(4)トレンチ壁面で確認された堆積層の変位・変形

本トレンチでは,変位の累積が顕著に認められる地質構造は認められなかったが,過去の断層運動(地震動)に伴って生じた可能性のある,堆積層の変位・変形("堆積層の乱れ")を各層準で確認することができた。

下位の層準から順に,これらの状況をまとめておく。

@ G層

東側壁面E4付近:本層は全体として礫優勢層であるが,E3−E4区間の最下部に砂〜シルト分優勢層が局所的に確認される。レンズ状に挟在する可能性も完全には否定できないが,E4付近で高角の小断層に切られている可能性が高い。見かけ上北側上がり。これより上位では明瞭でないが,G層の上面形状を規制している可能性も考えられる(図4−2−21−1図4−2−21−2)。

東側壁面E6−E7付近:大きな礫の配列が,南側下がりに湾曲しているようにみえる。せん断面は認められない(図4−2−21−3図4−2−21−6)。

西側壁面W4付近:W4付近より北側の最下部付近に,礫が少なくマトリックスの砂分が優勢となる箇所が認められる。側方変化の可能性もあるが,W4付近で礫の配列がやや乱れている様にもみえ,上述の東側壁面と同様の小断層による可能性も考えられる(図4−2−21−4)。

西側壁面W4.5−W6付近:両側と比べて混入する礫の径が全体に小さく,せん断面は明瞭でないものの,その両側が小断層で境されている可能性が考えられる(図4−2−21−5)。

A F層

東側壁面E7付近:これより南側ではほぼ均質に連続するのに対し,この付近より北側へは急に連続しなくなる。E層堆積時の削り込みの可能性もあるが,これを小断層による変形と考えると,下位のG層にみられる礫配列の湾曲とほぼ一致する(図4−2−21−6)。

西側壁面W6付近:同様に,この付近よりも北側へは急に連続しなくなる。下位のG層にみられる局所的な相変化の南側境界と一致しており,同様の変位に起因する可能性がある(図4−2−21−5)。

西側壁面W3−W4付近:他区間とは層相の異なる,粘土質礫層が認められる。礫の堆積後にマトリックスが注入されたような不自然な堆積構造を示している(図4−2−21−4)。

B E層

東側壁面E7−E8付近:この付近を境に,北側ではシルト分優勢へと急に相変化する。明瞭なせん断面は認められないが,相変化の境界に沿った幅の狭い区間で礫の配列が認められ,小断層による変形の可能性が考えられる(図4−2−21−6図4−2−21−7)。

東側壁面E5.5−E7付近:上述の相変化の境界とほぼ平行するような形で,所々に礫の配列が認められる。また,局所的な“くびれ”も認められる(図4−2−21−3図4−2−21−6)。

西側壁面W3−W4付近:Aで述べた粘土質礫層は,層区分の上ではF層に区分しているが,マトリックスの注入によるE層の局所的な相変化との解釈も可能である(図4−2−21−4)。

C D層

東側壁面E7−E8付近:C層との境界に沿っていくつかの礫が配列するようにみえ,後述のC層の層厚変化とともに,堆積後に生じた変形の可能性が考えられる(図4−2−21−8)。

これ以外には,特に顕著な乱れは認められない。ただし,西側壁面W9.5付近より北側では,基底付近に挟在する腐植土層が細切れに断ち切られて湾曲している様にもみえ,何らかの断層運動に起因するものである可能性も考えられる(図4−2−21−9)。

D H層

東側壁面E4−E4.5付近:基底付近に配列する大礫が,下位のG層の上面に沿って落ち込んだように配列している。単なる堆積構造の可能性もあるが,G層の変形に伴って堆積後に生じた変位とも考えられる(図4−2−21−2)。

東側壁面E3−E5付近:上記の大礫は,大局的にみると,後述のC層の垂れ下がり部に向かって南側上がりに配列しており,何らかの変形による可能性が考えられる(図4−2−21−1)。

西側壁面W2.5−W3.5付近:若干のせん断を受けたような礫が南側上がりに配列する(図4−2−21−4)。

E C層

東側壁面E5.5−E7.5付近:E7付近より北側で層厚が急激に増しており,E5.5−E6付近を中心にして垂れ下がった様な印象を与える。通常の堆積構造である可能性も否定は出来ないが,本層にレンズ〜薄層状に挟在する砂優勢層も同様に変形しており,堆積後に受けた外力に起因する可能性が高い。またE6−E7付近では,H層中にみられた軽微な礫配列とほぼ同方向に相変化の境界や礫の配列がみられる(図4−2−21−1図4−2−21−6)。

西側壁面W2.5−W4.5付近:W4.5付近より北側で層厚が急激に増しており,W4付近の,G層やF層(E層)に変形がみられた箇所に向かって垂れ下がる様な印象を与える。また,この区間は全体に暗褐〜茶褐色に変色している(図4−2−21−4)。

西側壁面W5付近:上位のB層との境界面が階段状で,小断層によって南側が落ち込んだような形状を示している(図4−2−21−4)。

北側壁面:砂〜小礫が優勢となる部分が,まるで下位のH層から噴き上げたかのように挟在しており,過去の地震動に伴って生じた変位である可能性も考えられる(図4−2−21−10図4−2−21−11)。

F B層

東側壁面E0付近:炭化木を挟在し若干の砂・礫を含むシルト層が,C層へ局所的に落ち込んだような形状を示している(図4−2−21−11)。

東側壁面E8−E9付近:レンズ〜薄層状に挟在するシルト層が,やや湾曲するような印象を与える。下位の層準で可能性が推定される断層の延長方向にあたっていることから,これに起因する変形の可能性も完全には否定できない(図4−2−21−8)。

 

G A層

本層については,明瞭な乱れ等は確認できていない。