1−6 調査結果の概要

標津断層帯の3カ年計画調査の最終年度として,地形地質調査(現地精査),ボーリング調査,ピット調査(地形地質調査)および総合解析を実施した.なお,これらのうち地形地質調査の現地精査および総合解析は北海道直営(北海道立地質研究所による)で実施した.

地形地質調査は現地精査として,当初にボーリング・ピット調査を計画した丸山・西古多糠・北川北・北武佐・養老牛の5地区を対象として,地形面(段丘面)区分,地形面の変位の解明,構成層(堆積物)の層相・構造(地層の走向・傾斜など)の把握を行うことを目的に実施した.ボーリング・ピット調査を実施した西古多糠・北川北・北武佐・養老牛の4地区については,1/5,000の精査図を作成したが,丸山地区についてはボーリング・ピット調査の実施を断念したので,当初の計画より広い範囲(露頭が多い植別川下流・陸志別川下流沿いを含む)について実施し,精査図としてはより大きい縮尺で作成した.さらに,忠類川中流においては前年度に浅層反射法西北標津測線が行われていること,忠類川とその支流に露頭が多いことから,糸櫛別地区として精査を実施し,精査図としては同様により大きい縮尺で作成した.

ボーリング調査は当初に地形地質調査の精査の計画対象とした地区のうち丸山地区を除く,西古多糠・北川北・北武佐・養老牛の4地区について,段丘(地形面)堆積物など地下浅部の層序を明らかにするとともに,活断層による変位の有無と変位の性状・規模を明らかにすることを目的に実施した.

ピット調査は掘削により,地表直下の地層の断面を直接露出させて観察し,極表層の地質層序・性状の把と活断層による地層の変形状況等を確認する目的で行った.ボーリング調査を行った4地区のうち,西古多糠地区で3箇所,北武佐地区で2箇所,養老牛地区で1箇所実施した.

総合解析の結果,以下のことが明らかになった.

古多糠断層に関連して西古多糠・忠類川中流糸櫛別・丸山地区では高位面・同堆積物に傾動現象が認められ,最終間氷期以前の間氷期(20〜30万年前?)以降に活動があったことが分かり,西古多糠地区では地形測量の結果,中位面1に幅100mあまり,比高差4m程度(地形面勾配考慮)の撓曲認められ,5万年前頃以降に本断層の活断層としての活動が類推できるが,変位はシャープなものでないため最新活動時期などは明確にできなかった.さらに,糸櫛別地区の中位面堆積物は屈斜路火砕流堆積物W(Kpfl−W)を鍵層として含んでおり,同堆積物を追跡すると,見かけ上東南東方向に35.4/1,000の勾配が認められ,このような勾配はこの付近の河川勾配が14/1,000程度であることから考えても大きく,KPfl−W堆積(115〜120ka)後に古多糠断層の活動による変位の進行が考えられる.

開陽断層北部東側リニアメントに関連しては前年度調査で中位面1に撓曲状の地形変位部が連なり,一部に活断層露頭?があるとしたが,北川北・北武佐両地区ではその“地形変位部”を境として山側に高位面が区別でき,それは地形変換部(ゾーン)であること分かり,活断層露頭?(北武佐地区)は斜面堆積物(崖錐・ソリフラクション・土石流)および地すべり堆積物でノンテクトニックな傾斜層よりなることが確認できた.荒川−パウシベツ川間断層に関連して養老牛地区において,群列ボーリング断面中で,中位面堆積物の一部であるKPfl−Wとその下位層の分布に10m程度の高度差をともなう断続があり,同断層の活動がKPfl−W堆積前後(115〜120ka)まで継続していた可能性がある.

丸山西方断層については,空中写真判読により凹地列としてとらえられ,周囲で高位・中位面1が傾動し,小丘状の盛り上がりがあることで特徴づけられる.特に丸山西方では中位面1に顕著な傾動現象が認められ,ボーリング・ピット調査の対象になりえたが,林道がなく交通困難なためそれらは不可能であった.露頭は多いく調査を進めたが,変位に直結する観察結果は得られず,地形面に傾動現象が認められるということ以上の解明はできなかった.

中位面1・2に関連して,中位面堆積物中の火砕流堆積物(主として溶結凝灰岩)が標津川沿いなど既知の分布域以外の忠類川(糸櫛別地区),薫別川沿い(西古多糠地区)および浜古多糠海岸などで確認されたが,従来の火山灰分析の結果,いずれもKPfl−W(115〜120ka)であることが明らかになった.このことは広く分布する中位面堆積物が最終間氷期から最終氷期前半にかけての堆積物で,主体を占める礫〜砂礫相は海面低下とともに発達した扇状地(複合扇状地)の堆積物であることを明らかにした.

活断層図は調査地域全域の地形面区分・層序(地層分布)・活断層・各種調査・資料位置などを表現したが,特に前年度報告から変更した点としては,従来の中位面1(T2−1)から区分して高位面(T1)を設けたため,従来の高位面を最高位面(T0)として取り扱った.標津断層帯の各構成セグメントは一般に分かりづらいため,地形・地質的な把握・表現が困難であり,明瞭な線(落ち方向表示)で描くことができなかった.丸山西方・古多糠断層は高位・中位面1の傾動として示し,一部は地形変換線として波線表示した.開陽断層(北部東側リニアメントを含む)・荒川−パウシベツ川間断層は高位面・中位面間のまたは山地と台地間の地形変換線(波線表示)となった.

図1−1 北海道の主な活断層と標津断層帯の位置

(原図は北海道発行パンフレット「北海道の活断層」)