4−2 活断層図の作成(調査地域全域の地形面区分・層序・活断層など)

[活断層図作成全般]

平成15年度に作成した「標津断層帯 活断層・地形面区分図」をベースとして,本年度調査の成果を加えてより詳細なものとして,新たな同図を作成した.断層帯の存在する知床半島基部山地と南東側平野の境界部から同山地にかけての範囲については地質分布主体の図(地質図)として表現し,新第三系分布域には地層の走向・傾斜を表示した.一方,平野地域については,区分した地形面毎に地形面の形成年代に限定した堆積物のみが存在するということにはならない.火山灰編年学(テフロクロノロジー)的にはより古いものほど,面構成層の表層部としてより古期から現在までの多数の火山灰層を含み,それとともにロームおよび腐植層を多数含み厚くなるが,新しい火山灰層は新旧の面にほぼ水平に広がって分布しており,火山灰・ローム・腐植層をすべてきめ細かく区分して広い範囲について分布を示すことは至難の技である.さらに,面構成層の主体を成す礫層についても各面の礫層が重なる場合,露頭段階での相互の区分が容易でない場合がある.これらの理由により,平野地域については地質図でなく,主として地形面区分図として表現した.ただし,平野地域の第四系対比の重要な鍵層となる屈斜路火砕流堆積物W(Kpfl−W)については,本調査(平成16年度)で火山灰分析・同定が進み,分布状況がかなり明確になったので,図中に地層として表示した.平成14〜16年度にわたる本調査(文献調査・現地踏査・物理探査・ボーリング調査・ピット調査)に関連した資料地点・露頭・調査箇所・ルート・測線などの位置も表現した.

[地形面区分・層序]

 地形面は古い(高位)ものより,最高位面(T0),高位面(T1),中位面1(T2−1),中位面2(T2−2),低位面1(T3−1)低位面2(T3−2),最低位面(T4)に区分した(付図1,表4−2−1).これらの大部分についての説明は前年(平成15)度の調査報告で行ったが,本報告では従来の中位面1(T2−1)から区分して高位面(T1)を設けたため,従来の高位面を最高位面(T0)として取り扱った.

最高位面については開陽台を代表として,俣落岳・武佐岳の周辺および崎無異川・元崎無異川上流域ではいくつかの段差のある階段状の尾根筋として存在する.武佐岳火山噴出物または崎無異川集塊岩の溶岩など一次堆積物の占める面であるとみなされる.それらの噴出物や岩体に関連した火山活動は鮮新世後半〜中期更新世とされており,地形面の形成は古い.ただし,これらの面は高所・交通難所にあることが多いこと,代表地である開陽台では放牧地として整備され露頭はほとんど存在しないことなどから,面構成物の具体的内容は明らかにすることはできなかった.

 高位面は一般に山地際に狭長かつ断続的に分布し,従来の中位面1が最終間氷期から最終氷期前半にかけての海進−海退に対応した扇状地面と判断できることから,それより古い間氷期(ミンデル−リス間氷期)に対応した古期扇状地面と考えられる.開陽断層・古多糠断層南部沿いでは活断層の有無との関係で問題となったが,古多糠断層南部沿いにおいては面構成物の傾きから傾動の存在を確認した.本調査地域北部では本面は分布が広がり,東縁では古多糠断層北部の延長部との関係が,山地際では丸山西方断層との関係が問題となるが,それぞれ面の東への傾動を活断層の現れと考えた..

[活断層]

 標津断層帯の各構成セグメントは一般に分かりづらいため,地形・地質的に把握・表現することがかなり困難である.そのため,明瞭な線(落ち方向表示)で描くことができなかった.丸山西方断層は凹地列としてとらえられ,周囲で高位・中位面1が傾動し,小丘状の盛り上がりがあることで特徴づけられる.古多糠断層北部は断層とされた主要部分は段丘面の段差部であることから,地形変換線として示したが,北方延長部については丸山東方などの高位面傾動部として表している.古多糠断層南部は一般に高位面の傾動として示した.なお,地質断層としての古多糠断層の実態は幅1km前後の新第三系直立・逆転帯であり,中には多数の破砕・粘土化帯が伴われ,典型的な撓曲帯を成している.空中写真判読ではこのような構造帯に尾根筋など線状リニアメントが多数認められるが,それらは互層状堆積岩類の硬軟地形差異を反映したものである.開陽断層・開陽断層北部東側の“撓曲崖”は変位が把握できなく,結局,山地と台地間の地形変換線または高位面・中位面間の地形変換線として表現した.荒川−パウシベツ川間断層については,山地と台地間の地形変換線として表現した.

表4−2−1 標津断層帯関連の地形面区分と層序