(1)紋別地区

紋別地区においてはピットおよびトレンチに出現する地層をA1層,A2層,A3層,A4層,B1層,B2層,C1層,C2層,D層に区分した。A1層は耕作土・表土・盛土であり,A2層は黒色腐植土層である。A3層は砂質シルトもしくは細礫からなる砂礫層で支流性の堆積物の可能性が高い。A4層は一般に黒色強腐植土であるが部分的にやや弱い腐植層の場合もある。B1層はローム質シルトであり,B2層は弱腐植層で礫混じりとなっていることが多い。

C1層は淡褐色から黄灰色のローム層である。C2層はローム層中に挟まれる細礫層もしくは砂層である。C2層が分布する場合C1層はC2層の上下で層準が異なることになるが,C2層が分布しない場合は分離が困難であるため,名称は一括している。

D層はすべてのピットに見られる砂礫層であり堆積時期がわずかに異なる場合も考えられる。しかし,地層観察からは有意の差は見出せないため地層記載の段階としては一括して取り扱った。以下に各ピットで見られる地層および確認された構造について記載を行う。

(地層・構造記載)

ピットTp4−1

ピットTp4−1ではA1層,A2層,A3層,A4層,B1層,B2層,D層が観察された。A1層は耕作土でピット全体に連続し地表から0.30m前後の深さが耕作によって攪拌を受けている。A2層は耕作土直下の黒色腐植土であるが,このピットでは北側法面から南側法面にかけて層厚20cm前後で断続的に分布し,腐植の程度もやや弱い。A2層は比較的厚い腐植層となることが,この地域でも一般的であるが,分布が断続的で層厚が薄い原因は,そのほとんどが耕作によって攪拌されることに加え下位層の堆積環境が腐植層の発達や,有機物の分解に障害になっていたことが考えられる。

A3層は層厚1m程度でピット全体に観察される。ここでのA3層は一部下位層を削りこむ細礫層と腐植質シルトや砂質シルトの部分に分かれるが,削り込みは部分的であり砂質シルト層と指交関係も見られることから一連の堆積物として扱った。細礫部分は2cm以下の亜円〜角礫からなること,削りこみの流路方向が北西から南東に向かっていることから小規模な河川もしくは支流による堆積物と判断される。砂質シルト緩やかに南東方向に傾斜し,全体に弱腐植質で細礫混じりである。北側法面および南側法面には赤褐色の軽石粒が細礫とともに堆積していることが確認された。A4層は黒色の強腐植層で層厚は20cm前後,ピット全体に連続し南東〜東方向に緩やかに傾斜する。上面から2350±60、下面から2880±60yBPの14C年代が得られた。

B1層はややローム質のシルト層で北側,南側,東側法面で観察され西側法面では観察されない。地層上面の傾斜は緩やかであるが基底は10°前後で東に傾斜し,層厚も東側法面で20cmを超す。B2層はB1層直下にみられるが,この地層はピット全体に連続する。層厚は5〜10cmであるが,B1層基底と同様に東に10°前後の傾斜を示す。B2層最下部から3950±40yBPの14C年代が得られた。

ピット最下部には段丘堆積物と考えられるD層が観察される。ここでのD層は観察される範囲で上部30〜40cmがシルト優勢の基質を持ち,下部は砂優勢の砂礫層で円〜亜角礫によって構成される。礫種は花崗岩類,泥岩,砂岩が主体であり巨礫を含み,花崗岩類の風化礫が見られる。砂礫層中に層理は見られないが,基質がシルトと砂となる境界はB2層およぶ砂礫層の堆積頂面と同様に東に傾斜を示している。

ピットTp4−2

ピットTp4−2ではA1層,A2層,A3層,A4層,B2層,C1層,D層が観察された。A1層は耕作土でピット全体に連続し地表から0.30〜0.40mの深さが耕作によって攪拌を受けている。A2層は黒色強腐植層でピット全体に連続するが東側法面でやや薄い。A2層最下部から1400±80yBPの14C年代が得られた。A3層はピット西側で細礫主体の砂礫層が優勢であり全体で60cmの層厚をもつが,ピット東側では砂質シルト層のみとなり,しだいに層厚が薄くなり層厚20cm程度となっている。A4層は層厚20cm前後の黒色強腐植層であるが東側に向かってやや層厚が薄くなり,腐植の程度もやや弱くなる。A4層は一部でA3層に削り込まれるため,連続が曖昧であるが西に向かって10°程度の傾斜を示す。

A4層の下位にはB2層とC1層が確認されたが,このうちB2層は西側で厚く50cm程度の層厚を持つのに対し,東側では急激に層厚を減じてピットの北東側では欠落する。これに反してC1層はピット東側にのみ分布し,層厚40cmの礫混じりシルト質ローム層となっている。

このピットの最下部に見られるD層は全体として基質が砂優勢で巨礫を含む砂礫層であるが,上部にラミナの発達した粗粒砂層が見られる。この砂層は層厚10〜15cm程度で分布もピット北側から東側に限られるが確認される範囲で層厚に大きな変化がなく,ラミナの走向・傾斜はN24°E,33°Wを示し,砂礫層の堆積頂面も同様の傾斜を示している。

ピットTp4−3

ピットTp4−3ではA1層,A2層,A4層,C1層,D層が観察された。A1層は耕作土でピット全体に連続し地表から0.30〜0.40mの深さが耕作によって攪拌を受けている。A2層はピット全体に連続して観察されるが,腐植の程度がやや弱く層厚は20cm程度である。この直下には層厚10〜20cmの弱腐植層が見られるが,層相および下位層との関係からA4層と判断した。

腐植層の下位には礫混じりのローム層が見られる。このローム層は層相および層序関係からC1層と判断される。したがって,このピットではA3層およびB1,2層が欠落する。ピットの下部には基質が砂優勢の砂礫層が観察される。砂礫層は巨礫を含み部分的に連続の悪いラミナの発達が認められる。南側法面では砂礫層の上部に層厚5〜10Mのやや連続のよい粗粒砂層が観察される。この砂層は緩やかに西に向かって傾斜するが,砂礫層の堆積頂面の傾斜はこれよりも緩やかなものとなっている。

ピットTp4−4

ピットTp4−4ではA1層,A2層,A3層,A4層,D層が観察された。A1層は耕作土でピット全体に連続し地表から20cm前後の深さが耕作によって攪拌を受け基底部に未分解の植物等がすき込まれている。この下位に層厚20cmの黒色強腐植層,層厚10cm暗灰色の弱腐植層,層厚20〜30cmの黒色強腐植層がほぼ水平,かつ連続よく堆積していることが確認された。この腐植層を上位からA2層,A3層,A4層とした。

この腐植層直下にはD層に区分した砂礫層が観察される。この砂礫層は最上部20cm前後の基質が腐植質でその層厚に変化がないが,直下の層厚10〜30cmの部分は基質がシルト質となっている。砂礫層下部は基質が砂優勢で巨礫も含む。礫種は花崗岩類・砂岩・泥岩など多種にわたり,円〜亜角礫で構成される。西側法面の最下部では砂礫層中にレンズ状のシルト質細粒砂層が観察される。

ピットTp4−5

ピットTp4−5ではA1層,A2層,A3層,A4層,B1層,B2層,D層が観察された。A1層は耕作土でピット全体に連続し地表から20〜30cmの深さが耕作によって攪拌を受けている。A2層は黒色強腐植土で層厚20〜30cmと変化が少なく,ピット全体で連続よく観察される。A2層最下部から1740±40yBPの14C年代が得られた。A3層は砂質シルト層であり,このピットにおいては礫を含まない。層厚は20〜50cmで東に向かって厚くなっている。A4層は黒色の強腐植相である。層厚は30〜40cmで東に向かって厚くなっているが,ピット西側で下位の砂礫層などに乗り上げる構造を示す部分を除くと,ほぼ同一層厚な堆積物として認識できる。最上部から2130±60yBP、最下部から3720±70yBPの14C年代が得られた。

この下位にはローム質シルト層であるB1層および弱腐植層のB2層が確認される。いずれの地層も層厚は10〜20cmと薄いが,東に向かって厚くなり,特にB1層は西側には分布しない。ピットの下部には巨礫を含む砂礫層が観察される。この砂礫層の上部20〜30cmは基質がシルト質であり,下部は砂質である。この境界は砂礫層の堆積頂面同様東に向かって10°〜20°の傾斜を示している。砂礫層の上部(基質シルト部分)と下部(基質砂優勢部分)は,礫径の相違などから異なる地層として扱うことも可能であるが,ここでは一括してD層とした。