(2)測定方法

FT年代測定およびFT長解析フローチャートを図3−1−5に示す.測定手法としては,ジアリルフタレート(diallyphthalate:DAP)と称するプラスティック板を誘導トラックの検出材とした外部ディレクター法を採用した.測定面を結晶内部面とするED1法,または外部面とするED2法がある.DAPは従来の白雲母(マイカ)に比べて熱中性子照射によって放射化されず,FTの自動計測ができる楕円のエッチピットをもつ点で優れている.

測定結晶としてジルコンを用いた場合、まず100粒子程度をPFAシートに溶入した後、結晶外部面の自発トラックをエッチングする.エッチングには,KHO:NaOH(=1:1)の共融液を225℃で用い,最もエッチングされにくい結晶C軸にほぼ平行なトラックが出現し,トラックの方位分布が等方的になるまでエッチングを行う.ED1法を適用する試料では,外部面のトラックが消えるまでダイヤモンドペーストを用いて研磨した後再度エッチングをおこなう.

熱中性子照射は、日本原子力研究所JRR−4原子炉の気送管(pneumatic tube)において3.5MW時に15〜90秒間行う.この位置でのAuのカドミ比は約3.6である.総熱中性子線量の測定には標準ガラスNIST−SRM612にDAPディテクターを密着させて用いる.この標準ガラスを試料マウントが入ったホルダーの上下にセットする.DAP上の誘導トラックのエッチングはKOH(15%)+エタノール(65%)+水(20%)の溶液(60℃)で2分間行いる.

鉱物上のトラックの計数(自発・誘導トラック)は上述のどちらかの測定システムで行い,標準ガラスの誘導トラックはすべてモニターシステムで行う.標準的な測定では,ジルコン(あるいはアパタイト)のトラック計数を行う前に,計数に適した粒子について30粒子になるまでランダムに顕微鏡写真を撮り,粒子写真上で計数領域を記録する.

測定の再現性は,年代標準試料を繰り返し分析した結果,ゼータ値が一定範囲内に収まることで確認される.さらに年代標準試料(Fish Canyon Tuff )を同時照射し,その分析から測定の再現性があることで確認できる.

年代値の測定誤差は誤差式に従い計数誤差として表示しますので,総トラック計数に依存することになる.例えば,計数トラックの種類にかかわりなく1000本あるいは2000本のカウントに対して,1σで3あるいは2%の測定誤差が伴うことになる.