2−2 反射法地震探査

P波による反射法地震探査は、図1−5−1に示したように六甲山地南東部から東部にかけての地域において4測線を設定して実施した。対象とした断層は、六甲断層帯の南東部に分布する甲陽断層や西宮撓曲などである。探査に際しては、基盤岩の分布形状のような断層の基本的性質とともに、地盤表層部に分布する新期堆積層にあたえる断層運動の影響やその活動性についても検討を試みた。得られたP波探査結果を図2−2−1図2−2−2に示す。各測線における探査結果をまとめると以下のとおりである。

@夙川測線

測線中央部付近で基盤岩上面に500m以上の落差をもつ断層が認められる。断層より南側の基盤岩上には層厚550m前後のやや乱れた堆積層があり、大阪層群下部亜層群に対応する地層と推定される。反射記録より、この堆積層は断層面の下に潜り込んで伏在していることが認められ、この断層は低角度の逆断層であると推定される。また、表層部約500mの地層はこの逆断層を覆うように堆積し、撓曲構造を形成しているが、明瞭な断層は形成されていないことがわかる。この撓曲構造が西宮撓曲に対応する構造であり、比較的ゆるやかであるが、地層厚や撓み量に深度変化が認められ、この活動が継続的であることを示している。一方、甲陽断層付近においては、基盤岩深度は全般的に測線北端まで徐々に浅くなる傾向があるが、地層の弾性波速度の変化が大きく、断層付近は著しく破砕された複雑な構造となっていると考えられる。なお甲陽断層付近には、西宮撓曲を形成した逆断層のような基盤岩の大きな落差は認められない。

A小林測線

基盤岩上面の明瞭な反射面が断続的に認められ、測線東部では深度400〜500m、西部では地表面付近から深度100m程度となっている。したがって、これらの間の落差は約350mとなる。これに対して、表層部では測線中央部からやや西よりの付近で堆積層が乱されており、この付近が現在活動的な断層の位置であると考えられる。この断層は約45度で西側に傾斜する逆断層であるが、基盤岩上面に明瞭な落差は認められない。すなわち、表層部では破砕域が東側ほど深くなる傾向が見られることより、断層の活動的な位置は東から西に移動したと考えることができる。この断層は、夙川測線の甲陽断層と武庫川測線北端の断層を結んだ直線上に位置し、甲陽断層に対応すると考えられる。

B甲東園測線

西宮撓曲の北東方向への延長は測線西部において大阪層群の緩い撓みとして認められ、地形学的調査で推定されていた位置とほぼ等しい結果となっている。

C深江測線

甲陽断層の南西端を確認する目的で行ったが、測線北端の山麓部において、測線に斜交すると思われる傾斜構造が認められる以外には、顕著な不連続や急傾斜帯が認められず、平坦な堆積構造であった。これより、甲陽断層が直線的に海岸方向へ延長する可能性は小さく、むしろ山麓沿いに延長すると推定される。

以上にまとめた各探査測線における結果をもとに、地質構造の総合的な検討結果を図示すると図2−2−3のとおりであり、以下にその要旨をまとめる。

《甲陽断層》

甲陽断層は、既存の武庫川測線の北端付近から高塚山までほぼ直線的に連なる断層である。高塚山より南西側では、やや西方に湾曲し、六甲山麓南縁の断層系に連続すると推定される。夙川測線および小林測線の反射法探査記録では、表層地盤の乱れが大きく、活動的な断層と推定される。

《西宮撓曲》

西宮撓曲は、地下深部に潜在する大規模な逆断層の活動によって変形した堆積層の撓みである。この撓曲を形成した逆断層は、基盤岩の上面に約500mの落差を生じさせており、大阪層群下部亜層群を著しく変形させている。これに対して、大阪層群中部および上部亜層群の地層に与える変位は相対的に小さく、緩やかな撓曲を形成していることが判明した。しかし、西宮撓曲が第四紀後期に形成された地形面を変形させているように、その活動は段丘形成期においても継続していると考えられる。

《芦屋川右岸の傾斜構造》

深江測線における大阪層群相当層はほぼ平坦であり、隣接した芦屋川測線に見られる西宮撓曲やその北側の大阪層群が傾斜する構造の延長は認められない。また、深江測線の北端には地層の堆積構造と斜交するような反射波が認められる。さらに、深江測線南端付近における基盤岩深度は、芦屋川測線とほぼ同じであると考えられる。これらより、芦屋川測線と深江測線との間に急激な西落ちの傾斜構造の存在が推定される。この構造により西宮撓曲は変位を解消し、西方には連続していないと考えられる。