(3)断層付近の地形・地質調査

ここでは標津断層帯を構成する個々の断層毎に,断層とその近傍について地形面の変位状況の観察と測定(現地簡易測量による断面解析および断層露頭地質観察の結果について説明する.

[丸山西方断層]

調査箇所は植別川の南側で丸山西方の凹地帯である.車での交通可能な林道は凹地帯西側縁辺とその西側山地に限られ,凹地帯の主体の部分には欠如している.縁辺西側林道から鬼尾内川および元崎無異川を歩行で下りながら調査を行った.その結果(図3−1−30,写真30〜33),本凹地帯は地形的には3面で構成されており,堆積物の様子から中位面1,最低位面および現河川氾濫原面と判断した.西側山地では幾品層が分布し,東側の丸山側の丘陵は北東−南西方向の地形的高まりの連なりに対応して,陸志別層の火山岩類(火山性乱堆積・土石流状火砕岩,溶岩)で構成されているようであることが2露頭(nm−58・ku−01)の観察から推察できる.そのような地形的高まりの西側で中位面1が西へ傾動する様を視察した.なお,このような火山岩類を反映した地形的高まりは空中写真判読で指摘したように,ポン陸志別川以北の海岸沿いにも存在している.

[古多糠断層]

本断層南部については,崎無異川および薫別川のそれぞれ南岸側台地(中位面1)で,中位面1が平野側から山地へと続く所でリニアメントに当たる箇所で軽微な撓みを認め,簡易測量を実施した(図3−1−32図3−1−33,写真35).その結果,崎無異川箇所では2m程度,薫別川箇所で4m程度の撓みを認めた.ただし,薫別川箇所では変位部の幅は140mもあり,シャープなものではない.なお,薫別川箇所ではボーリング調査(S03−1孔)を実施した.崎無異川箇所での中位面の露頭柱状を図中に示しており,薫別川箇所の対岸側の中位面1の露頭柱状は図3−1−7に示した.

忠類川沿いでの観察結果は平成14年度報告で示した通りであるが,今年度は支流のイケショマナイ川・横牛川・討伐沢で忠類・越川・幾品層の調査を行った(付図,写真37〜40).特に,横牛川では越川層がほとんど直立しており,層面すべりとしての数10cm幅の破砕・粘土化帯をいくつか確認している(写真40).

[開陽断層]

開陽断層南部についてはクテクンベツ川の河床に沿って幾品層の連続的露出が2km程あり(写真28),その中をリニアメント部が通過している.ここでは幾品層がE〜ESE方向へ15°±の緩傾斜の層状構造を取っているが,特に断層は検出できていない.下流よりで火山性の土石流状・乱堆積の礫質岩相が占めているが,この岩相の中で断層の存在もありえるが,再度の吟味が必要であろう.浅層反射法地震探査・ボーリング調査を実施した武佐川上流では中位面1および低位面1に関連していくつかの露頭の調査を行っているが,その様子はボーリング調査結果で説明する.

開陽断層北部について,リニアメント(地形変換線)に関わる新たな事実は得られなっかったが,その背後の山地内ではウラップ川河床でリニアメントに隣接して幾品層の断片的な露出があり,ESEへ70°という急傾斜が確認できた.

[荒川・パウシベツ川間断層]

本断層については鱒川沿いで牧草地拡張の切り土の大露頭(da−32)と川沿いの断片的な露頭群(da−24〜31)があり,間接的ながらその実態の把握が可能である(図3−1−38,写真50〜55).大露頭では図3−1−38の右下に示すような8mの高さの柱状図が作成できるが,最下部に新第三系幾品層が顔を出し,その上位に3m程の不淘汰角礫まじり砂質泥層があり,さらに摩周火山灰層(Ma−lと直下のローム〜Ma−b)が重なる.不淘汰層は標高で250m付近に分布しており,これを中位面の主体の堆積物と見なせば,ここで中位面1が北28号道路からの700m間で40mと異常に変位していることになる.しかし,大露頭の堆積物が不淘汰であることから斜面性の堆積物と考えられ,このような異常な変位があるとは言い難い.鱒川沿いには中位面1に続く河岸段丘面が存在しているが,その露頭柱状対比図(図3−1−38左上)からは鮮新世幾品層(軽石凝灰岩・火山性不淘汰砂礫岩)とその上に重なる堆積物(厚さ8m前後,円礫の基底礫相と摩周火山灰層)が認められる.そして,地形的に特に異常な変位は認められなかった.

荒川沿いには上位より中位面,低位面1および最低位面が分布し,断層(地形変換のリニアメント)付近の露頭(da−22〜23の長さ300mあまり)では摩周軽石流が載る低位面1堆積物があるが(図3−1−19,写真48)特に異常な変位を示す所はなかった.

標津川本流では浅層反射法地震探査とボーリング調査(S03−3孔)を実施し(写真56・57),本流沿いの露頭調査も実施したが,これらはボーリング調査で説明する.なお,ボーリング孔で出現した溶結凝灰岩(KpW)については,KpWが一般的には山地際には分布が確認できておらず,この溶結凝灰岩がKpWであると断定するにはなお問題があり,摩周軽石流との対比について再吟味が必要である.

[開陽断層北部東側地形変位部]

ウラップ川南側に砂利採取場があり,本地形変位部を横切るように長さ約300mの大露頭がある.掘り込みの深さは10mあまりで,Ma−lを含む摩周火山灰層(厚さ3m)とその下位に礫層(厚さ6m+)が存在している(写真41・42).一方,この採取場横の南二線道路沿いに1/5,000地形図をもとに地形断面図を描くと図3−1−35の右上のようになる.これで明らかなように変位があるとすればそれは13m程になるが,変位部の幅は200m程となり,極めて大きい.面変位が確実とすれば,問題は面の構成堆積物が変位しているかどうかである.ローム・腐植を含む摩周火山灰層は風成層であることから,斜面なりに傾いていることは変位の証拠にならない.よって,礫層の中に変位の証拠をさがしたが,今のところ発見できていない.

北武佐イロンネベツ川の北側には写真60に示されるような中位面1の撓曲状の地形変位部がENE−WSW方向に認められる.この付近に存在する露頭群の柱状図は右下に示した.その変位部の平野側前面にはmu−14・15地点を含む砂利採取の長い大露頭がWNW−ESE方向に深さ10mあまりで約1km程続いている(写真60・61).少なくともこの長い露頭では砂・ローム質のはさみを含む礫層中にテクトニクスの変位を示す証拠は認められなっかた.変位部に位置するmu−16地点では川に近い西端部において図3−1−36の左上のスケッチような摩周火山灰層Ma−lがそれ以下の30〜40°S〜SSW傾斜(ほぼ変位部の延長方向に直交)のローム質砂層を蓋する様が認められる.下位の傾斜層は古い地すべりの可能性もあるが,テクトニクスによるとすれば,標津断層帯で発見された唯一の活断層露頭となる.