(2)東居辺断層

(1)地形面堆積物

断層付近には,Na−t2面に相当する可能性がある,開析された高位段丘面が認められる.礫支持で風化の進んだ円礫層(安山岩〜デイサイト)を主とするが,露頭に乏しく詳細不明である.礫層上面より上位には白色の粘土・ローム層が累重するが,ローム層は多くの地点で厚さ1m以下程度であり,Spfa 1テフラに代表される広域テフラをことごとく欠く.押帯断層周辺と同様に,礫層より上位の堆積物については,その大部分が失われている可能性が高い.

(2)地質と断層露頭

断層リニアメント付近には,池田層(居辺山層),芽登凝灰岩,渋山層が分布するとされる(岡,1999など).しかし,道路付近の露頭が被覆されてしまって居る等,観察可能な露頭に乏しく,本踏査ではそれらを十分に確認するには至っていない.活断層露頭も確認できなかった.東郷・小野(1994),東郷(2000)により,居辺山層(池田層),芽登凝灰岩,渋山層および北居辺T面の撓曲露頭が報告されている.

(3)変位量と平均変位速度

地表踏査・坑井資料から推定した地質構造からは芽登凝灰岩に50m程度の東上がり変位が想定される(図3−1−3−19),中期更新世以降には構造運動が生じていたことは確実である.Na−t2面にも,士幌町北上居辺ないし地質断面(図3−1−3−19)において比高10m程度の撓曲変位が想定される(ただしNa−t2面は地形面の開析が著しく,初生的に平面を成していた保証のない扇状地性段丘面のため精密な議論には不適である).残存しているロームは風化・粘土化が進んでおり,十勝平野南部における幕別面相当に発達するものと類似する.幕別面にはToyaテフラが載ること(平成13年度調査)から,Na−t2面形成年代の上限は少なくとも105kaよりは古いとみなせる.一方その下限は,Na−t1面を覆う上旭ヶ丘軽石流の年代が松井・松澤(1985)および石井ほか(2001)より0.3〜0.5Ma程度と推定でき,地形面の開析度からはむしろこの年代に近いと推定できる.これは東郷(2000)による北居辺T面(Na−t2面),芽登凝灰岩,居辺山層(池田層)の構造に大きな差がないこととも調和的である.

これらよりNa−t2面年代を0.105〜0.5Ma(0.5Ma寄り)と仮定すると,同面の地形変位量が10mなので平均変位速度は0.09〜0.02m / ka(0.02m寄り)となり,C級下位の極めて低い活動度となる.一方で,芽登凝灰岩(0.5〜1Ma)の変位(50m)から想定される変位速度は0.05〜0.1m/kaである.このことは東居辺断層の活動度が芽登凝灰岩堆積以降,低下している可能性を示唆する.