(2)開陽地区

開陽断層を対象に断層・撓曲・傾動の存否を目的に,図3−3−27に示す位置で1測線3,000mを実施した.

@速度分布

表層および基盤の弾性波速度を把握することを目的に,反射法の測定により得られた波形記録より初動を読み取り,屈折法による解析を行った.その結果を図3−3−28の上段および中段に示す.解析の結果,2層構造に解析され,表層の速度層は0.6km/sを示し,測線中央部周辺で厚く,層厚は厚いところで45m程度を示す.基盤の速度は1.9〜2.0km/sを示すが,測線の始点側と終点側で1.9km/sとやや遅い.

反射法の速度解析によるCMP重合速度を図3−3−28の下段に速度コンター図として示す.ここでの速度値はCMP重合速度であり,水平多層構造を仮定した場合はRMS速度(時間深度の平均速度)に近似的に一致する.

速度分布は表層部で1000〜1500m/s(赤〜黄色)の速度を,2000msの深部で3000m/s程度までの速度を示し深部に増加する傾向を示す.表層部の1500m/s(黄色)に着目すると測線終点側に向かって浅くなる傾向が認められる.1500msより深部については,測線中央部より始点側で3000m/s程度とやや重合速度が速い傾向を示す.

A反射面解析

データ処理の結果から得られたカラー表示深度断面図(図3−3−19)上に認められる反射面の特徴を抽出しまとめる.図3−3−29には抽出した反射面に色を付けて表示した.

反射面は全体として測線終点側に向かって上昇し,測線の終点側でより傾斜角が緩くなる傾向が認められる.その中に幾条もの連続性の良い反射面が認められる.

抽出した反射面は,特に連続性の良いものと特徴的なものの4条とした.

反射面T:測線始点からCMP110付近の区間ではほぼ水平に連続性のある反射面として認められ,CMP110付近からCMP370の地表付近へ向かって緩やかに上昇する.

反射面U:測線始点の標高−100m付近から終点の標高160m付近へ向かって上昇する,連続性の良い明瞭な反射面.

反射面V:測線始点で標高−440m付近から測線終点で標高100mに連続する反射面.CMP200付近と370付近で反射面の傾斜に変化が認められる.この区間で傾斜がやや急になる.

反射面W:測線始点で標高−980m付近から測線終点で標高−200mに比較的連続性の良い反射面.この反射面より深部においては連続性のある反射面は認められなくなる.

なお,これらの特徴的な反射面のうち,V・Wは本測線の始点側延長上で交差する既往調査測線(石油公団,1985;V−B測線のCDP770付近)でも認定されており,かなり広域にわたり追できる反射面である.

B反射断面の解釈

Aで示した特徴的な反射面について,地質構造的解釈を述べる(図3−3−29).

反射面T:地表下25〜30m付近に位置する連続性の良い強振幅のものであり,これより上位の反射面はほぼ水平で,下位の反射面は始点側へ傾斜する様な反射パターンを示すことから,不整合面に対応する考えられる.さらに,周辺の地表地質状況や屈折法解析結果(図3−3−28)による基盤弾性波速度の傾向(測線中央部に比べて若干遅い)も考慮すると,中位面堆積物T2dと鮮新統幾品層Ikとの境界であると推測される.

反射面T〜W間:全体に連続性の良い反射面がいくつも認められることから,成層構造の発達した互層状の地層からなると判断される.地表の地質状況を考慮するとこの区間は幾品層からなると推測され,比較的連続性の良い明瞭な反射面は挟在する泥岩や溶岩などの境界面を反映したものであると推測される.特にU・Vは連続成が良い強振幅の反射面である .

反射面U:何らかの時間間隙を表す可能性も考えられるが,上下の反射パターンと斜交する様子が認められないため,現段階では確定的な判断は下せない.

反射面V:これを境に上下の反射パターンの傾斜に違いが認められる.U〜V間にみられる反射パターンがVに対して,終点側へ収束するように斜交する形状が確認できるが,これはVに対してオンラップしていると解釈でき,Vは時間間隙を表す可能性もある.

反射面W:反射状況が明瞭な区間と不明瞭な区間の境界に対応している.この反射面以深は成層構造の発達が悪い層相が主体と推測できる.地表の地質状況を考慮すると,Wより下位は忠類層に相当すると判断できる.

このほか,本測線における反射パターンの全体的な特徴をみると,断層活動を示唆するような反射面の食い違いや途切れなどは認められないが,連続性の良い反射面の傾斜が深部ほど急で浅部へ徐々に緩くなる傾向や,始点側(平野側)へ向かうほど層厚が増す傾向が認められる。これは、終点側(山地側)の相対的隆起と始点側の相対的沈降という緩慢な構造運動の継続(累積)を反映しているものと解釈できる.さらに,V〜W間の層厚は山側へあまり減少しないのに対して,U〜V間のそれが山側へ急激に変化しており,これは具体的には幾品層堆積時(鮮新世)に山側(知床半島基部)が上昇する運動があったことを意味する.

図3−3−27 浅層反射法地震探査・解析測線図(S−2測線;開陽地区)(縮尺 1:10,000)

図3−3−28 速度分布図(S−2測線;開陽地区)

図3−3−29 反射面解析深度断面図(マイグレーション後)(S−2測線;開陽地区)(縮尺 1:10,000)