(1)紋別地区

−1 地質・構造

ボーリング調査並びにトレンチ調査,ピット調査の結果から,出現した地層をA1層,A2層,A3層,A4層,B1層,B2層,C1層,C2層,D層,E層に区分した。

D層は段丘堆積物に相当する砂礫層,E層はボーリング調査でのみ確認され凝灰質砂岩・礫岩からなる十勝平野の基盤岩の新第三系豊似川層である。この2層を除くと,他の地層は全て地表より数m以内に分布する。図3−4−4−1−1図3−4−4−1−2 にトレンチ(TR3−1)を含む地質断面図に,14C年代・火山灰分析・花粉分析結果を記載した総合解析図を示す。また図3−4−4−2 にピット(Tp4−1〜4−3)を含む地質断面図に,14C年代を記載した総合解析図を示す。

紋別地区の撓曲崖は北に向かうにしたがって,急速にその比高を減じ消滅していた。トレンチの南方約300mでほぼ3m程度、トレンチ調査地点では約2m程度,トレンチから120mほど北のピット調査(Tp4−1〜Tp4−3ライン)地点では10〜20cmとなり,それ以北では全く平坦となっている。この付近には、北藤ファーム北部の丘陵谷部より流出した支流堆積物が撓曲崖の下盤側に広く分布しているが、トレンチTR3−1およびピットTP4−1〜TP4−5で下盤側のみに現れこれに対応するのは、Tp4−1やTR3−1などで観察できるA3層(礫混じり砂質シルト層)である。今回の結果は、撓曲崖地形の下盤側が支流性堆積物で埋積されることにより、撓曲崖の比高が小さくなったことを示している。その一方で、TR3−1およびB7−1〜B7−4の測線で見られるD層上面高度差が2.3mに達するのに対し、TP4−1〜TP4−3でのD層上面高度差は1.1mに過ぎない。TP4−1〜TP4−3の支流性堆積物の厚さがTR3−1付近にくらべ有意に厚いわけではなくむしろ薄いことは、光地園断層の変位量がトレンチTR3−1からTP4−1〜TP4−3にかけて急速に低下したとすることで説明できる。TP4−1〜TP4−3付近から国道にかけて高度差がほぼ消滅し、国道以北ではトレンチ付近に類した高まりが皆無であることを考え合わせると、TP4−1〜TP4−3付近に光地園断層の北限が位置すると考えるべきであろう。A3層は、TP4−1〜TP4−3、平成14年度上野塚トレンチでも見いだされた。TP4−1〜TP4−3ではA3層下面の年代は2350±60yBP、上野塚トレンチではA3層相当の下面年代は2420±60yBPであり、TR3−1およびTP4−4〜TP4−5でのA3層下面年代2160±70yBPと極めてよく一致する。近接した地域のみでなく離れた地域でも断層の下盤側の全く同じ層準にこうした堆積物が現れるのは偶然とは言い難い。TR3−1ではA3層下位のD層の堆積構造が乱れている。またTR3−1〜TP4−4、TP4−5にかけてはD層上面が波打つように撓んでいる。これらは、トレンチからTP4−4〜TP4−5にかけて水平成分に富んだ低角衝上断層的な変位が生じていたと解釈すれば矛盾無く説明できる。A3層はプリズム堆積物であり、A3層自身が変位していないことは光地園断層の最新活動期がA3層堆積直前であったと考えれば、最新活動期は2160±60yBPとできる。

一方,トレンチのN13〜N16,S12〜15のD層には傾斜60°で連続する断層が確認された。断層面付近でのD層上面およびC2(C1)層の変位量は1〜1.4m程度だが、トレンチ全体にB7−1〜B7−4も加えて検討すると、D層上面およびC2(C1)の高度差は2.3mに及ぶ。地形面および地質構造からB7−1〜B7−4によりここでの撓曲構造の幅をカバーしているとみなせるので、ここでのD層上面およびC2(C1)層の垂直変位量は2.3mとすることができる。A層については上盤側で削剥されているため、厳密には高度差を議論できないが、同じ条件で比較するため断層付近での変位量を比較すると、D〜C層の1〜1.4mに比べA層下面のそれは50cm程度と約半分である。これは、A層下面形成以降に少なくとも1回のイベント、C〜D層堆積以降に2回のイベントがあったと解釈することで説明可能である。C層とA層の境界からは、濁川テフラ(12ka)の濃集層が確認された(表3−4−3−2)。すなわちA層を変位させたイベントは、12kaよりも新しく、A3層下面年代2160yBPとも矛盾しない。

一つ前の活動期を検証するための資料は多くはない。ただ、平成14年度上野塚トレンチでは、D層相当の段丘礫層上面から17700±70yBPの14C年代が得られている。このことから、一つ前の活動期は17700yBP以降12ka以前と見なすことはできる。

−2 年代観の妥当性

TR3−1では花粉分析によりTR1−P18とTR1−P17の間でグイマツの消滅・コナラ出現層準が認められた。この層準は北海道において8000年を示すイベントである。一方、ほぼ同じ層準(B2層)からは4640±50yBPの14C年代が、層準的に下位になるD層相当としたN3付近の斜交層理砂層からは5130yBPの14C年代が得られた。この砂層の年代はD層を覆うローム層とその最上位の濁川テフラの年代と明らかに矛盾することから、斜交層理砂層はB層に対比すべきものかもしれないが、現時点では検討資料が不足している。花粉分析結果については、採取資料が腐植土であったことから、花粉のサンプル数が少ない傾向にある。14C年代は5130yBPの資料を除けば概ねトレンチ内で整合性が取れていることから、火山灰とローム層の層位関係は北海道における濁川テフラの層位と概ね矛盾しないことから、ここでは14C年代および火山灰による年代に主として基づいて、各層位の年代観を判断した。