するが、ここでは、速度分布をセルで表現すること、屈折法地震探査に比べ反射法地震探査では一般的にデータ数が大きいこと、計算速度が大きいことを考慮し、差分法を用いた。

4. 計算初動走時を観測初動走時、あるいは前回の計算初動走時と比較し、収束判定を行う。収束と判定した場合には現在の速度モデルを最終解析結果とし、解析を終える。

5. 計算初動走時を基に初動の波線(発振点と受振点を結ぶ波動の伝播経路のうち、初動を示すもの)を求める。

6. 計算初動走時と観測初動走時の差、及び波線を基に表層速度モデルの修正を行う。表層速度モデルの修正は計算初動走時と観測初動走時の比により波線近傍の速度を修正する方法を用いる。

7. ステップBへ戻る。

D速度フィルタ

油圧インパクターのエンジンや周辺住居の冷暖房施設等により発生し、地表面を伝播する表面波等のノイズを除去するため、見掛け伝播速度と伝播速度の発振点位置(オフセットがゼロ)での切片時間を軸とする2次元領域でフィルタリングを行う速度フィルタ(時間によりフィルタリングパラメータが異なるタイムバリアントτ−Pフィルタ)を適宜適用する。この処理によりSN比を向上させ、後続する速度解析を精度の高いものとする。

E速度解析、NMO補正およびCMP重合

反射法の解析においてSN比向上の手法として多用されるCMP(共通中間点)重合を行うため、速度解析およびNMO補正を行う。

水平多層構造の場合、CMPアンサンブル(同じCMP[共通中間点]を有するトレース群)内のトレースの反射波走時は近似的に双曲線をなす(2層構造の場合の例を図3−1−12に示す。左上図中の破線が反射波走時を示す)。なお、双曲線の形状は反射点より上位に分布する層の速度に依存する。水平2層構造の場合、1層下面からの反射波走時は以下の式で表される。

式1

t(x);オフセットxの反射波走時

t(0);ゼロオフセットの反射波走時

x;オフセット

v;1層目の速度

多層構造の場合も、オフセットxに比べ反射面の深度が十分に大きければn層下面からの反射波走時は同様に以下の式で表される。

式2

ここで、vRMSはRMS速度(Root Mean Square速度)と呼ばれるもので、地表から反射面までの間の層の速度を層毎の鉛直走時(鉛直方向の伝播時間)で重み付けし平均化したもので、第i層の速度をvi、鉛直走時をΔtiとすると以下の式で定義される。

式3

NMO補正は図3−1−12の上中央図に示すように、オフセット(発振点と受振点間の距離)が、ある大きさの発振点と受振点の組で収録したトレースを、ゼロオフセットでの収録となるように走時の補正を行うもので、補正量はオフセットが大きいほど大きくなる。水平2層構造の場合、NMO補正量ΔtNMOは、上記(1)式より以下となる。

次に、SN比を向上させるため、CMPアンサンブル内のNMO補正後のトレースを重合し、反射波を強調させる(図3−1−12の右上図)。

上記したNMO補正およびCMP重合を行うため、CMPアンサンブル内の反射波走時より速度を求める。この処理を速度解析と呼び、求めた速度を重合速度と呼ぶ。なお、水平成層構造の場合、重合速度は近似的にRMS速度に等しいと見なされている。式4

具体的な速度解析は、重合速度の範囲の設定、その中を等分することにより120種類の重合速度の算出、それぞれの重合速度でNMO補正、その後、@CMP重合し、重合後トレースの振幅やパワーの大きさで重合速度を評価する定速度スタック法と、ANMO補正後のCMPアンサブル内のトレースに対し、狭い時間ゲート内でのトレースの相関をセンブランスにより評価する速度スペクトル法を併用する。

F残差静補正

NMO補正後、CMP重合によるSN比向上の効果を高めるため、残差静補正を行う。残差静補正は、先の「(4)静補正」で示した補正の補完的な位置づけで、短波長の標高差、表層の層厚及び表層の速度の変化等に起因する影響を取り除く処理である。

Gマイグレーション

CMP重合で得られる重合時間断面は、先の図3−1−12に示す、1振源と1受振器を組にして、地表沿いに等間隔でデータを収録するシングルチャンネル記録と近似的に同等であり、図3−1−13および図3−1−14に示すように反射波がCMPの鉛直下方から伝播してきたものと仮定した断面である。マイグレーションは、反射面を地下の正しい位置に戻すと共に、断層面等から発生する回折波を回折波発生源に集中させる処理である。

マイグレーションとして、FKマイグレーション法(速度場一定の座標系への変換およびその逆変換により水平方向の速度変化に対処した波動場補外法[Gazdag phase shift法の一種Stoltマイグレーション])を用いる。

H深度変換

速度解析結果であるRMS重合速度等を区間速度へ変換し、マイグレーション処理後の時間断面を深度断面に変換する。