(1)S−1測線(西北標津地区)

古多糠断層を対象として浅部の詳細な地質構造の把握し,断層や撓曲構造の確認を目的として,図3−3−24に示す位置で1測線5,000mを実施した.本調査ではリニアメントを横断するような測線配置としているが,本地区では既往調査(S59石油公団)において,金山橋より東側(リニアメントの東側)でV−C測線として大深度の反射法地震探査が実施されている(石油公団,1985).

@速度分布

表層および基盤の弾性波速度を把握することを目的に,反射法の測定により得られた波形記録より初動を読み取り,屈折法による解析を行った.その結果を図3−3−25の上段および中段に示す.解析の結果,2層構造に解析され,表層の速度層は0.8km/sを示し,層厚は厚いところで35m程度を示す.基盤の速度は1.7〜3.6km/sを示す.基盤速度は測線始点側で1.7km/sを示し,測線終点側に向かって徐々に速くなり,測線終点付近では3.6km/sを示す.

反射法の速度解析によるCMP重合速度を図3−3−25の下段に速度コンター図として示す.ここでの速度値はCMP重合速度であり,水平多層構造を仮定した場合はRMS速度(時間深度の平均速度)に近似的に一致する.速度解析は屈折法の解析結果を参考に実施した.

速度分布は表層部で1000〜1500m/s(注:メーター/秒)(赤〜黄色)の速度を示し,深部に向けて速度が増加する傾向を示す.1500〜3000m/s(黄色〜緑色)の速度に着目すると,測線始点側では1000ms(注:ミリ秒)付近まで分布するが,測線終点側では500ms以浅に分布し,終点側に浅くなる傾向を示す.この傾向は屈折法による基盤速度層の分布状況とも調和的である.また,測線距離程3900m付近を中心にして1000ms付近で凸形状の速度の高まりが認められる.

A反射面解析

データ処理の結果から得られたカラー表示深度断面図(図3−3−15)上に認められる反射面の特徴を抽出してまとめる。図3−3−26には抽出した反射面に色を付けて表示した.

反射面の認められる範囲は表層部より標高−500m程度までで,これ以深では反射面の振幅が弱くなり不明瞭となる.

水平方向では測線始点〜CMP320の区間では,測線終点側へ上昇する数条の強く連続する反射面が認められるが,CMP320〜終点では,連続性のある強い反射面が認められない区間となる.

反射面T〜V:測線始点〜CMP320付近の区間に認められる,明瞭で連続性の良い反射面で,終点側へ向けて緩やかに上昇する.このうち反射面U・Vは、既往調査(石油公団,1985:V−C測線のCMP210〜291)において認定されている反射面に対応する.

反射面W:CMP460〜終点の標高100m前後に凹凸を繰り返して連続する反射面.大きくはCMP710・920付近で凹の形状,CMP600・800付近で凸の形状を示すように見受けられる.この反射面以深には,この面に近似した形状のパターンが所々断続的に認められる.

CMP320〜460区間では,斜めに交差するような反射面形状が多く認められるが,マイグレーション前の解析断面上では幾つもの回折波が重なり合う様子としてとらえられる(図3−3−13).

F1:CMP190の標高40m(反射面Uの撓み部)付近から深部に向かい,始点側へ傾斜して延長する断層状の境界.反射面VをCMP260付近の撓み部分で切る.

F2:CMP280の標高100m付近から深部に向かい,始点側へ傾斜して延長する断層状の境界.反射面VをCMP170付近で切る.

F3:CMP300の標高100m付近から深部に向かい,ほぼ垂直に延長して反射面Vを切る2条の不連続境界.

F4:CMP310の標高100m付近から深部に向かい,ほぼ垂直に延長する断層状の境界で,反射面Vがこれを境として終点方向へ追跡できなくなる.

F5:CMP465の標高120m付近から深部に向かい,始点側へ傾斜して延長する断層状の境界で,傾斜角は深部へ向かって急となる.また,終点側で連続的に追跡できる反射面Wのに続くように見える.

B反射断面の解釈

Aで述べた特徴的な反射面や境界について,その構造的解釈を述べる.

反射面T:これを境にして,上位ではほぼ水平な反射パターンが認められ,下位では始点側へ緩く傾斜する様な反射パターンが認められることから,不整合面であると考えられる.この面より上位の部分は周辺の地表地質状況や水平成層を示唆する反射パターンの特徴,屈折法解析結果(図3−3−25)による基盤弾性波速度の傾向(1.7〜1.8km/sと相対的に低速度,注:ここでいう基盤とは問題とする反射面の上位の低速度層に対しての下位の高速度を成す基盤という意味)および層厚などから,中〜上部更新統(その上半部が中位面堆積物T2d)と判断できる.

反射面U・V:既往調査(石油公団,1985:V−C測線)でも認定されている明瞭な反射面であり,本面を境にして上位では始点側へ緩やかに傾斜する連続性の比較的良い反射パターンであるのに対して,下位ではその連続性ががやや劣る.この違いは,卓越する岩相の違いを反映するものと推測され,地表における地層状況や屈折法解析結果(図3−3−25)による基盤弾性波速度の傾向(1.8〜2.8km/sと中程度)も考慮すると,反射面T〜U間が幾品層(Ik),同U〜V間が越川層(Ko)に相当すると考えられる.

反射面W:CMP440付近より終点側で比較的連続性良く続く,凹凸を示す反射面である.この反射面は,周辺の地表地質や屈折法解析結果(図3−.3−25)による基盤弾性波速度の傾向(3.1〜3.6km/sと相対的に速い)から忠類層中のもので,上下にも同様の形状を示す反射パターンが認められることから,忠類層中に挟在される溶岩や泥岩などが層状構造を成し,ある程度広域的に広がっていると推測される.なお,凹凸は褶曲構造を表していると考えられる.

上述の明瞭な反射面やその他の反射パターンの不連続・変形などの状況から,その境界面としてF1〜F5の断層状構造が想定できる.

F1:反射面Uより上位には追跡できないが,反射面Uの撓み部に延びるため,この変形の要因になっている可能性がある.

F2:地表(河床)での地質状況を考慮すると,これを境に終点側へ幾品層が急立している.

F3・F4:反射面Vの終点方向への連続性を断続しており,その上下の反射パターンも含めて連続性が失われていることから,何らかの断層構造を反映している可能性が高い.

F4・F5:CMP310〜460区間の浅部付近の非常に乱雑な反射パターンが存在する範囲の境界に相当するが,この範囲では地表(河床)で幾品層・越川層が撓曲構造(急立〜逆転構造)をとることを考慮すると,反射面ではなく回折波の集まりが断面上に表現されたものと解釈される.F4〜F5区間では,同様の反射構造が深部まで続くことから,撓曲構造が地下深部まで続くことが推測されるが,その詳細は本探査結果だけでは分からない.

図3−3−24 浅層反射法地震探査・解析測線図(S−1測線;西北標津地区)(縮尺1:10,000)

図3−3−25 速度分布図(S−1測線;西北標津地区)

図3−3−26 反射面解析深度断面図(マイグレーション後)(S−1測線;西北標津地区)(縮尺 1:10,000)