(3)光地園断層

光地園断層では,広尾町上野塚地区について平成13年度に地表踏査,群列ボーリング調査を行ったが,リニアメントの北半は植生繁茂・耕作物栽培のため,南半は調査時の悪天候と野塚川両岸における著しい樹木・下草繁茂のため,必ずしも全線において地形を十分に観察できていたわけではない.このため本年度はそれらのヶ所について,リニアメントの位置・形状を確認するための補足調査を実施した.

この付近では,平成13年度調査で実施した空中写真判読・地表踏査により,Hi−t9面(石坂面相当),Hi−a1面(沖積面)および沖積錐(扇状地)からなると考えられた.扇状地は周辺に広く分布するHi−t9面ではなく,Hi−t8面に載る(今年度実施トレンチ調査による.なお平成13年度調査ではHi−t7面上に形成されたと解釈していた)

リニアメントは広尾町上野塚の平成13年度ボーリング調査地から野塚川北岸まで,北東−南西の走向で,東上がり2mの”撓曲崖”状の地形として延びることが改めて確認された(図3−1−4−13図3−1−4−14および図3−1−4−15).比高は平成13年度ボーリング調査地付近〜野塚−上野塚間の町道付近までは2m前後であり,大きく変化しない.蛇行河川による浸食崖に似た東西方向へのリニアメントの”ふれ”もまた観察される.東西方向の”ふれ幅”は2〜5m程度である.平成13年度ボーリング調査地点付近(図3−1−4−16:扇状地)では地下に埋没するHi−t8面および扇状地に東上がり2mの地形変位が,それ以南ではHi−t9面に北東−南西に延びる東上がり2mの撓曲崖状地形が存在すると解釈していた(平成13年度調査).しかし,今年度調査により野塚−上野塚間の町道の北側15mにおいて”撓曲崖”の下盤側(図3−1−4−13の地点)で段丘礫層上に砂層・クロボク土が累重することが新たに見いだされ,クロボク土基底から4660±70yBP,クロボク中位から2610±60yBPの補正14C年代が得られた(表3−1−3−1).”下盤側”の地形面はHi−t10面ないしHi−a1面に相当することになる.”上盤側”の地質断面は現時点では観察できていないため,町道付近のリニアメントが変位地形か段丘崖であるかは今のところ断定できない.今後慎重な検討を要する.

東上がり”撓曲崖”は町道以南では比高がやや上がり最大4m程度に達し北東−南西走向で延びる崖地形となる(図3−1−4−15).この崖地形は町道と野塚川の中間点付近において,その比高が変化せずに野塚川に沿って東西に延びる段丘崖(比高4〜5m)に移行し,それ以南(Hi−a2面相当の沖積段丘群)には延長されない.現時点では,この崖地形も段丘崖の可能性が否定できず,今後の課題である.

上野塚地区においては,低位段丘上のリニアメントは,平成13年度ボーリング調査地からさらに北方の丘陵へも連続しているように見える.このリニアメントは,丘陵地の地形が,リニアメント西側では山地高度が高く斜面が急峻で谷が深くなることや谷の出口に明瞭な沖積錐(扇状地)が発達すること,東では山地高度が低く斜面が緩やかで谷が浅い傾向があることにより判読可能なものである.しかし,このような西側が高まる地形は,このリニアメントが地質断層である広尾断層(東郷(1983)によれば,上野塚周辺では広尾断層と光地園断層のリニアメントはオーバーラップする)であり,それを境に接する西側の古第三系中ノ川層群(粘板岩・砂岩)分布域と東の新第三系豊似川層(礫岩・泥岩)分布域での地質の違いで組織地形が形成されたことによる.すなわちこの組織地形による地形コントラストを持って光地園断層リニアメントとすべきではない.それでは,光地園断層の活動により形成された地形要素を,広尾断層による組織地形から分離できるかどうかについて,以下に検討する.

光地園断層は東郷(1983)により光地園面(高位面)において東上がり10mの変位を持つとされる逆断層であり,平成13年度ボーリング調査においても同様に東が高い埋没崖が確認されている.北側丘陵地では平成13年度の空中写真判読・踏査により拓北面相当と推定される開析段丘面がリニアメントを夾んで丘陵頂部に存在していること(東郷(1983)により東上がり比高10mの変位があるとされた地形面に相当する),現地測量の結果その高度はリニアメントを夾んで変化しないことを示した.本年度,丘陵の南斜面を再度精査した結果,開析が非常に進んでいるものの,比較的定高性のある尾根および緩斜面(開析の進んだ小段丘?)を確認した.この緩斜面付近において,銭亀−女那沢テフラに対比される可能性がある,角閃石に富む火山灰が観察された.これらはその形態・比高から,上野塚東方に分布するHi−t6面(忠類面相当)に対比される可能性がある.これらの微地形において東側が上がるような地形変位が存在するか,地形測量を行った.その結果を図3−1−4−12−2に示す.リニアメントを夾んで西側の痩せ尾根は定高性が非常に良いこと,リニアメント東側の残存地形面は西側に対し約12m高いことが判明した.地形面の開析が著しいこと,堆積物に乏しく現状では地形面対比の根拠に乏しくこれをもって変位と判断するのは困難だが,北側の丘陵地においてもリニアメントに沿って東あがり10m前後の地形変位が存在する可能性は指摘できる.