(3)北武佐地区

[地形測量]

ボーリング本調査の実施前に,ボーリング箇所の位置・標高の確定と周囲の地形リニアメントの走向方向・地形面の撓みの比高・地形的特徴の解明のために地形測量を実施し,詳細地形図(縮尺1/500,等高線間隔0.25mで作成のものを1/1,000で表示)を作成した(図3−2−9に詳細地形図を北武佐地区調査位置平面図として示す).

砂利採取のため地形の人工改変が著しいが,地形測量の結果,次の点を確認した.

@ ほぼ北東−南西方向に延びる幅80〜100m程度,比高20m程度の地形の撓み?(地形変換部)の存在

A いくつかの崩壊地形及び滑落崖状の馬蹄形の凹状地形の存在

B 小丘状地形(馬蹄形の凹状地形に対応し、その斜面下方に位置する)の存在

[ボーリング調査]

ボーリング調査は地形測量で明らかになった地形の撓み?を考慮し,対象地形面の地質構成を明らかにする目的で群列ボーリングとして図3−2−9の4箇所(孔)について実施した.表3−2−6にボーリング地点の諸元,表3−2−7に層序表,図3−2−10にボーリング調査関連写真,巻末の資料1にボーリング柱状図・コア写真,図3−2−11に地質断面図を示す.

ボーリング調査からえられた層相と挟在されるテフラから,北武佐地区の層序は上部火山灰・ローム層(UVL),段丘礫層(TG),下部火山灰・ローム層(LVL)および火山性砂礫岩層(VSG)に大きく4分できる.なお,本地区では西古多糠地区での時代区分の基準としたKpfl−Wは分布しないが,一連の堆積物(LVL・TGの古い砂礫層)の一部にAnp層(アトサヌプリ降下火山灰,<23,430+820-750y.B.P)が挟在し,これらの年代は後期更新世後半とみなされる.また,それより下位を構成する一連の堆積物(VSG)の一部に0.82±0.15Ma(FT)を示すLPtf層が確認されたので,これらは前期更新世後半の火山噴出物と見なした.各層は次のように細分できる.

上部火山灰・ローム層:Bk層(埋土)・Ts層(表土)・UVLs層(礫混り砂)・Ma−g〜i(Ma−g〜i降下軽石・火山灰)・UVLh2層(腐植土)・UVLh3層(腐植土)・Ma−l層(Ma−l降下軽石)

段丘礫層:・TG3層(玉石混り砂礫)・TG4層(砂礫),北川北地区のTG1・2と区別.

下部火山灰ローム層:LVLl層(ローム質土)・LVLdf層(岩塊混りシルト質砂礫)・Anp層(アトサヌプリ降下山灰)・LVLvs層(火山灰質砂)・LVLtl層(礫混り火山灰質シルト質砂)

火山性砂礫岩層:VSGs−g層(含礫凝灰質砂岩)・VSGc層(砂質シルト岩)・VSGsg層(凝灰質礫岩)・VSGtfs層(凝灰質砂岩)・VSGtf(スコリア・軽石凝灰岩)・VSGpms(軽石質砂岩)・VSGcp層(シルト岩)・VSGs層(含礫砂岩)

地層の対比を行い地質断面図を作成した結果,次の諸点が明らかになった.

@ 上部摩周火山灰層(Ma−g〜l)・アトサヌプリ(Anp)等のテフラが分布する.

A 地形の撓みを挟んだ上部の地形面(高標高部)と下部の地形面(低標高部)では下部火山灰・ローム層(段丘礫層を含む)の地層構成が異なる.また,下部の地形面は形成時期が異なる2面から構成される.

B UPvs層の傾斜は下位ほど小さい.

C火山性砂礫岩層(LPs−g〜LPs)は側方への連続性が比較的良く,一様に5°前後で傾斜する.

D LPc層中に鉛直方向に延びる砂岩脈(砕屑岩脈)が認められる.

以下,上位から各層の概要を記す.

@)上部火山灰・ローム層(UVL)

Bk層(埋土):ピット調査で確認し,層厚1.5m程度.全体に雑多な層相を示し,軽石・礫(最大径30cm程度)・草茎等を混在する腐植土からなる土砂採取後の埋土である.

Ts層(表土):層厚0.1〜0.5mで,黒褐色を呈す腐植質土からなる.全体に草根の混在が目立ち,所々に橙色の軽石(Km−1f?)が点在する.

UVLs層(礫混り砂):S04−Mu−1孔で確認でき,層厚0.7m程度.灰褐色を呈す細〜中粒砂からなる.全体に葉理が弱く存在し,円磨された軽石・安山岩の細礫が散在する.

Ma−g〜j層(Ma−g〜j降下軽石・火山灰):S04−Mu−1孔で確認でき,層厚0.6m程度.上〜下部は軽石からなり,軽石の形態・火山礫の含有率からMa−g(径5〜15mmの亜円の軽石が主体で火山礫が散在する)・Ma−h(径5〜10mmの軽石からなり、火山礫を多含する。級化構造が発達)・Ma−i(径5〜40mmで亜角の軽石が主体で径の大きな軽石が目立つ)に区分・対比できる.最下部は灰色の細粒ガラス質の火山灰からなる(Ma−j).火山砂の葉理が発達.

UVLh2層(腐植土):S04−Mu−1孔で確認でき,層厚0.5m程度.黒褐色を呈す腐植土〜腐植質砂からなる.全体に径5mm程度の橙色の軽石が散在し,一部に葉理が弱く存在するシルト質砂が挟在する.

UVLh3層(腐植土):S04−Mu−4孔で確認でき,層厚1.4m程度.上〜中部は黒褐色の腐植土が主体で橙〜黄褐色の軽石が散在し,葉理のある火山灰質細粒〜中粒砂が挟在する.下部は火山灰質シルト質砂からなり,全体に円磨された軽石が混在する.再堆積性と推定した.

Ma−l層(Ma−l降下軽石):S04−Mu−4で確認でき,層厚0.9m程度.橙褐色の亜角の軽石が主体で,級化構造が認められる.最下部は暗灰色火山灰を多く含み,逆級化する.

A)段丘礫層(TG)

TG3層(砂礫):S04−Mu−1孔で確認でき,玉石混り砂礫で,層厚3.4m程度.円〜亜円礫が主体で,基質はシルト質の粗粒砂.礫種は安山岩が主体で,稀に泥岩・緑色凝灰岩・閃緑岩が認められる.礫径は10〜50mm程度が主体で,最大で切長80mm程度である.全体に上方細粒化し,上部は火山灰質砂質シルトへ漸移する.

TG4層(砂礫):S04−Mu−3・4孔で確認でき,玉石混り砂礫〜砂礫で,層厚1.0〜2.4m.円〜亜角礫が主体で,基質は火山灰質シルト.礫種は安山岩が主体で,稀に珪長質岩が含まれる.礫径は20〜40mm程度で,最大で切長120mmである.所々火山灰質シルト質砂の薄層が挟在する.

B)下部火山灰・ローム層(LVL)

LVLl層(ローム質土):S04−Mu−4で確認でき,層厚0.6m程度.暗褐〜褐色のローム質土からなる.弱い葉理があり,全体に木片・細礫が散在する.

LVLdf層(岩塊混りシルト質砂礫):S04−Mu−4孔とピット調査で確認でき,岩塊混りシルト質砂礫〜シルト質砂礫で,層厚0.4〜2.0m.ボーリングコアではシルト質砂礫からなり,安山岩の亜角〜角礫が主体である.

Anp層(アトサヌプリ降下火山灰):ピット調査で確認でき,層厚0.1〜0.2m程度.黄灰色の軽石混り細〜中粒火山灰からなる.

LVLvs層(火山灰質砂):S04−Mu−2・3孔とピット調査で確認でき,層厚2.3〜2.8m程度.灰褐〜褐灰色の火山灰質細粒〜中粒砂からなる.全体に葉理が発達し,安山岩・軽石の亜円〜亜角礫(礫の円磨度は比較的悪い)が混在する.一部の礫は葉理に沿って配列する.所々スコリア質砂や火山灰質シルトの薄層がはさまれる.層理面の傾斜は上部で20°程度,下部でほぼ水平である.

LVLtl層(礫混り火山灰質シルト質砂):ピット調査で確認できる.最大80cm程度の巨礫が混在する礫混り火山灰質シルト質砂からなる.分布形態から崖錐堆積物と判断した.

B)火山性砂礫岩層(VSG)

VSGs−g層(含礫凝灰質砂岩):S04−Mu−4孔とピット調査で確認でき,層厚5.7m程度で,含礫凝灰質砂岩・火山灰質砂・火山灰質シルトから構成される.凝灰質中粒〜粗粒砂が主体で,径10〜20mm程度の軽石・安山岩の円〜亜角礫が混在する.上部に行くにつれ礫の含有率が増加し,上方粗粒化を示す.上部は比較的不淘汰で,下部は所々葉理が存在し,凝灰質シルト岩の薄層がはさまれる.

VSGc層(砂質シルト岩):S04−YO−4孔で確認でき,層厚3.2m程度.上〜中部は砂質シルト岩とシルト質砂岩の互層で,全体に葉理が発達し,所々に中粒〜粗粒砂の薄層がはさまれる.互層単位は5〜50cmで,層理面の傾斜は5°程度以下である.下部はシルト質砂岩からなり,弱い葉理のある極細粒砂が主体で,鉛直方向の砂岩脈(砕屑岩脈)が認められた.

VSGsg層(凝灰質礫岩):凝灰質礫岩・含礫凝灰質砂岩・凝灰質砂質シルト岩よりなり,層厚3.9〜8.6m.比較的淘汰が悪い亜円〜亜角礫が主体で,含礫率が比較的高い.礫種は軽石・安山岩・玄武岩質安山岩が主体で,稀に珪長質岩が見られる.礫径は平均10mmで,最大が40mm程度である.基質は凝灰質細粒〜中粒砂からなる.上部は塊状で,下部は弱い葉理が認められる.

VSGtfs層(凝灰質砂岩):層厚7.1〜7.5m程度.凝灰質中粒〜粗粒砂岩が主体で,凝灰質砂質シルト岩が挟在する.最下部はシルト質砂岩からなる.凝灰質砂岩は全体に葉理が発達し,5〜10cm単位で級化することが多い.所々に軽石・安山岩・玄武岩質安山岩の円〜亜角礫が散在する.凝灰質砂質シルト岩は橙褐〜褐灰色を呈し,塊状で,ところにより弱い葉理がある.全体にスコリア・軽石が散在する.最下部のシルト質砂岩は上部では炭質物を含み,下部では軽石質である.

VSGtf層(スコリア・軽石凝灰岩):S04−Mu−1〜3孔で確認でき,層厚0.6〜0.9m.上部はスコリア凝灰岩,下部は軽石凝灰岩からなる.スコリア凝灰岩・軽石凝灰岩は塊状で,ときに級化構造が発達し淘汰が良い.スコリア凝灰岩についてフィッショントラック年代測定を実施した結果,0.82±0.15Maの値を得た.

Gpms層(軽石質砂岩):S04−Mu−1〜3孔で確認でき,層厚:1.7〜2.0m.灰〜淡灰色を呈す軽石質細粒〜粗粒砂岩が主で,上方細粒化を示し葉理がある.一部にシルトがシーム状に挟在する.層理・葉理面の傾斜は5°程度を示す.

VSGcp層(シルト岩):S04−Mu−1〜3孔で確認でき,層厚3.6m程度.主に葉理が発達したシルト岩からなる.炭質物を多く含み,所々濃集し暗褐色を呈する.一部に弱い葉理のある軽石質中粒〜粗粒砂岩がはさまれる.葉理・層理面の傾斜は5°程度である.VSGs層(含礫砂岩):S04−Mu−2孔で確認でき,層厚2.4m+.径10mm程度の礫が散在する粗粒〜極粗粒砂岩からなり,礫種は泥岩・砂岩・安山岩・凝灰岩・緑色凝灰岩と多種である.上部は軽石質で弱い葉理があり,一部に材化石を含む.

[試料分析]

地層の堆積年代を推定し,地形発達史を把握することを目的に,フィッショントラック年代測定・火山灰分析を実施した.図3−2−10に分析試料写真を示す.

@)フィッショントラック年代測定

 表3−2−8にフィッショントラック年代測定結果一覧を示す.分析結果の詳細は巻末の資料5に示した.測定は以下の2試料について試みた.

 S04−Mu−3−16.25はVSGtf層のスコリア凝灰岩で, 0.82±0.15Maの年代値が得られた.

 S04−Mu−3−16.40はVSGtf層の軽石凝灰岩であるが,前処理の結果,測定対象となるZr(ジルコン)結晶が含まれていなかったため測定不能であった.

A)火山灰分析

 図3−2−12に火山灰分析結果一覧を示す.同じく,分析結果の詳細は巻末の資料4に示す.1試料(S04−Mu−3−16.25)について実施した.

S04−Mu−3−16.25はフィッショントラック年代測定試料である.今後の参考資料とするために分析を実施し分析結果が得られたが,年代が前期更新世後半と古く,その頃の火山灰類については不明なことが多く,相当テフラは明らかにならなかった.

表3−2−6 北武佐地区ボーリング地点の諸元

表3−2−7 北武佐地区ボーリング調査層序表

図3−2−9 北武佐地区調査位置平面図(実測平面図)

図3−2−10 北武佐地区のボーリング調査関連写真

図3−2−11 北武佐地区の地質断面図(ボーリング対比図)

図3−2−12 北武佐地区ボーリング・ピット調査関連の火山灰分析結果一覧

表3−2−8 北武佐地区ボーリング調査関連フィッショントラック年代測定結果