(5)土万断層の活動性について

今回実施したトレンチ調査では,累積性を伴った明瞭な堆積層の変位・変形,すなわち過去の地表地震断層の痕跡こそ認められなかったが,最表層に分布する耕作土・旧耕作土層を除いた全ての層準について,何らかの乱れ(変位・変形)が確認された。

これらの乱れは,過去に近傍で発生した大きな地震の際の地震動によって生じたものと推定される。また,確認された乱れのパターンは必ずしも同一のものではなく多様な形態をとっていることからすると,過去の複数回の地震に対応するものである可能性が考えられる。

以上のことから,本調査地を含む地域が過去に繰り返し大きな地震動─それも地盤に変位・変形が生じるような地震動─に見舞われてきたことはほぼ確実と思われる。

このような規模の地震動の発生源としては,本地域を通過すると目されている土万断層のほか,山崎断層系を構成する他の断層,例えば大原断層や安富断層などの活動が考えられ,これらの断層の活動履歴を含めた,総合的な検討が望まれる。

なお現段階では,土万断層の活動履歴の詳細が不明であるため,まず,これを把握するための調査が必要と思われる。

ただし,表層の地形・地質条件や用地的な制約を考慮すると,今回の調査地と比べて候補地選定の条件は厳しくなるものと思われる。また,下位の地質状況によっては必ずしも1本の明瞭な地表地震断層が生じていないことも考えられる─例えば今回のトレンチで確認した礫優勢層などの場合には,せん断応力が分散して1本の明瞭な断層線は生じない可能性がある─ので,これらの点についても注意が必要となろう。特に,本調査地周辺においては,トレンチで確認された最も典型的な礫優勢層の一つであるG層相当層が広範囲に分布している可能性が高いので,留意が必要である。

今後の調査を実施する際には,地下の地質情報についても広範囲かつ詳細に把握するとともに,用地的な制約をクリアできるような手法についても考慮に入れて,調査計画を立案・検討することが必要であろう。具体的な手法としては,反射法地震探査と調査ボーリングによる地下構造の把握のための調査や,新手法を用いたトレンチの代替となる調査なども,その候補に挙がるものと考えられる。