(6)考察

−1帯広市空港南町地区

本調査地域は十勝平野の中央部に位置し、中期〜後期更新世に形成された河川による段丘面が発達している。地形的にはウツベツ川に沿って西向きの崖が見られるが、断層運動に起因した撓曲崖か、あるいは河川の浸食によって生じた河蝕崖か、はっきりとはわかっていない。実際、ウツベツ川左岸一帯は低地帯を形成し、右岸の浄水場付近では地形的な高まりがあり、川岸で約3mの標高差がある。今回実施した浅層反射法の測線は、受振点120付近(CDP270)で、ウツベツ川を横断している。

そこで、浅層反射法地震探査の結果に基づき、

・表層構造

・速度構造

・反射イベントの特徴

に注目して、ウツベツ川に沿った断層が存在するかどうか、その可能性に関する考察を行った

(1) 表層構造

地形的には、ウツベツ川左岸一帯の幅150mの区間は低地帯を形成し、右岸には比高2〜3mの崖が形成されている。この一帯は周辺部と比較して、タイムターム値が小さく、ウツベツ川の横断地点では約10msecもの大きな変化が見られる。それに伴い、表層厚が8m程度薄くなっている(図3−2−1−28)。しかしながら、その表層基底の標高の変動は小さく、周辺部も含め70m±2mで推移していることら、表層厚の変化は地表面の標高変化を反映していると考えられる。その一因として、低地帯の形成過程(河川による侵食で地表面が削られた?)が関連している可能性が考えられる。

(2) 速度構造

図3−2−1−29に浅層部分のRMS速度の構造図を示す。ウツベツ川(受振点120付近)を挟んで、浅層部の速度構造は異なっている。ウツベツ川の南東側には、地表付近でP波速度1,600m/sec以下の低速度帯が存在する。一方、ウツベツ川より北西側では、1600m/sec以上の速度を示すとともに、深度100m以浅に高速度を示す反射イベントが存在する。南東側には、そのような反射イベントは見られず、全般的に遅い速度を示す。この反射イベントは、原データ並びに速度解析パネル上で明瞭な反射波として認識され(図3−2−1−30)、その存在は確かであると考えられる。一方、ウツベツ川南東側の速度解析パネルには、そのような反射イベントは存在しない(図3−2−1−31)。これは、ウツベツ川を挟んで、浅層部の堆積環境が異なっていることに起因していると推定される。

(3) 反射イベントの特徴

深度断面図(図3−2−1−26)に対し、ウツベツ川周辺部の浅層部を拡大したもの(深度方向を3倍に拡大)を図3−2−1−32に示す。ウツベツ川右岸の受振点70〜120、海抜20mから海抜−70mの区間では、周辺部より若干(5m前後)反射面の極わずかなうねりが見られるものの、断層の存在を示唆する反射面の段差や撓曲構造は確認できない。

地表面から海抜30mまでの約45mの深度区間では、ウツベツ川の西岸から北西側には反射イベントが存在するが、ウツベツ川を挟んで南西側には存在しない。この理由として考えられるのは、

・地表部にある人工構造物(浄水場)の影響(反射波の散乱)

・表層部の物性の相違

が考えられる。

速度解析から得たRMS速度を(5.4)式に従って区間速度に変換し、深度断面図にカラー表示として重ね合わせた断面図を図3−2−1−33に示す。速度構造で指摘したように、ウツベツ川横断地点より北西側の浅層部に存在する高速度の挟み込みは、連続性の良い反射イベントに対応している。この高速度層は、ウツベツ川付近で消滅している。

受振点70〜120、海抜−40m〜−70mの区間は、周辺部と比較して速い速度を示す。この区間は前述したように、海抜20m付近から反射パターンが多少異なった(若干の反射イベントの盛り上がりと乱れ)部分であり、この高速度領域の存在と関連をもつ可能性も考えられる。海抜−70m以深では、反射イベント、速度構造に有為な差は見られない。

これらの解析結果を総合(図3−2−1−34)すると、ウツベツ川右岸においてわずかな反射面のうねりが見られるものの、有為な反射面の落差は確認できないことから、断層の存在を示す証拠は得られなかったと言える。ウツベツ川を挟んだ浅層部の速度構造の相違については、ウツベツ川右岸の地形的な盛り上がりとは逆に、低速度帯(P波速度1600m/sec以下)が形成されていること、海抜−70m以深で反射面が平坦であること、並びに北西側の高速度層がウツベツ川付近でせん滅していることから判断して、堆積環境の違いを反映していると推定される。